第16話 後日談
日曜日――
築丘子安神社の境内に、片桐はひとり佇んでいた。
駐車場に植わっている桜が、その花びらを境内にまで舞わせている。
今日は休日であったが、上田に呼び出されてこの神社を訪ねていた。
『自分と同類の人間を、断罪できますか』
『……どういう意味でしょう?』
あの時、片桐は長谷部の意味ありげな言葉を解せず聞き返したが、長谷部はそれ以上話しはしなかった。
・・・・・・
「おお片桐、早いな」
参道の石段を上って、上田が顔を見せた。
「ここで話すのか?」
「だって長谷部さん部署違うし。勤務時間中にはこの話持って行けないよ」
「だからって日曜にお前、新妻さんを放っておいていいのか?」
妻をひとり家に置いて片桐たちをここに呼び集めていた上田は、それを言われてから気付いたが、今日はもうどうしようもなかった。
あの日、須藤から長谷部の妻の死について聞かされた上田は帰ってからそれとなくがん検診の話を振ってみたが、心配しすぎだよ、と笑われてしまった。
ありがとう、と言った妻の笑顔がずっと頭の中に残っている。
「埋め合わせ、来週キッチリやれよ」
「…‥そうする」
・・・・・・
約束の時間ちょうどに、長谷部はひょっこりと姿を現した。
「いやあお待たせしました。ちょっと、熊さんがついて来てしまったもので」
「誰が『獰猛な熊』だ。俺あ知ってるぞ、お前ら陰で俺の事そう言ってるって」
長谷部についてやってきた大柄な男、「獰猛な熊」こと須藤は人間ふたり分の存在感をまとっている。
場が急に賑やかになったように思われた。
「まあ、それはいいとして――」
長谷部のそばを離れた須藤が、若手ふたりに強い視線を浴びせた。
「日時と場所は……ここぐらいしかないだろうなあ。話の内容的にも。だがこいつに話すのか、あのクッダラン事件の内容を」
そう言ってから、長谷部の顔をちらりと見てため息をつく。
「……ま、話すしかないのか。『知りたい』って顔してやがる。……いまここで話さなかったら、いずれ俺のところに聞きに来るだろうしなあ」
長谷部を見て、須藤は首を振った。
上田は他の3人の顔を見て言う。
「それでは……いいですね?」
誰も、何も言わない。
みなそれぞれの表情で、上田に先を促している。
「4月1日深夜にこの場所で発生した殺人事件について、調査の結果分かったことをお話しします。裏付けの作業はまだ途中ですが、おおむね事実と考えてよいと思われます」
・・・・・・
小林の所持品を確かめに行った上田はすぐ、小さな赤い宝石のついた指輪を発見した。
この指輪とバス車内映像の指輪について小林に尋ねたところ、小林はあっさりとどちらも自分の物であると答えた。
そしてそのまま、犯人であることを自供した。
小林に対する殺人の容疑は、確定した。
・・・・・・
「……ずいぶん簡単に認めましたね」
長谷部が抑揚なく言う。
「ああ。もっともらしい言い訳もしゃべったそうだな、ペラペラと。自分が不利になりそうだと思って、逃げにかかったんだろうよ」
須藤が軽く悪態をついた。
「ですが小林の行動は――」
「分かってる、俺も報告書は読んである。俺の感想はともかく、お前が長谷部に教えたいもんはそれじゃねえんだろ」
須藤が半歩下がって、上田の前を空ける。
上田は続きを話し始めた。
「取り調べの結果、犯行に至るまでの経緯と、犯行当日の行動経路、そして、カメラの前でとった不自然な動きについての詳細が分かりました――」




