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第八話 ゴースト・アンド・ドラゴン

貴方は自分の運命を打ち砕くだけの勇気はありますか?

今ある幸せを全て捨て去る事は出来ますか?

99%失敗するとわかっていても、残りの1%に自分の全てを懸ける事は出来ますか?

血にまみれた自分の姿を大好きな人に見せる事は出来ますか?

破壊のサイクルを打ち砕く事は出来ますか?

死ぬ事を受け入れますか?

この話は自分が愛した男の為に今まで積み上げてきた物全てを捨て去った命儚き、悲しき女の話

人は願望を叶える時、自分の一番大事な物を捨てているのだ…気付かぬうちに。


2076年 12月 17日 火曜日


私は犯罪者だ…人を殺して、自分の命を守る。

なんて綺麗事だ。本当は私は既に死んでいる。

三日月陽炎。アイツを救え無かった。その時から私の中の私は既に死んでいる。

絶望の運命に立ち向かい、守るべき人を守りきって、笑顔で死んでいった。

私の金髪とは対照的に彼の銀髪はまるで、かつて私の先祖が愛用した聖剣。エクスカリバーの様だった…

私は彼が熱心に弥生を守ろうとする姿に見惚れていたのかもしれない。

私は気付かなかった。まさかこんな、精神病の一種と思っていたこの感情のせいで、私は全てを捨て去る事になるなんて。


今日も殺人のターゲットを探す。誘拐犯を殺したり。いじめっこを撃ち殺したり。弥生の想い人を殺したり…

私は血にまみれた呪いのドラゴンだ。

「ウェルシュ」この呪いの名前は決して消える事はない。ただ一つ、この呪いの名前をすてる方法がある。それは天使が堕天使になるように、別の種族の物と結婚すればいい…

陽炎の事は最初は妥協してコイツで良いか…そう思っていたが、陽炎を殺してから、私の想いは加速していった。時期に彼を私の伴侶にしたいと思う様になってしまった。

私はドラゴン。彼は人間。2つの種族が混ざり合った試しは無い。私はどうも報われないな…

どうやら私を呼ぶ声が聞こえた。また私は誰かを殺すのか…

依頼者は男だった。試しに名前を聞いた事を私は永遠に死ぬまで後悔し続けた。だが、聞いて良かった…もう、あの人みたいになって欲しく無いんだ。

「俺の名前か?平山陽炎。中学生だ」

驚いた…!まさか、また陽炎に会えるなんて…

喋り方。話していて分かる性格の良さ。三日月陽炎にそっくりだ。

今度は絶対に死なせたりしない…例え私の全てを捨て去ろうが、構わない。

「誰を殺せば良いんだ?私はネクロマンサーだ。お前の望む全てを私が叶えてやろう。

その代わりもう、私を置いて行かないでくれ…

「俺の友達、いや、元友達の紅龍騎を殺してくれ…今のアイツは普通じゃない!俺が殺してやらなくちゃ…」

今のアイツは普通じゃない?人間はいつだって普通じゃないだろう?だから今まで私は沢山の人間を殺して来たんだ…陽炎も変わった男だったな。自分の命よりも守りたい大事な人がいるなんて…

妹を憎む私は姉失格なのかもしれんな。

私は何が普通じゃないのかが気になり、陽炎。いや、三日月陽炎ではなく、平山陽炎に聞いてみる事にした。

「龍騎はいきなりおかしくなったんだ。…俺をいきなり殴ったり。何も関係無い人にも八つ当たりして。俺に迷惑かけて…だから、俺が最後まで責任を取りたくて…」

またか、また、誰かの為に自分の命を捨て去るのか…?もう、お前を死なせたく無いんだ…

だけど…私はネクロマンサーだ。依頼を断る事など絶対に不可能なのだ。私は指示に従う事しか出来ない。私は低機能なロボットに過ぎない。人を殺す為だけに生まれた。まるで私は兵器の様だ。

