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14.オロチのメンバー

 

 館内に戻ると爆発音と共に建物が大きく揺れた。雅楽の姿は無い。五階から食堂のある一階まで階段を駆け降りる。血の匂いが立ち込める。無数の叫び声と窓ガラスの割れる音が激しくなる。二階には鬼の死骸が散乱していた。黒い血が一面に広がる。その階下、食堂の方からは禍々しい咆哮が響いていた。

「————クソっ!!」

 食堂に飛び込むと庭に面する窓ガラスが全て割れ、外へと吹き抜けになっていた。庭を睨みつける雅楽が目に入った。

「蓮、迂闊に飛び出すなよ。アイツに一瞬でやられるぞ」

 庭は地獄絵図と化していた。引き裂かれた夥しい数の鬼の死骸。その中心で暴れる巨大な化物。

「全く、凄絶だね檮杌(とうごつ)は」

「ゴローさん! 無事だったんですね!? これはいったい!?」

「うん。僕の読みが甘かったみたい。まさかこんなに早くこの場所を嗅ぎつけられるとはね」

「皆んなは何処に!?」

 ゴローPは答える代わりに庭を見た。中心で暴れる巨獣の周りにも鬼と対峙する異形の影があった。

「妖怪……?!」

 爆発音と共に食堂から火の手が上がる。鬼と対峙する者達の顔が赤く照らされる。

「おい、あれって……」

「ああ。どうやら蓮、オロチのメンバーは全員人間じゃないみたいだ。後でそこのオッサンにはしっかりと説明してもらわねーとな」

「おっと、お喋りしている暇は無いみたいだよ?」

 ゴローPの言う通り、森の奥から何か巨大な足男が近づいて来た。木々を押し倒し現れたのは高さ五メートルはある一つ目の鬼だった。

「アイツは俺が相手する」

 雅楽は漆黒の羽を広げ舞い上がった。森の奥からは絶える事なく塗鬼や豆鬼が湧き出る。それらを凄まじい速さで切り刻んで回る銀色の影があった。あまりの速さにその姿を目で追う事が出来ない。一帯の鬼が全て肉塊となり顔を見せたのは白亜ユウだった。その耳と尾の形状は狐の妖のものだった。

「キリがねーな」

「また来るみたいだよ」

 金地颯太がうんざりした声を出す。颯太は化け狸特有の丸い尾をしていた。再び茂みから鬼が溢れ出る。

「こういうのは僕に任せて」

 美しい金の頭髪からは白い猫の耳が飛び出していた。エヴァン・オニールが何かを唱える。すると、鬼と同数のエヴァンが突然空中に現れ鬼達に降り掛かった。鋭い爪で鬼の喉を掻き切ると魔法の様に一瞬でその姿を消した。

「面倒臭そうなのは粗方片付けて来たぞ」

 森の奥から須磨毅がのそりと現れ何か黒い塊を放り投げた。それは四つの鬼の首だった。ツノの形状から雑魚鬼とは異なり力を持った鬼だと分かる。そして、須磨毅の頭上にも湾曲した禍々しいツノが生えていた。

「これであのデカブツ以外は全部片付いたんじゃない? たく、脳筋は直ぐに力比べしたがるんだから」

 オムカルが呆れた声を出した先では、一つ目の巨鬼と雅楽が両手を組み合い押し合っていた。しかし次の瞬間、一つ目鬼の頭部が消えた。庭の中央にいた巨獣が気がつくと雅楽の背後に移動していた。何かを咀嚼する口からは黒い血がこぼれ落ちていた。

「ゴローP、アイツは何だ……?」

 黒い巨体には白い縞模様。その毛はどす黒い血でベトつきぬらりと汚れていた。ゆっくりと振り向いた顔は人とも鬼ともつかない無表情なものだった。

「————まさか、ここまでやるとはね。数の力で何とかなると思ったけど、とんだ計算違いだったよ」

 森の奥から誰かが歩いてくる。赤く照らし出されたのは茶色の着物を着流した細身の男だった。額の中央で左右に分けられた黒髪は膝まで届く程に長い。

「どこで見つけてきたんだい? これだけの手練れが揃っているとは聞いて無かったよ」

「やはりお前か、神野(しんの)。どこで見つけたかは内緒だよ」

「相変わらず意地が悪いな五郎(ごろう)左衛門(ざえもん)。まあ大体の戦力はこれで分かったよ。 おっ、それと童子(どうじ)も久しぶりだね。ねえ、そろそろボクのところに戻っておいでよ? また前みたいに楽しくやろうよ」

「ふん、ごめんだな。お前のところに居れば楽は出来るが退屈で内側から腐っていく気分になる」

 須磨毅が吐き捨てる様に言った。

「おい神野、今度は何を企んでいる?」

「人の質問には答えないくせに聞くのかい? まあボクはキミほど性格が歪んでいないので教えてあげるよ。次の新月の夜に、八岐大蛇(やまたのおろち)が復活する。此の世は恐怖に包まれ、再び妖怪は力を取り戻す事になる」

「次の新月だって!?」

「珍しく取り乱したね。そう、後一月も無いよ。場所までは教えられない。五郎左衛門、止められるなら止めてみな」

 謎の男はゴローPを嘲笑う。しかし、後ろに立つ制服を着た少女に何か囁かれると態度を改めた。場違いなその少女は遠目に見ても美しい事が見て取れる。その顔を何処かで見た気がするが思い出せない。

「さて、そろそろ失礼するよ。新月の夜にまた会えるのを楽しみにしているよ」

「待て、神野っ!!」

 ゴローPが飛び出すの同時に二人の姿は一瞬で消えた。後には夥しい数の鬼の死骸と数々の疑問が残された。

「さて、何がどうなっているのか教えて貰おうか?」

 雅楽の言葉で全員がゴローPを見た。

「うん。でもその前に、電話を一本かけても良いかな?」

「電話? 誰にだよ?」

「国家公安委員会委員長」

「あん?」

「ここの後片付けと、あと急ぎで三種の神器の手配をお願いしないといけなくなったから————」






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