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OUT&IN 脳波

作者: はらけつ

「なんや、これ?」


デレクは、思わず、言葉を漏らす。


「砂時計の設計図か、なんかですかね?

 どう思わはります?」


デレクは、相棒 ‥ シークに、答えを求める。

シークは、デレクの手から、左手で紙片を受け取って、 シゲシゲ と見つめる。


「砂時計の設計図にしたら、くびれがキツ過ぎる。

  これじゃ、三分砂時計ならぬ三十分砂時計になるぞ」


紙片の上下の端が、水平だが破れたようになっているところを見ると、

長い紙片の一断片のようだ。

紙片には、線が三本、上から下へ描かれている。


真ん中の線は、赤大きくのたっている。

ミミズがのたりうねって、進む時のように。


のたる線の左右二線は、青と黄で、一見、直線のように見える。

が、よく見ると、ギザギザが見て取れる。

細かで頻繁に脈動する線が、一見すると、直線を形作っている。


ギザギザギザギザギザギザギザギザギザギザビクビクビクビクビクビクビクビクビクビク

のたのたのたのたのたのたのたのたのたのたのたのたのたうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうね

ギザギザギザギザギザギザギザギザギザギザビクビクビクビクビクビクビクビクビクビク


デレクは、シークから、右手で紙片を受け取り、

紙片を縦にしたり横にしたり、表にしたり裏にしたりして、じっくり眺める。


「 ‥ うん?!」

「なんや、なんか気いたんか?」


デレクの疑問符に、シークが反応する。


「いや、こうした時、『なんかどっかで見た』気がして」


デレクは、紙片を横にして、シークに示す。


「なんや、なんか、 心電図 っぽいよな」

「言われてみれば、そんな気がしますね」


デレクは、鑑識の被害者死体調べが、一段落したのを見て取り、

死体を調べていた鑑識員に、問いを掛ける。


「どんな感じですか?」


鑑識結果用紙に、なにやら書込んでいた鑑識員は、顔を上げて、デレクに答える。


「変な死に方しとんな」

「どう、 変 なんですか?」

「見てみい」


と、鑑識員は、死体のそばにしゃがむ。

デレクも、しゃがむ。

シークも、しゃがむ。


鑑識員は、大きく口を開けた死体の、大きく開けた口を指し示す。


「左の下の奥歯が二本、ガタガタになってる」

「ガタガタに ‥ 」

「おそらく、そのガタガタいわされ方が、キツかったんやろな。

  奥歯ガタガタいわされたせいで、ショック死してしもたんやろう」

「奥歯ガタガタいわされただけで、ショック死 ‥ 」


確かに、死体の大きく開けた口からは、左下の奥歯二本が、

ガタガタに歪んでいるのが、見て取れる。


「どうしたら、こんな風に、奥歯がガタガタになるんですかね?」

「分からん。

  変 って言ったのは、この死体の状態だけやなくて、

  死に至った ‥ 歯がガタガタになった点にも引っ掛かってるんや」

「と、言いますと?」

「ガタガタになった奥歯に、外部から力が加わった様子が無い」


「えっ。

  それって、自分の内なる力だけで、手の力とかも使わずに、

  自分の奥歯ガタガタさせて、死んでしまったっていうことですか?」

「ああ」

「自分の内なる力だけで、

  自分の奥歯を、ガタガタにできるもんなんですか?」

「どやろな。

  少なくとも、俺はできひん」


二人の間に、沈黙が降りる。


「もう一つ、気になる点がある」


