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13.審査の結果

 

 ミンジェのパフォーマンスが終わり、参加者全員がステージにあがる。合宿十日目、最終審査となるソロパフォーマンスが行われた。選曲から演出までを参加者自ら行う実践形式で、スタッフの手を借りながらもプロとして求められる"期間内で仕上げる能力"が問われた。

「はい、皆さんお疲れ様でした。素晴らしいパフォーマンスを披露してくれた事に心より感謝します。では、これより二・五次審査の通過者を発表します」

 ゴローPの声に一堂緊張が走る。

「天童雅楽、須磨毅、エヴァン・オニール、白亜ユウ、金地颯太、オ・ミンジェ、水瓜蓮、真淵オムカル。以上八名が今回の審査の通過者となります」

「えっ?……それって……」

 室内に動揺が広がる。

「はい、全員合格です。皆んなおめでとう」

 ゴローPは少年の様な目で微笑んだ。

「僕の見込んだ通り、皆んな素晴らしい素質の持ち主でした。更に今日のパフォーマンスは僕の想像の遥か上をいく出来でした。皆んな、この場に集まってくれて本当にありがとう! そして、この八名で一ヶ月後にデビューする事が決まりました! 今夜は打ち上げを行うので、後で全員食堂に集まってね」

 参加者達は互いに顔を見合う。グループパフォーマンスから始まった十日間。互いに刺激し合い、時には意見が合わず衝突する事もあった。だがソロパフォーマンスを終えた今、全員が互いの実力を認め合っていた。さり気なく的確なアドバイスをして回ったゴローPの手腕も大きい。この八人なら何か凄い事が出来る。興奮と期待がそれぞれの胸の内で暴れていた。


 食堂に入ると既にゴローP以外の全員が席に着いていた。いつも通り金地颯太の隣に座る。

「お疲れ、蓮。打ち上げってお酒飲めるのかな? 美味い日本酒飲みたいな。こっち来てから一滴も飲んでないからね」

 颯太は恍惚とした表情で呟いた。確か未成年の筈だが。メンバーの中でも一番小柄な颯太は、可愛らしさの塊の様な少年だった。ゴローPいわく天性の愛されキャラだそうだ。だがそのダンスのキレはメンバーの中でもトップクラスで、甘い歌声と相まってエンターテイナーとして完成されていた。

「私はキンキンに冷えたビール浴びるほど飲みたいわね。だって今夜は祝杯でしょ?」

 馬淵オムカルが皆を見回す。インド人と日本人のハーフであるオムカルは長身でエキゾチックな顔立ちをしていた。インド舞踊の踊り手である父から幼い頃より徹底的に踊りを叩き込まれ、その踊りのスタイルは顔の筋肉の一つ一つを別々に動かし、指先の繊細な動きとダイナミクスな身体の躍動をもって壮大な物語を描くものだった。朗々と響き渡る歌声も聴く者を圧倒する。今回の参加者で一番パフォーマンスの個性が強いのがオムカルだった。

「俺は酒はパス。未成年だし」

「僕もアルコールは摂らない主義なんで遠慮しておくよ」

 ユウは銀髪が印象的な細身の少年だ。その身のこなしの速さはメンバー随一だ。ウィスパーな声が一瞬でその場の空気を変える力を持つ。

 エヴァンはアイルランド出身で、地元では知らない者はいない名家の末っ子だ。十人いる兄は皆が国の要職についている。日本のサブカルチャーに幼い頃から強い憧れを持ち、半ば家出同然で今回のオーディションに参加した。アニメで覚えたという日本語は外国人とは思えないほど流暢だ。西洋人にしてはかなり小柄だか、それは一族全員に共通する特徴らしい。金髪、碧眼、品のある佇まい。まるで西洋人形の様な風貌だが、そのパフォーマンスはメンバーの誰よりもアグレッシブだ。


「皆んなー、お待たせー! 乾杯の前に、少し良いかな?」

 ゴローPは来るなりプロジェクターにパソコンを繋いだ。

「まず、君達のグループ名を発表します。グループ名は————」


 "////OROCHI////"


「オロチ??」

「そう。君達のグループ名はオロチです!」

 一同にどよめきが起こる。

「あの、前後にあるスラッシュマークは何ですか?」

「うん。これがあった方が何かカッコいいじゃん」

 その後、今後のスケジュールについて説明があった。まずは一ヶ月後に行われる音楽イベントに参加し、オロチのお披露目Liveを行う。その後も年内は幾つかのイベントに参加、年末は大型の歌番組に複数出演。圧倒的な実力を持ってオロチの名を知らしめる作戦だった。

「という訳で、これから一ヶ月はデビューに向けて容赦無く追い込んでいくからね! 僕達の武器は他を圧倒する実力とスピード感だから、皆よろしく! さて、難しい話はこれぐらいにして、今夜は思いっきり楽しみましょうか。では、カンパーイ!!」


 宴が始まった。ユウとエヴァン以外はかなりのハイピッチでグラスを空けていく。大皿に山の様に盛られていた料理達も見る見る減っていった。

「蓮、お疲れ。楽しんでる?」

 ゴローPが隣に座る。

「あ、はい。まあまあ」

「それなら良かった。今日のパフォーマンス、今までで一番良かったよ」

「ありがとうございます。あの、前から聞いてみたかったんですけど、二次審査の時に俺の歌った曲を地味だって言ったじゃないですか。それでも何で俺を選んでくれたんですか?」

