第21話 たどり着いた終末
「どうしてここに呼び出したか――分かるか?」
明人は押し殺した声で、そう聞いた。
社殿の裏に入って行こうとする明人をさすがに不審に思ったか麻衣は立ち止まったが、大した警戒心はなく、肩を掴んで押し倒すと簡単に地面に転がった。
用意してきた粘着テープを強く押し当てて口を塞ぎ、声をあげられるのを防いだ。
倒れた麻衣にのしかかり、動きを確実に封じた。
駐車場に植えられている桜が、明かりに照らされ白黒の花吹雪を降らせてくる。
麻衣は塞がれた口でうめきながら、髪を振り乱し首を振った。
「知らない? 分からないって――?」
麻衣は死に物狂いでうめきながら、激しく首を振る。
明人はよく覚えていた。この神社は――
6年前、明人と麻衣が結婚式をあげた場所だ。
「この場所を覚えていないわけがないだろう――だって、お前はここで……」
麻衣がSNSに投稿した、赤い宝石のついた指輪が明人の頭に浮かんだ。
40万で売れたという結婚指輪。麻衣はこの場所の記憶を、指輪と共に精算してしまっていたのだ。
「……」
明人が一生懸命働いて貯めた金で買った麻衣のための結婚指輪は、「大きめの小遣い」となって消えてしまった。
目の前でもがく麻衣は、もうあの頃の面影を失っている。姿は同じでも、共に人生を歩んでいくと誓ったあの麻衣ではないのだ。
神社めぐりが好きだった麻衣が強く希望して、この神社で神前結婚式をあげた。その時に、そう神前に誓った。
「神様に誓ったんじゃないか。お前が、そうしたいって――」
明人の声が、静かな震えを帯びてきた。
麻衣はただ千切れんばかりに首を振るだけで明人の顔を見もしない。
今ここに組み伏せられているのは、その誓いを破ってあの大切な指輪を小遣いに変えた女だ。
ストーカーと呼ばれ、家族のための買った車と家でひとりで過ごす明人を、もう顧みもしない女なのだ。
「はあ……覚えて、ないのか……」
まだ覚えていてくれたのなら、ここで手を引くことも明人は考えていた。
しかしその期待と逆の反応が、明人の背中を終末点へと押し出した。
「ここで一緒に誓ったことも、今日が何の日なのかも――お前は」
明人はこの計画の実行日を、4月1日に決めていた。
それは6年前、ここで結婚式をあげたその日だった。
一生の誓いをしたその日を、永遠の別れの日と決めたのだ。
手を引く理由がなくなってしまった明人は、大きく痛々しいため息をついた。
「分かった。もう、分かった……」
いちど目を閉じてから、ぎゅっと口を結ぶ。
決心を固めて、歯を噛みしめながら目を開いた。
「ここでその神様に見てもらえよ……」
その喉を両手で掴んで、親指でグッと押し込む。
麻衣は明人の体が揺れ動くほど激しく手足をばたつかせる。
神社の境内に生えた草々が、がさがさと音を立てる。
「……今のお前を!」