鑑識員は、デレクに、被害者の頭を指差す。

デレクは、被害者の頭を、しばらく眼を凝らして見つめ、ようやっと気付く。


「ああ、分かりました。

  短髪やから分かりにくかったけど、頭頂と、左のコメカミと、右のコメカミに、

  丸く剃った跡があるんですね」

「ああ、五百円玉大くらいの剃り跡が、あるんや。

  十円ハゲならぬ、五百円ハゲやな」

「これ、なんなんですか?」

「分からん」


デレクと鑑識員の話を聞いていたシークは、二人の話が一段落すると、

デレクの肩を、左手で、ポンポンと叩く。


「現状では、グズグズ考えてもしゃーないやろ。

  後は鑑識さんに任せて、俺達は帰ろう」

「 ‥ そうですね。

  アルフさん、よろしくお願いします」

「おお」


デレクは、ベテラン鑑識員 ‥ アルフに声を掛けて、シークと共に、現場を去る。




「なはぁ、どうふんねん?」


彼の言葉をシカトして、準備を続ける。


椅子に、両手、両前腕、両上腕、両足、両下腿、両大腿、腹部、胸郭、首、鼻まわりを、

革のストラップで縛り付けられた彼は、唯一、自由に動く眼を動かす。

眼を ギロギロ 動かして、鼻を潰されて縛られている為か、しゃべりにくそうに、

僕に問い掛ける。


「ヒカトこひてんじゃへーよ!」


彼は、叫ぶ。

そのまま、準備を続ける。


台の上にセッティングした銀色の機械から、三つの電極を伸ばす。

三つの電極と銀機械を繋ぐコードは、それぞれ、赤・青・黄に色分けされている。

また、電極自体も、赤・青・黄に色分けされている。

赤コードの赤電極、青コードの青電極、黄コードの黄電極を、彼に近づけていく。


「ふぁっ、ふぁっ、なにふんねん!」


左手で、彼の一分刈り坊主頭の、頭頂に赤電極を、

左のコメカミに青電極を、右のコメカミに黄電極を取り付ける。


銀機械に、左手で、電源を入れる。

電源をオンにした銀機械は、全体がぼんやりと、光り輝き出す。

赤コード、青コード、黄コードは、内部から光り始める。

コードの光は、銀機械から電極へ、忍び寄るように、徐々に進んで行く。


じわずるじわずるじわずるじわずるじわずるじわずるじわずるじわずるじわずる ‥


光が電極に到着したことを確認すると、笑みを浮かべる。

『これ以上は無い』とでも言いたいくらい、楽しそうにニヤニヤ笑みを浮かべる。

口元を歪めると、言葉を吐いた。


「口から手突っ込んで、奥歯ガタガタいわしたろか!」


彼の左右両側の臼歯、上歯と下歯の間に、マイクロジャッキを差し込む。


キリキリキリキリ キリキリキリキリ キリキリキリキリ キリキリキリキリ キリキリキリキリ


ジャッキの取っ手を指でつまみ、ジャッキを巻き上げる。

彼の口は、上下に大きく押し広げられ、

顎が外れるか、外れないか のところで、固定される。


涙と苦しさが滲む彼の顔の口へ、左手を突っ込む。

左手を手首まで、スッポリ突っ込む。


「ゲェーーゲェーーゲェーーゲェーーゲォゲォゲォゲォゲォゲォゲォゲォゲゲォ ‥ 」

彼は、声にならない音声で、呻く。


左手の、人差し指と親指で、彼の左下一番奥の、奥歯を摘む。

奥歯を左右に動かそうとしたが、ビクともしない。

これでは、 奥歯ガタガタ が、できない。

想定していたことだったので、用意していたペンチを、取り出す。


ペンチは、手の平サイズの小さいものだが、

鉄製なので、手にズッシリと、重みを感じる。

その重みが、力強さと丈夫さと、愚直な残虐さを、感じさせる。


彼は、ペンチに気付くと、大きく大きく、眼を見開く。


「ふわぁー!ふわぁー!ふわぁー!ふわぁー!

