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第十五話 スペースコロニーガングート

人類の母なる大地…地球。

豊かな水と様々な生き物が互いに協力し合って共存している…が。何億年と歳月を重ねた地球は核のエネルギー源となるマナが枯渇するのはあと3年も持たないだろう。

流石に事態を重く見たのか、世界の権力者が地球を捨ててスペースコロニーガングートを作成させた。第二の地球が見付かるまでの仮拠点とは言え、ユーラシア大陸の三倍ものの大きさだ。流石に余分では無いだろうか…

ハイジャックでもされたらどうするのだろうか?

地球と衝突すれば間違いなく地球は粉々に砕け散り、ビッグバンが引き起こされるだろう。今までの歴史全てを消し去る事になる。

ハッキリ言って地球以上に安全な惑星など100億年の月日を費やしたとしても見付からないだろう。

地球は危機に晒されることになるとは…私、幸福屋の呪縛霊子が気付ける訳無かった。



「はぁはぁはぁ」

私は真夜中の暗闇の中で走る。1時間でも私の行動が早ければこんな事にはならなかった。歴史に名を刻む覚悟は出来た。後は世界を救うだけだ。

吹雪の様に冷たい風が吹く。カラカラの喉に冷たい風が入り私の喉を痛め付ける。喉から血が出るくらい走った。後は仲間に知らせるだけだ。

簡潔に言おう。日本…いや、全世界のみんなの希望である。スペースコロニーガングートの動力炉が、何者かによって壊された。つまり、ガングートは制御システムを失い、地球に突撃しようとしていた。

地球に突撃すれば間違いなく、地球は粉々に砕け散るだろう。

実際に、今この町では阿鼻叫喚の地獄だ。もうじきに死ぬと確信しきってしまった沢山の老人が痛々しく泣き叫んでいた。

私は幸福屋のアジトに帰った。仲間と総督にこの由々しき事態を相談する為だ。

「呪縛霊子。ただいま戻りまし…」

私は咄嗟に隠れた。仲間のいるアジトで隠れる必要など無いと思っている君。仲間がいればどれ程良かったことか…生憎、私の仲間と総督は…

《《ガングートに吸収された》》

どうやら…私以外の幸福屋は全てネクロマンサーの手によってガングートに吸収させられた。

スペースコロニーガングートは別名、超弩級自立進化航空戦艦。人間を吸収させる事によって、ガングートは特別なウイルスを生成する。そのウイルスは…《《有機生命体全ての敵だ》》

つまり、地球を丸々包み込む程の殺人ウイルスが造られた。もし、仮に。ガングートを破壊する事に成功したとて、内部に秘められたウイルスが生命体全てを殺し尽くす。まさに八方塞がりだ。

破壊しなければ地球が砕ける。破壊しても、生命体が滅びる。

犯人の顔はすぐに出てきた。ネクロマンサーの総督、ゴルド・フェニクロウだろう。ネクロマンサーは有機生命体では無い。奴らの正体は…

擬態型弩級鋼刺蟲リノセロス・スティル通称リノティル。

殺した人間の姿に擬態し、人目に付かない所で人間を補食する。

鋼蟲という名前通り、奴らの装甲は弩級だ。

ナパーム弾程度ではキズ一つ付けられない。

どうやら、ネクロマンサーどもは折角造った人口生命体ネクロニウスもガングートに吸収させたようだ。有機生命体を全て駆逐し、地球の歴史を新しく始めるつもりだろう。 

人影だ。1話以降、出番が特に無かった先輩だろうか。私は声をかけようとした瞬間、嫌な物が見えてしまった。緑色の鋼鉄の翅。翅の種類から察するに、カナブン型のリノティルだろうか?

「バレバレですよ…貴方は入った瞬間から察知していました」

途端に擬態を止めた。みるみる内に、緑色の鋼の鎧が身体を包み込んだ。武装完了と言えばいいだろうか。

「ギギィググチギリギリガチガチィィ!!」

完全に人形の蟲となった先輩に擬態したネクロマンサーは言葉を失っていた。

私はヤケクソ気味に叫んだ。ちょっとでも緊張を紛らわしたかっただけだが…

「日本語喋れよ!この宇宙人めがっ!!」

私は自前の剣で身体を斬ろうとしたが…

グワァンと剣が曲がってしまった。流石の装甲だ。特別な銃が無い限り、奴らの装甲を撃ち抜くことは不可能だろうか。カナブン型リノティルは嘲笑うかの様に鳴いた。

「ガチガチガチガギギギチィィ!!」

何を言っているのか理解出来ないが、少なくとも私を馬鹿にしているようだ。

腕から緑色の2メートル以上あるブーメランを投げつける。ブーメランは壁に突き刺さったが…私に当たっていれば粉々だっただろう。

「ギギギガチガチィィ…」

ブーメランが突き刺さった所から凍える風が吹くここは冷凍室の近くだったか…どうやらカナブン型リノティルにとっては冷気は最大の弱点であったらしく。動きを止め、身体を掻き毟り始めた。