私は兵器みたいな自分が嫌いで、嫌いで堪らなかった。

「貴様の話は理解した。早速、紅龍騎を探し出して殺す。だが、任務を遂行した暁にはお前の胸に…」

私が話をするよりも早く、陽炎が私の言葉を遮った。

「分かっている。それを踏まえた上で、俺はお前と契約したいんだ」

「なら、契約成立」

私は断る事など絶対に出来やしない。私は血にまみれたドラゴンだから。私は人を殺す事しか知らない兵器だから…

兵器に愛なんて…兵器に幸せなんて…ありえないんだ…


私は紅龍騎に会いに行った。そのままソイツを殺して、陽炎も刻印魔法で殺す…そう思っていたんだ…紅龍騎はただの人間じゃなかった。


私は陽炎に教えて貰った情報を頼りに紅龍騎を探した。

目の前に居た男は、金髪で、毛先が赤く染まっていた。目はエメラルドの様に綺麗な碧色だった。

私はソイツに声をかけた。

「お前、紅龍騎か?お前に話が…」

私の話が終わる前にソイツはいきなり、私の見覚えのある技を放ってきた。

「バレット…」

私は間一髪躱したが、あれが当たっていれば私は即死だっただろう。

「お前…まさか、ネクロマンサーか?」

龍騎は私の予想通りの返事をした。

「そうだ。俺はネクロマンサーさ、階級はお前と一緒くらいか…」

「見た所。お前はウェルシュ家の者か、人を殺す事しか知らない殺人兵器が…」

私は激怒した。まさか、同胞に私をバカにされるなんて、思って無かったから…

「お前…この私を怒らせるなんてな。命は無いと思え」

「お前は俺には勝てない。俺はドラゴンスレイヤーだからな」

ドラゴンスレイヤーだと?!既に滅びたはず…私とは相性が悪すぎる…

龍騎はいきなり聖斧バルディッシュを振り下ろした。

地面に打ち付けられたバルディッシュは轟音を立てて地面を抉った。途端に私の本能が恐怖に包まれた。こんな感情、初めてだ。死への恐怖心を抱くなんて…

「お前…もしかして、俺が怖いのか?天下のウェルシュ家の娘がドラゴンスレイヤーごときにビビるなんてな!お笑いだな!」

私は何も言い返せなかった。それは真実だから、否定する事など出来やしなかった。

「さっさと死ね!私は任務を果たすまでだ!