  やへて!やへて!やへ ‥ ゲォゲォゲォゲォゲォゲォゲォゲォゲォゲォ ‥ 」


喚き呻き声が発せられている口の中へ、無造作にペンチを突っ込む。

ペンチで、左下の一番奥の奥歯を掴み、左右に動かす。


「ひっ!ひたい!ひたい!ひたい!ひたい!」


構わず、左右に動かす。

幾度か左右に揺らして、やっとグラグラして来る。

左手に ぬるぬる 、液体がまとい出す。

今度は、上下に動かす。


「ひいい~!ひたい!ひたい!ひたい!ひたい!」


めきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめき

ブブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブブチブチブチ


歯が、歯茎から強引に、もぎ離される音が聞こえるような気がする。

歯と歯茎を繋いでいた神経が、強引に切り離されるような音が聞こえる気がする。


めきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめき ‥

ブブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブブチ ‥


一番奥の奥歯が、歯茎から抜けるか抜けないかの位置で、ペンチの動きを止める。


「 ‥ ひゅう~ ‥ ふぇ! ‥ ひっ!ひたい!ひたい!ひたい!ひたい!」


ペンチで、左下の二番目奥の奥歯を掴み、左右に動かす。

『終わったもの』と、油断して息をついていた彼には悪いが、間を置かず動かす。


めきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめきめき ‥

ブブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブブチ ‥


左右に動かして、上下に動かして、左下の二番目奥の奥歯も、一番奥の奥歯と同じく、

歯茎から抜けるか抜けないかの位置で、ペンチの動きを止める。


「ひゃー!ひゃー!ひゃー!ひゃー!ひゃー!ひゃー!ひゃー!ひゃー! ‥ 」


彼の悶え叫び声のリズムに合わせ、彼の頭に取り付けた、

赤電極、青電極、黄電極が明滅する。

各電極の明滅リズムに伴い、赤・青・黄の各コード内に、光が伝わる。

各コードから伝わる光に合わせ、銀機械が震える。


銀機械の上面には、青みがかった真っ白な用紙がセットされている。

そこに、釣り針を垂れた竿のような、弾力性のある、細くて強靭そうな、

針金棒が触れている。

それはまるで 数値の軌跡を描く針が、三本だけの嘘発見器 のようだった。


針金棒は三本、その先をかろうじて用紙に触れるくらいにして、小刻みに動いている。

正確には、三本の内、上と下の棒は、小刻みに上下運動をしているが、

真ん中の棒は、大きく緩やかに、上下運動を繰り返している。


針金棒の動きに伴い、真っ青白い用紙には、線が描かれる。

上の線は青、真ん中の線は赤、下の線は黄。

青線は小刻み上下、赤線は大きく緩やか上下、黄線は小刻み上下。


横から見ると、道幅いっぱいに、のたって進むミミズ。

縦から見ると、連続する滑らかなルビンの壺か、砂時計。

針金棒は、青白い用紙の上に、延々と線を描き、


もう充分だ。

データは、これで足りるだろう。


銀機械の電源を切る。

銀機械自体の明かり、各電極の明かり、各コードの明かりが、落ちる。

銀機械から、吐き出された用紙を千切り取る。

四、五回畳んで、左の尻ポケットに入れる。


彼の頭に付けた、三つの電極を全て外す。

電極ごと、三つのコードを、軽く結ぶ。

結んだコードの束を、銀機械の横に、 そっ と置く。


彼は、唐突な撤収に、 キョトン とする。

ドアを開けて、部屋を出ようとする。


「ふぉい!ふぉい!ふぉい!ふぉい!ふぉこひくねん?!」


ドアを閉める。

叫んでいる、奥歯が二つガタガタの彼を残して、部屋を歩み去る。




「お前、今、ガンつけただろ」


まただ。

また、何もしていないのに、因縁を付けられている。


僕は、一応、弁解をしてみる。


「ただ、何の気なしに、見てただけなんだよ。

  そうしたら、目が合っちゃってさ ‥ 」

「聞こえねえな。

  なに小さい声で、グズグズ言ってんねん!」


やっぱり、逆効果だった。

火に油を注ぐようなもんだった。


「口から手突っ込んで、奥歯ガタガタいわしたろか!」


開始の言葉だ。


胸倉を、掴まれる。

顔に、唾を、吐き掛けられる。