「ああ、それね。蓮の気持ちがしっかりと届いたからだよ。今日もあの曲を選んだけど、あれさ、誰かをイメージして歌ってたでしよ? 僕の経験上、人を感動させるにはリアリティが必要なんだよね。だから僕は、素直に今日の蓮の歌声にも感動したんだ。それと、蓮にはまだまだ隠された力があると思ってるから期待してるよ。じゃ、この後も楽しんでね」

 ゴローPは俺の肩を軽く叩き席を立った。

「しっかし、ゴローPって何者なんだろうね? この宿泊施設もスタジオも、敷地内にあるもの全てがゴローPの所有物らしいよ」

 颯太が入れ違いに隣に座る。お猪口と徳利を持って移動している様だ。

「正体は不明だけど、凄い人ではあるな」

 実際、ゴローPはこの合宿期間中に参加者達の能力を飛躍的に伸ばした。本人も自覚していない才能を見抜く嗅覚が人並み外れて鋭いのだ。

「蓮、ちょっといいか?」

 雅楽が気難しい顔で立っていた。グループパフォーマンス以来、殆ど口をきいていない。

「別に構わないけど」

「それなら少し外に出よう」


 雅楽について行くと屋上に出た。宿泊施設は勾配の急な斜面に建っており、屋上部分も裏手は森になっていた。明かりは遠くに見える海岸線に広がる街並みだけだった。恐らくここは山の中腹なのだろう。曇っていて空気が重い。

「お前と一度、ちゃんと話しておかなければと思ってな」

「ああ、俺も同じこと考えてた」

「俺はお前が嫌いだ」

「あん? また喧嘩をふっかけてんのか?」

「まあ話は最後まで聞け。お前のすました態度は嫌いだが、お前のパフォーマンスは認めている。俺はこのオーディションに全てをかけてきた。どうしたら認めてもらえるか、何度も自分と対話した。そして今、デビューに向けての具体的な道が用意された。俺はこのグループを最高のものにしたい。だから下らない感情なんかでグループのポテンシャルを下げたくはない。お互い、プロフェッショナルにいこうぜ」

「そういう事なら俺も同感だ。俺もこのオーディションには生半可な覚悟で挑んだ訳じゃない」

「それなら和解成立だな。なあ、蓮。お前はパフォーマンスを通じて何を伝えたい? 俺はな、自分に価値を見出せない人達に、自分を信じる気持、自分を認める事を伝えていきたいと思っている。俺は特殊な環境で育ってな、無能であるが故にゴミの様な扱いを受けて育った。だがある時、たまたまテレビで目にしたライブ映像に衝撃を受けたんだ。そこには見たこともない動きで歌い踊り、その彼を見て熱狂する何万という人々が映っていた。俺もああなりたい。初めて自分で何かをしたいと思った瞬間だった。人はなりたい自分になれると言う事を、この身を持って証明したいんだ」

「雅楽……どうやら、お前の事を少し誤解していた様だな。俺はな、俺を応援してくれているある人の為に輝き続けたいと思ってる。その人が笑顔でいられる様に、常に最高のパフォーマーでありたいと思っている」

「ふん、女の為か」

「安っぽく言うなよ! そんなんじゃないから」

「まあいい。機会があったら会ってみたいものだな、お前をそこまで突き動かす女に」

「いや、お前にだけは絶対に会わせん」

「さあ、そろそろ戻ろう。皆んな酔い潰れちまうからな」

「はいよ、飲み直しだなこりゃ」

 雅楽が突然立ち止まる。その目は何処か遠くを見ていた。

「おい、どうした? 早く戻ろうぜ——」

 一瞬遅れて理解した。数え切れない程の異様な気配が周囲に突然現れたのを。

「蓮、先に戻ってろ」

「おい雅楽お前——」

 その時、突然森の中から黒い影が無数に飛び出した。

「何だこいつら!?」

 十匹近い塗鬼(ぬりおに)が腐臭を放つ。垂れ流された唾液によって黒光りした体がじわりじわりと迫る。

「雅楽! お前は食堂に戻ってこの事を皆んなに伝えろ!」

「馬鹿言うな! 痩せっ細いお前の方が伝えに行け!」

「いや、俺は大丈夫だから——」

「あぁぃやぁらぁらぎゃーっ」

 塗鬼達が一斉に飛び上がった。雅楽を守ろうするがこちらにも四匹の塗鬼が迫る。一匹の腕を掴み残りの三匹に叩きつける。しかし掴んだ腕は滑り塗鬼はあらぬ方へと飛んだ。残りの三匹に手足を掴まれる。

「雅楽ーっ! 逃げろぉー!!」

 揺れる視界の中で雅楽を探す。雅楽は……一人立っていた。その周りには五匹の塗鬼が潰れていた。

「だから逃げろって言っただろう?」

 雅楽の拳が手足を掴む塗鬼達を叩き潰す。

「お前……全く、とんでもない馬鹿力だな」

「よし、戻るぞ————」

 雅楽が館内へ向かいかけた時、突然木々が激しく揺れ無数の影が現れた。先程とは比べものにならない数の塗鬼が雅楽を目掛け一気に跳躍する。

「雅楽っ!!」

 塗鬼達は折り重なる様にして雅楽を飲み込んだ。この数の鬼を一気に相手にするのは至難の業だが迷っている時間は無い。雅楽が押し潰される前に助けなければ。塗鬼の山に飛び掛かる。しかしその瞬間、爆音と共に塗鬼達が一気に宙に舞った。そこには巨大な漆黒の羽を生やした雅楽が立っていた。

「ったく、うぜーんだよ……」

「お前……その格好……」

「蓮、細かいことはあとだ。食堂に戻るぞ」

 雅楽が館内へと走り去った。膨大な数の塗鬼達は一匹残らず絶命していた。気がつくと建物一帯には得体の知れない気配が充満していた。






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