バレット!!」

私はいつも通りにバレットを放った。だが、私の撃った弾は熱した鉄球に水をかけるかの如く、一瞬で蒸発した。

「んな!?バカな…私のバレットが通用しないなんて…」

「無駄だ…死ね」

私にバルディッシュが振り下ろされた。私は回避に失敗し、左目を抉られた。

「ぐぁ"ぁ!」

私の目から滝の如く、血が流れ出した。これが…今まで私が人を傷付ける時につけた痛みか…

私は沢山の人間を痛め付けて殺していたんだな…

左だけ真っ赤に染まった視界で私は叫んだ。

「こんな所で…死ぬ訳にはいかんのだ!アルテミス!」

瞬間。地面から数え切れない程のミサイルが飛び交う。ざっと見ただけで1000はあるだろう

「こんなオモチャで俺を殺せるとでも?確か、お前は奇跡を信じているんだったな…だったらその奇跡を起こしてみろ?そうすれば俺は死ぬかもしれないな!」

私は真実を知らない哀れなネクロマンサーに真実を教えてやることにした。

「奇跡は…起きる物じゃない!奇跡は…自分の手で掴み取る物だ!」

途端。私の左目が輝き出した。みるみるうちに、滝の様に流れていた血が全て蒸発し、私の目は金色に染まった。

「その力は…馬鹿め!そんな大業使えばすぐに死ぬぞ!」

私は余裕の表情で言った。

「関係無い。私はもう時期死ぬ予定だ…」

私は目から聖剣、エクスカリバーを取り出した。

金色に輝くその剣は闇をも切り裂くかの様に思えた。

「そんな剣出したって無駄…」

龍騎の左腕が飛ぶ。高速の斬撃波は全てを切り裂く。

「あがっ!?やりやがったなこの殺人鬼!」

龍騎はバルディッシュを投げ捨て、魔方陣を空中に描いた。

「この波動砲を受けて耐えられる訳が無い!死ね!」

私は余裕の笑みを浮かべ、金色の剣を振るい、斬撃波を出した。波動砲は斬り裂かれ、龍騎に直撃した。瞬く間に龍騎の体は塵の様に粉々に砕けた。

「終わったか…」

私は陽炎を探した。



ようやく私は陽炎を見つける事に成功した。

刻印を掘らなければ…

「あぁ。いれてくれ」

陽炎の胸には…三日月陽炎と同じ模様の刻印が付いた。駄目だ…また、三日月陽炎と同じ道を歩かせてしまう…私は何も躊躇しなかった。

私は聖剣エクスカリバーを取り出し、自分の胸に刺した。胸が焼け焦げる様なとてつもない位の鈍痛が私を襲った。

「おい!?どうして自分の胸に剣を刺したんだ!?あれ?刻印が…」

「そう、私が死ねば貴様の胸に刻まれた刻印は消える…」

陽炎が怒りながら言った。

「どうしてだよ!?どうしてなんだよ!?お前はただ、俺の頼みを聞いただけだ!死ぬのは俺のはずだろ!?」

私は痛みに悶えながらも、陽炎の問いかけに答えた。

「私は…ドラゴンだから…「ウェルシュ」のネクロマンサーだから…誰かから血を出させる事しか出来ない…私はただの兵器なんだ…私はただの人殺しなんだ…」

「人殺しだって?!違う!お前はただ命令されてやっただけだ!私的理由で人を殺した事はあるか?!無いだろ!?お前は悪く無……お前どうして体が塵みたいに為ってるんだよ…」

気付けば私の下半身は既に塵に為っていた。下半身の感覚が完全に消え失せていた。

「私達ネクロマンサーは…死体にならない。だから…私が生きていた証は残らない。誰の記憶にも残らず…私は忘れ去られる」

「馬鹿野郎!お前の事は俺が絶対に忘れない。全世界の人間、ネクロマンサーがお前を忘れても、俺がお前を忘れ無い」

「ありがとう…私はその言葉を聞けたら満足だ」

「最後に一つだけ聞いていいか?」

「あぁ。なんでも聞いてくれ。こんな私で良ければ…」

「どうして俺を助けたんだ?」

「分からない。だけど…私は陽炎を殺したく無かった。私は貴方を救いたかった。馬鹿だな、本当に私が愛した三日月陽炎は私の手で殺されたというのに、私は70年たった今でも、三日月陽炎の事を思い出すんだ…もう、嫌なんだ…私はもう誰かを殺したく無いんだ…」

私の身体からは琵琶湖の様に血が溜まっていた。

もう時期に死ぬだろうな…

陽炎の身体から、銀色のモヤが出た。まるで私が愛した銀髪の様だった。銀色のモヤは私の見覚えのある顔になった。

「久し振りだな、70年振りか…あの時言えなかった事があるんだ…」

陽炎…三日月陽炎なのか!?私が初めて愛した男なのか!?

やっと…会えた。70年間頑張ったんだぞ?人間を殺して、殺しまくったんだ…私はもう解放されても良いだろう?

「三日月陽炎なのか…?本当に三日月陽炎なのか!?」

「あぁ。あの時はありがとうな」

どうして…私に御礼を言うんだ…?私は貴方を殺してしまったんだぞ?ネクロマンサーが人間に感謝されるなんて…絶対にありえないのに…

やはり陽炎は私の想像する範囲を越えた事をするな。

「陽炎…私はネクロマンサーとしての任務を全う出来ただろうか?私は兵器じゃなくて人間らしく生きる事が出来ていたか…?」

陽炎はニコリと微笑み、私に話し掛けた。

「おいらは立派に出来ていたと思うぜ」

その言葉を聞いた瞬間私は全ての悩み、迷いが消え失せた。

「私は人殺しだ…天国では会えない。これが最後だな」

「何言ってるんだ?例えお前が地獄に落ちるなら、おいらも地獄に落ちてやるまでさ。地獄では一緒に居ような」

「うん!ずっとずっと一緒だよ!」



私は存在し続ける。例え全世界の人間、ネクロマンサーが私を忘れても、陽炎が私を覚えていてくれる。

来世はネクロマンサーじゃなくて、陽炎に守られる存在に為りたいな。

私と陽炎は地獄ではなく…天国で再会した。

「おかえり、ルーシー。いや、楓」

陽炎が私を出迎えてくれた。勿論私が言う言葉はただ一つ。

「ただいま!陽炎!」

神様。今だけ、今だけでもいいから、陽炎と一緒に居させて下さい。

それと、天国に行かせてくれて。ありがとう


ウェルシュ・ルシファー(楓)

    死亡

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