正面にいる彼は、左手で、僕の両目を、覆う。


右の脇腹に、左脚の蹴りが、 ズボッ と入る。

左の脇腹に、右脚の蹴りが、 ズボッ と入る。

鳩尾ど真ん中に、左膝が、 ドズボッ と入る。


僕は、思わず、むせる。


ゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホ


苦しい、苦しい、苦しい。


彼は、呼吸を妨げるように、眼を覆っていた左手を、口に移す。

ニヤニヤ口元を歪めながら、グロい微笑を浮かべて、口を塞ぐ。


ゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホ


股間に、右脚の蹴りが、 ぐにゃズボッ と入る。


痛くて痛くて痛くて。

息ができなくてできなくてできなくて。

苦しくて苦しくて苦しくて。


目の前の光景は、真っ黒になり、真っ赤になり、七色になり、金色がキラめく。

大きくなり小さくなり、伸び縮み、丸まり角ばり、右に曲がり左に曲がる。


そんな視覚神経で捕らえた彼の顔は、笑っていた。

『これ以上は無い』というぐらいの勢いで、顔を歪めて、笑っていた。

目尻に涙を滲み浮かべ、笑っていた。




「お前、今、ガンつけただろ」


まただ。

また、因縁を付けられている。


僕は、一応、弁解を試みる。


「ただ、何の気なしに、見てただけなんだよ。

  そうしたら、目が合っちゃってさ ‥ 」

「聞こえねえな。

  なに小さい声で、グズグズ言ってんねん!」


やっぱり、ダメだった。

水に氷を加えるようなもんだった。


「尻の穴から手突っ込んで、内臓かき廻したろか!」


開始の言葉だ。


胸倉を、 グイッ 。

顔に、唾を、 ペッ 。

左横側に廻った彼は、左手で、僕の両目を、 バッ 。


背中の上部に、右拳が、 ズボッ 。

鳩尾辺りに、左膝が、 ズボッ 。

腰の辺りに、右膝が、 ドズボッ 。


僕は、思わず、むせ屈む。


ゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホ

ビイーンビイーンビイーンビイーンビイーンビリビリビリビリビリジンジンジンジンジン


苦しい、苦しい、苦しい。


彼は、しつこく眼を覆っていた左手を、口に移す。

ニヤニヤと、口元を歪めながら、グロい微笑を浮かべて、口をピッタリ塞ぐ。

呼吸の、邪魔をするように。


ゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホ


股間に、右脚のつま先が、 ぐにゃズボッ 。


ビイーンビイーンビイーンビイーンビイーンビリビリビリビリビリジンジンジンジンジン


痛くて痛くて痛くて。

息ができなくてできなくてできなくて。

苦しくて苦しくて苦しくて。


目の前の光景は、真っ黒になり、真っ赤になり、七色になり、金銀がキラめく。

大きくなり小さくなり、伸び縮み、丸まり角ばり、上に上がり下に下がる。


そんな、ぼんやりまなこで捕らえた彼の顔は、笑っていた。

『これ以上は無い』というぐらいの勢いで、顔をヒン曲げて、笑っていた。

目尻に、こぼれ落ちそうな涙を湛えて、笑っていた。




「まはかよ!?」


彼の言葉を無視して、準備を続ける。


椅子に、両手、両前腕、両上腕、両足、両下腿、両大腿、腹部、胸郭、首、鼻まわりを、

革のストラップで縛り付けられた彼は、 ギョロギョロギョロギョロ 眼球を動かす。


「ムヒひてんじゃへーよ!」


微動だにせず、準備を続ける。


台の上の銀機械から、電極を伸ばす。

赤電極は赤コードを引きずって、青電極は青コードを引きずって、

黄電極は黄コードを引きずって、伸ばされる。


「ふぁっ、ふぁっ、まはか!まはなのか!?」


左手で、彼の五厘刈り坊主頭の、頭頂に赤電極を、

左のコメカミに青電極を、右のコメカミに黄電極を取り付ける。


銀機械の電源を、左手で入れる。

銀機械本体、赤コード・青コード・黄コードが、内部から光始める。

コードの光は、銀機械から電極へ、這い寄るように、徐々に進んで行く。


じわずるじわずるじわずるじわずるじわずるじわずるじわずるじわずるじわずる ‥


光が電極に到着したことを確認すると、笑みを浮かべる。

『これ以上は無い』とでも言いたげに、ニヤニヤ笑みを浮かべる。

口元を歪めると、言葉を吐く。


「尻の穴から手突っ込んで、内臓かき廻したろか!」


ギュンギュンギュンギュンギュンギュギュギュイーーーーーーーーーーーーーーン!