首の装甲が固いのが仇となり、自らの手でブーメランを引っこ抜き、ありったけの力を振り絞り、突き刺した。瞬く間にカナブン型リノティルは生命活動を停止した。

「リノティルは寒さに弱くて、自らの手で首を掻き毟ってしまうのか…」

首を掻き毟る人はリノティルという解釈でも問題無いだろう。

突如現れたリノティル。突如乗っ取られたガングート。世界は今から何が起ころうとしているんだ?


アジトから出た私は、阿鼻叫喚の地獄の町へ向かった。気付けば私は銀色公園に着いていた。ここは暁と契約をした場所だ。ノルマの為とは言え、人を殺す事はどうかと思うのだ…今さらながらだが…

突然。私の後ろから気配がした。恐る恐る振り返って見れば…睦月と水無月と瓜二つの人間が立っていた。睦月みたいな娘が口を開いた。

「ご機嫌よう、霊子さん。いい加減に自分の使命から逃げるのはお辞めになって下さいまし。少々不愉快ですわ」

声はそのまま睦月だが、こんな令嬢みたいな悪意のこもった喋り方はしない。無邪気さの欠片も無くなってしまっている。

水無月が口を開く。

「全くです。本来なら、私達は戦う意味など皆無に等しいのですが…どうやら貴方を調教しなければならないようですね」

水無月も声はそのままだが、喋り方と負のオーラの量が違う。どちらも所詮は偽物だ。

二人共が、擬態を解除する。カナブン野郎とは違い、緑色の体では無く。どちらも黒だ。

背中からは4つの翅と大きな牙が生え、目が3つの単眼になる。どうやら、二人共にヘビトンボらしい。

「ジジジ…ゼゼゼ…ゾゾゾ」

「ガチガチィィ…」

生憎、私は氷属性の魔法を扱えない。元々装甲の薄いヘビトンボならもしかしたら…と思い、ありったけの力で元睦月殴った結果。

「ジジジ…ギチギチギチィィ!!」

ざっと1メートル以上ある牙の片方が折れた。どうやら、カナブン野郎の装甲が厚かっただけで、こいつらはそんなに強敵では無いだろう。

仲間を傷つけられ怒り狂った水無月が翅を羽ばたかせ、高速で突っ込んできた。私は避けようとしたが…

「うぐっ…!」

脇腹に牙が刺さる。水無月が上空に飛び上がる。どうやら私を空から落とそうとしているようだ。

「ガチガチガチガチィィィ!!」

久しぶりに私はある銃を使う事にした。

「バレット…」

水無月の3つの目玉を全て狙い、撃ち抜いた私は水無月から解放され、自由の身となった。

「ギィィィガガガァァ…ガチガチィィ…!」

視力を完全に失った水無月が暴れ回る。水無月の牙が金色に輝き5メートル程伸びた。睦月もろとも噛み千切るつもりだ。睦月と水無月には決定的に大きな違いがある。それは水無月は人型で、睦月は本物のヘビトンボの様な形の身体をしている事だ。つまり、タイミングを見計らい、睦月の翅を撃ち抜いてしまえば、睦月は動けなくなる。

私は作戦通り、睦月の翅を撃ち抜いた。地面に落下した睦月は牙を勢いよく閉じた水無月に挟まれ爆破した。水無月も睦月の爆破により誘爆した。

灰になった二人を置いて私は逃げた。いくら少しとは言え、脇腹にダメージを受けたのだ。安静にするのが定石では無いだろ…

突如、私の目の前の床から紫色の液体で形成された柱が出てきた。

「うぇぇぇい!!惜しいねぇ。あと少しでスライムになれる所だったのに…ゴルド様に命令されてるんだわ、あんたの首の骨を溶かすようになってな!」

彩音だ。ネクロマンサーのルーシーの手によって殺された人間。まさか擬態されてこんな失態を犯されているだなんてな。生き恥以外のなんて言葉では語ることは出来ないだろう。

「ご生憎様だけど、私はあんたみたいな雑魚に負けてる訳にはいかないんだ。死んで物語を彩って貰おうかっ!」

「黙れ!!俺様は弱くねぇ!!死ねぇぇ!!」

彩音モドキの身体が鎧の様な何かによって形成される。紅の色の鎧に、数えきれない程の脚と、毒まみれの危険な牙。ムカデだろうか。

「ガリィィリギゼ…バチバチチチチチィィ!!」

今回は今までとは相手のレベルが違う。推定だが、12メートル以上ある。

「バレット…!!」

野球でホームランを打ったかの様な軽快な音と共に弾丸が弾かれる。どうやら、鎧に撃っても弾かれるだけらしい。だったら!私は目を狙い撃ったが…

牙が目を覆うかの様に曲がっているので当たらない。今度はこっちの番だと言わんばかりに3本目と4本目の牙で地面を抉った。どうやら私の機動力を半減させる作戦らしい。今度はなにやら私の下の地面から毒の液体の柱が出現した。雲に届いててもおかしくないくらい高く形成されていた。

このままでは負ける…何とかして、目の前の牙を折らなければ…いや、待てよ…良いことを思い付いたぞ!!

