6【ヴィアラテア視点】新しい日常
「申し訳ございませんが……第三王子殿下は、本日もご体調が優れないとの事です」
殿下付き侍女の方の一人が、伝えに来て下さいました。
「そう……ですか。わかりました。どうか、お大事にされて頂けますようお伝えくださいませ」
「かしこまりました」
今回で3回目……。さすがにこれ以上は、しつこいと思われてしまうわよね……。
あの日以来、婚約者である筈の王子殿下とは、会えていない。私は一人、王城の中庭のガゼボで、美味しい紅茶とお菓子を頂く事に。
王都での生活は、不自由なく送れている。今は、母も一緒に滞在してくれているので、寂しさもない。久しぶりに母娘のんびりと過ごせて、嬉しい。ルポルト侯爵領は、貿易と国防を主な生業としていて、他国に赴く事がとても多い。そして、夫婦揃って参加しなければいけない社交も多い為、いつも中々のんびりと一緒にいられないのだ。母は、今年の社交シーズンの間は、ずっと傍にいてくれる事になっていた。
それでも、母もいつまでもはいてくれない。勿論、友人と呼べるような人もいないわたくしは、ここで一人になってしまう。生家や辺境伯領で一緒に居てくれた使用人達は、幾人かは一緒に来てくれると言っていたけど、高齢な事もあり申し訳ないので断ってしまった。現在は、王家で用意してくれた方々だけれど……闇属性が恐ろしいのか、嫌いなのか、まだまだよそよそしさを感じる。先入観とは、恐ろしい。実際は、魔力抑制具を着けているから魔法は何も使えないのに……。
元々、魔力が本格的に覚醒する年頃からは、知らず知らず魅了などの魔法に掛かってしまわないよう、使用人は短期間で定期的に入れ替えられる事になっている。闇属性魔法使いの手足とならないように。わたくしはまだ幼く、本格的に闇魔法を使いこなせる年齢でもない為、色々と融通して貰っているのだ。
なので、本当は王子殿下と仲良くなれるまででも、少しでも気さくにお話が出来るような人がそばにいてくれたらよかったのだけど……。
実はわたくしは、寂しいのが大の苦手だ。一人だと嫌な事ばかり考えてしまう。誰かと他愛無いおしゃべりが出来るだけで、心が明るくなるのだ。なので、2日と開けず何かしらの授業があるのも、実は嬉しかった。新しい事を学べるのも、楽しいし。
う~~ん……と一人、考える。やっぱり、まずは王子殿下と少しでも親しくなる事を考えるべきかしら?
先日の顔合わせの日の事を思い出す。終始俯かれていて、その感情や表情を読み取る事は出来なかった。でも、このバングルを見て……皇后陛下と同じ、気遣うような、労わるような視線を感じた。
恐らくだけれど、心根は優しいお人柄な気がする。今お会いできないのも、厭われているという可能性もあるけれど、皇后陛下のお話やあの日の様子から察するに、何か事情もありそうだ。
無理のない範囲で、無理をさせない範囲で、わたくしに出来ること……そうだ!
思いついたのが、お手紙を書く事だった。王城でわたくしの世話をしてくれる侍女の方にお願いして、便箋を用意して貰った。今度は、お気に入りの便箋セットを持ってこよう。
でも、何を書こう? あまり仰々しいと、却って負担に感じさせてしまうかもしれない……。
う~~~ん…………
首をひねっていると、目の前に広がる美味しい菓子が目に入る。
そうだ……。
『お好きな食べ物は、ございますか?
わたくしは、チョコレートクッキーが好きです。
ヴィアラテア・ルポルト 』
……王家の方に対して、気さくすぎたかしら?
でも、これ以上思いつかない。殆ど初対面の方に対して、何を書けば良いのかも分からない。
……不敬罪になる事はないわよね? それになったところで、わたくしは希少な闇属性魔法使いだもの。
最悪、幽閉になるだけよね? そうなったらお父様、本当にごめんなさい。
恐らく検閲もあるだろうから、敢えて封をせずに侍女の方に託す。明日の朝餉の時にでも、渡して欲しいとお願いして。どうせお勉強以外、やる事もないし。ほんの少しだけ、勇気が湧いてきた。えへへ。
それから、約一月半……お返事はなかった。
でも、出来る事があるのは嬉しい。わたくしは、毎日一生懸命話題を考えていた。
そろそろ、『好きなものはなんですか?』シリーズも底がついてきたから、読んだ本の感想でも書こうかしら? 題して、『こんな本を読みました』シリーズを……。そんな事を考えていたら、後ろから声を掛けられた。
そこに居たのは、思いがけない方だった。