日曜大工に使う、ハンディタイプの電動ドリルを、起動する。


「ふわぁ!ふわぁ!ふわぁ!ふわぁ!なんひゃ?なんひゃ!」


回転するドリルの動きと音に威圧され、彼は思わず怯え声を漏らす。

彼の座っている椅子の、足元に潜り込む。

ちょうど、彼の尻が乗っている、台座の真ん中に、ドリルを当てる。


「ふわぁ!ふわぁ!ふわぁ!ふわぁ! ‥ いへ!いへ!いへ!いへ!いへ!」


ドリルを円形に移動し、台座を丸くスッポリ切り抜く。

切り抜くと、ジーンズに包まれた彼の臀部が、丸見えになる。

ドリルの先っちょが、臀部に触れたらしく、彼が悶える。


「ふわぁ!ふわぁ!ふわぁ!ふわぁ!ふわぁー!なひ、ひてんねん!」


ドリルを止め、ハサミを取り出す。


ジョキジョキジョキジョキジョキジョキ ‥ ジョキジョキジョキジョキジョキジョキ


切り抜いた台座から覗く、ジーンズの尻部分を切り抜く。

切り抜いたジーンズから覗く、ブリーフの尻部分を切り抜く。

切り抜いたブリーフから、なまっちろい生尻が覗く。

赤黒い容貌とは対照的な、でっぷり白ちゃけた生尻が覗く。


尻に到達したところで、長い棒を取り上げる。

30cmくらいの長さの、五寸釘くらいの太さの、先が丸まった棒を取り上げる。


「ひっ!ひっ!ひっ!ひっ!ひっ!ひっ!ひっ!ひっ! ‥ ひい~!ひい~!」


丸まった先を、尻の割れ目に食い込ませると、そのまま押し込む。

手元に伝わる感触を頼りに、力を加える方向、加える力の強弱を工夫して、

抵抗もなんのその、グイグイと押し込む。


「ひい~!ひい~!ひい~!ひい~! ‥ ひゃあ~!ひゃあ~!」


先が徐々に進むにつれ、強かった抵抗が徐々に弱まる。

そして、ある地点を過ぎると、 スッ と抵抗は消え失せる。

消え失せたところで、棒の押し込みを停止する。


「ひゃあ~!ひゃあ~! ‥ ふううううう~ ‥ 」


押し込みを止めると、彼は脱力する。

棒から伝わる感触でも、彼が硬直を解くのを感じる。

彼が体の力を抜くのを確認して、今度は、棒を、円を描くように、廻し始める。


右廻り。

左廻り。

時計廻り。

反時計廻り。


上下、左右、斜めにも、動かす。


小刻み左右しての、上下運動。

小刻み上下しての、左右運動。

小刻み右上から左下斜めしての、左斜め運動。

小刻み左上から右下斜めしての、右斜め運動。


「ひいい~ひいい~ひいい~ひいい~ ‥

  ひゃああ~ひゃああ~ひゃああ~ひゃああ~ ‥ 」


腸を ‥ 内臓をかき廻される度、彼の哀れみを誘う声が響く。

棒の先の部分が、彼の体に入っている辺りから、かき廻す度、音がする。


きゅるっキュルキュル ぐるっグルグル にゅるっニュルニュル ぐにゅっグニュグニュ

ぐーグーグー ぐおっグオグオ びちっビチビチ にゅちっニュチニュチ


「ひいい~ひいい~ひいい~ひいい~ ‥

  ひゃああ~ひゃああ~ひゃああ~ひゃああ~ ‥ 」


彼の叫び声のリズムに合わせ、彼の頭の、赤電極、青電極、黄電極が点滅する。

各電極の点滅リズムに伴い、赤コード内に、青コード内に、黄コード内に、光が奔る。

各コードから奔る光は、銀機械を震わせる。


銀機械の震えに合わせて、銀機械の上面の、細くて強靭そうな針金棒も、揺れる。

二本の棒は小刻みに揺れ、一本の棒は、大きく揺れる。


針金棒の動きに伴い、針金棒と銀機械に挟まれた、真っ青白い用紙には、

線が描かれる。


上の線は、青小刻み上下線。

中の線は、赤大きく緩やか上下線。

下の線は、黄小刻み上下線。


道幅いっぱいに、のたって進むミミズ。

連続する滑らかなルビンの壺か、砂時計。


もういいだろう。