私は高く飛びムカデ野郎の頭の上に飛び乗った。

当然。ムカデ野郎は暴れたが、今は関係無い。

私は魔法により、手から炎を出せる様にし、左目の目の前にある牙ありったね力を込めて曲げ、左目に刺してやった。

みるみる内に、ムカデ野郎の目玉は紫色に染まる。どうやら抗体は持っていないようだ。

「ムギャャャャゼゼエェェ…!!」

私は右目の目玉にも牙を突き刺してやった。みるみる内に右目も紫色に染める。どうやら左目は黒い粉の様になってしまったようだ。視界を奪われた上に、身体中に毒が回り、動く気力すら無くしてしまったムシケラを駆除するのは簡単だった。

「流石に…はぁはぁ…疲れた」

私は道路で泥の様に眠ってしまった。目が覚めたのは3時間後だった。


きゃーっ!!クワガタの怪獣が…助けて!!

噛み殺される…死にたく無いよっ!!

お母さん…!助けてぇぇ!


クワガタの怪獣という事は、クワガタ型リノティルか!?

私は悪夢を見てしまった中学生の様に飛び起きた。回りを見渡すが、リノティルは居ない。それどころか、人間すら居なかった。幻聴すら聞こえてしまうとは…相当疲れているのだな…

朝から憂鬱な私に突然声をかけられた。

「ご機嫌よう。朝から不審な動きをして、不審者みたいですこと…」

渚だった。ショタコンが故に、陽炎を誘拐し、ネクロマンサー、ルーシーに殺された人間か…

「注目デース!!私の事も忘れちゃ駄目ネー!」

渚に続いて、神楽も参上か…相変わらずキャラクターがぶれないな。このエセ外国人めが!!

「話がありますの。貴方にはリノティルとして…」

「興味無い。帰れ」

神楽が残念そうに言った。

「ナギサ~だから言ったネー。きっと話しても無駄デース。やはり此処は力で捩じ伏せるしか無いデース!!」

「そうですわね。ごめんあそばせ…貴方には死んで貰いますわよっ!」

渚モドキはホタル。神楽はカマキリの様な姿に化けた。二人共に人型では無かった。

「ホタルだって?!馬鹿にしてんじゃねぇよ!」

いくら何でもホタルはひどい。ただ光ってるだけのゴキブリじゃないか。レーザービームでも出せれば話は別だが…

「バチバチバリバリィィック!!」

当然、上から道路が抉れる程の高熱の光線が迸る。まともに当たれば丸焦げだ。

「ガチガチィィ…ギギギ」

神楽が刃渡り7メートル以上のカマでなぎ払う。

隣にあったコンクリートのマンションがスパりと斬られ、横転する。

簡潔に言おう。私は絶体絶命だった。7メートルの圏内に入った途端に神楽からカマで滅多打ちにされ。上から空を飛んでいる渚モドキがレーザービームを出し続ける。一秒でも止まれば、私は丸焦げだ。

どうにかして、渚モドキを撃ち落とさなければ、私に勝ち目は無い。

そうだ…良いことを思い付いたぞ!!私は神楽に向かって走った。

「ギチギチギチィィ!!」

当然、神楽はカマを振り下ろすが。それを全て気合いで避ける。一発一発が遅いので避けるだけなら簡単だ。

私は神楽の頭の上に乗る。案の定。渚モドキは神楽の事など構わず、神楽の脳を焼き尽くす。

脳を焼き尽くされた神楽は声にもならない悲痛な鳴き声をあげて永遠の眠りについた。

私は神楽の腕のカマを千切り、渚モドキに投げつけた。それは意外にも簡単に当たり、渚モドキの身体は縦に真っ二つに割れた。

「急がないと…」

私はもう雲の位置にまで降下したスペースコロニーガングートを目指し、予め用意しておいた戦闘機にのってガングートの内部に侵入した。



ガングートの内部に侵入した私は、緊張感が昂る中。探索を始めた。此処に長居は禁物だ。紫色の霧が辺り一面を包み込んでいる。ウイルスによる霧だろうか。

「ゲホゲホ…あれ?…血が…」

咳き込みを抑えてい手に少しとは言え、血が付着していた。間違い無く此処の紫色の霧の仕業だ。

私の身体にウイルスが回り始めたサインと見てもいいだろう。

霧で良く見えないが人影が見える。…どうやら私の同僚だ。私は警戒心を高める。

機械の様な感情がこもっていない声で淡々と話す。

「侵入者発見。直ちに駆除します」

頭に制御装置を付けられている。カナブン野郎の下っ端だろうか?

擬態を解除する。艶のある黒い鋼の鎧が相手の身体を包み込む。力強そうな顎が姿を現す。アリ界最強と言っても過言でも無いパラポネラ型リノティルだ。

「ガリガリガリガリィィシュッッッ!!」

変身が完了したかと思えば、ふと相手が思い出したかの様に、黒いスイッチを押した。

Standby…ready?

みるみる内に相手の身体が白く変色し、手がロブスターの様に変形した。多重進化プログラムを使うリノティルは少なくは無いが…身体と精神による負担が大きいのが難点だ。

「ガチギギギィィ」

リノティル大きなハサミを地面に振り下ろした。

穴が空いた地面から霧が逃げ、紫色の霧が大幅に減る。どうやら相手にとっても紫色の霧は不愉快であったのだろうか?

突然。左腕に付いている青色の宝石が煌めいた。

Clock…ACCEL

リノティル意外の生命体、物体がスローモーションの様に遅くなる。どうやら、高速移動では無く。自分以外の生命体と物体の時空を歪める業らしい。

ACCEL…finish

「ぐぁ"ぁ…」

動きが戻った瞬間、私の体から激しい鈍痛が襲いかかる。動きを止められている間に攻撃を受けていたようだ。

「ギィィィヤヤヤギリリリリ…!!」

…相手の様子がおかしい。白色だった体が気付けば黒いような、紫色に変色していた。突然、腕が千切れる。千切れた腕から紫色の触手が飛び出る。

「ジジジ…ギィィィ!!!」

頭が吹き飛んだ。瞬く間に生命活動を停止し、紫色の触手に吸収され、ガングートの床に沈んだ。

残った死体の欠片から出てきた目玉の付いた触手が、次はお前だと言わんばかりにこちらを睨んだ。恐怖に陥った私は触手の目玉を撃ち抜いた。


私は制御装置のある部屋に向かった。スペースコロニーガングートを地球に衝突させる訳にはいかないのだ。

紫の霧が自分の肺に入ってくるのが嫌でも分かる。咳き込みも多くなってきた。掌は血だらけだ。出来れば敵と戦う事は避けたいが…

「ちょっと待ってくれないかな…?」

どうやら、私の望みは叶わないようだ。遂に総督サマの参上か…

私はネクロマンサーの総督にガングートを爆発させる理由を聞いた。

「ゴルド・フェニクロウ…何が望みだ?どうしてガングートを爆発させるんだ?」

ゴルドは酷く大爆笑した。まるで、何故理由を聞くのか分からないとでも言わんばかりに…

「理由は簡単さ、ネクロマンサーだけの理想国家を作る為だ」

しかし、ネクロマンサーにも害はあるのではないだろうか?さっきのパラポネラ型リノティルだって、ネクロマンサーでは無いのか?

「だったら、何故パラポネラ型リノティルがウイルスにやられて死んだんだ?ネクロマンサーだったら、ウイルスにやられないはずだろう?」

ゴルドは面食らったかの様な顔をしたが、すぐに冷静さを取り戻したようだ。

「嘘は良くないなぁ、パラポネラ型の子だって、ネクロマンサーなんだよ?死ぬ訳無いんだよ!」

ゴルドは擬態を解除した。黒色の体と翅に、メタリックグリーンの複眼が姿を現す。

フェニクロウという名前から、私は不死鳥の様な強い虫を想像したが…

「どうしてアブなんだ?しかもアメリカミズアブ…絶対強く無いだろ…それだったらまだパラポネラの方が…人型じゃないし…」

「ビビビビィィギギゼゾゾゾ!!!」

ウイィィィィィィィン ウイィィィィィィン

ガングートの警報が鳴り響く。地球と衝突寸前だ。早く脱出しなければ…間違い無く死んでしまう。しかし、アブがそれを許さなかった。

私に体で体当たりを繰り返してくる。鋼の鎧の様な体と高速の速さでぶつかってくる故に、私は追い払うのに苦戦していた。運良く私はアブからの追撃を躱し、ガングートから脱出した。

ガングートの衝突を止めることは出来なかった。

一筋の光と共に、途轍もない強さのソニックムーヴと爆風が町一帯…いや、全国を襲った…


次回に続く

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