充分、データは集まった。


銀機械の電源を、左手で切ると、点灯していた明かりが、全て落ちる。

銀機械から吐き出された、青白い用紙を、千切り取る。

四、五回畳んで、尻ポケットに入れる。


彼の頭に付けた、三つの電極を、引っ張って外す。

電極ごと、三つのコードを、軽く結ぶ。

結んだコードの束を、銀機械の横に、 そっ と置く。


硬直が続き、固まっていた彼の体は、ようやっと脱力する。

『これ以上は無い』というぐらい、心身ともに緩まる。

顔は、ダラける。


用紙をポケットに仕舞い、銀機械を片付け終わり、部屋を出ようとする。

ドアを開けて、一旦停止をする。

彼は、叫ぶ気力もなく、椅子にもたれて、脱力しているようだ。

すぐに動き出して、ドアをくぐる。


かき廻された腸 ‥ 内臓を抱えた彼を残して、部屋を歩み去る。




眼の前には、大量の睡眠薬を飲み、眠りこけている彼女がいる。


ジーーーーージーーーーージーーーーージーーーーージーーーーージーーーー


毛玉取り機のスイッチを、左手で入れる。

滑らかな廻転音が、切れ味を保証する。


毛玉取り機の毛玉取り網目を、左手で、彼女の頭頂に当てる。


ジョリジョリジョリジョリジョリジョリジョリジョリジョリジョリジョリジョリジョリジョリジョリジョリ


左コメカミと右のコメカミにも、当てる。


ジョリジョリジョリジョリジョリジョリジョリジョリジョリジョリジョリジョリジョリジョリジョリジョリ

ジョリジョリジョリジョリジョリジョリジョリジョリジョリジョリジョリジョリジョリジョリジョリジョリ


彼女の頭頂、左コメカミ、右コメカミには、五百円大のハゲができる。


床の上に置いた銀機械から、コードを伸ばす。

赤・青・黄の、三本のコードを伸ばす。


頭頂の五百円ハゲに、ベタッと、赤電極を取り付ける。

左コメカミの五百円ハゲに、ベタッと、青電極を取り付ける。

右コメカミの五百円ハゲに、ベタッと、黄電極を取り付ける。


銀機械の上面に、赤・青・黄の線が描かれた、真っ青白い用紙をセットする。

用紙には、両端に、小刻みに震える青線と、小刻みに震える黄線が描かれている。

青線と黄線の間には、ミミズが大きく緩やかにのたうつように、赤線が描かれている。


セットした青白い用紙の上に、しなる釣竿のような、細くて強靭そうな、

針金棒を垂らす。

三本の針金棒をそれぞれ、赤線、青線、黄線の上にセットする。


『尻の穴から手突っ込んで、内臓かき廻したろか!』


銀機械の開始ボタンを、左手で押す。

針金棒はそれぞれ、それぞれの線の上を、奔り出す。


針金棒が奔るに従い ‥ 用紙の赤青黄線データが読み取られるに従い、

銀機械からコードに、光が奔る。

光は、コードを伝い、電極へ辿り着く。


銀機械 → 赤コード → 赤電極。

銀機械 → 青コード → 青電極。

銀機械 → 黄コード → 黄電極。


光が電極に辿り着き、電極に潜り込むや、彼女の体が、 ビクン と震え始める。


ビクンビクンビクンビクンビクンビクンビクンビクンビクンビクンビクンビクンビクンビクン


震え続ける。

震えが激しくなるに従い、彼女は、白目を剥く。


ビクンビクンビクンビクンビクンビクンビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビク


白目を剥き、『これ以上は無い』というところまで剥き、口の端から、白濁泡を噴き出す。

白濁泡は、顎をつたって、首筋をつたって、流れて行く。

彼女の着ている服に浸透し、体の前面に、シミを作る。


今、彼女の心も体も、彼の心と体の記録を、追体験していることだろう。


ビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクッ ‥


彼女の震えが、唐突に止まる。

白目部分にも、動きが無い。

口から、白濁泡が出て来るのも、止んだ。


左手で、電極を外す。

外した電極を、コードごとまとめる。

電極とコードを、ドラムバッグに、 ゴソッ と仕舞う。


はしたなく、しどけなく、長い眠りについた彼女を残し、部屋を去る。




「またですか」


デレクは、思わず、言葉を漏らす。


デレクは、シークに、右手で紙片を渡す。

シークは、それを受け取って、 しげしげ と見つめて、言う。


「またやな」


シークは、紙片 ‥ 真っ青白い用紙を、見つめ続ける。


ギザギザギザギザギザギザギザギザギザギザギザギザギザ

ビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビク

のたのたのたのたのたのたのたのたのたのたのたのたのた

うねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうね

ギザギザギザギザギザギザギザギザギザギザギザギザギザ

ビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビク


デレクは、鑑識の被害者死体調べが、一段落したのを見て取り、

死体を調べていたベテラン鑑識員 ‥ アルフに、問い掛ける。


「どんな感じですか?」


鑑識結果用紙に、なにやら書込んでいたアルフは、デレクに答える。


「五百円ハゲもあるし、前と似た感じやな」

「やっぱり、そうですか」

「奥歯はガタガタになってへんけどな」

「えっ?違うんですか?」」

「見てみい」


と、アレフは、死体のそばにしゃがむ。

デレクも、しゃがむ。

シークも、しゃがむ。


アレフは、死体を拝んでから、死体に被せていたシートをめくる。

死体の下半身は、下着一枚。

その下着の後ろ部分 ‥ 尻部分が、ずず黒く赤色と茶色に、汚れている。

デレクもシークも、その光景と臭いに、顔を歪める。


「アレフさん、これ ‥ 」

「ああ、脱糞しとんな」

「絞殺とかされて、死後 ダラン となったんですか?」

「いや、体全体は、普通の状態や。

  尻 ‥ というか、肛門だけ、やけに脱力している感じやな」

「尻の穴だけ、緩んでる って、わけですか。

  じゃあ、死因も、それなんですか?」


デレクは、『信じられない』というような目つきをして、アレフを見つめる。

シークも、鋭い目つきを、投げ掛ける。


「多分、違うやろな」

「と、言いますと?」


アレフは、下着の汚れを指差す。


「汚れの色を、見てみい。

  赤い部分が、やけに多いやろ。

  多分これは、血や。

  でも、肛門が傷ついたくらいで、これほどの出血は、しいひん」

「 ‥ ということは、中が原因 ‥ 」

「ああ、おそらく、内臓がやられて、殺されたんやろな」

「じゃあ、どんな殺し方されたんですか?」

「分からん」


二人の間に、沈黙が、降りる。

デレクと鑑識員の話を聞いていたシークは、二人の話が一段落すると、

デレクの肩を、左手で、ポンポンと叩く。


「現状では、グズグズ考えてもしゃーない。

  後は鑑識に任せてようや」

「 ‥ そうですね。

  アルフさん、よろしくお願いします」

「おお」


デレクは、アルフに声を掛けて、シークと共に、現場を去る。

シークは、デレクの肩に、左手を掛け押し、現場を去った。


{ 了 }

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