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57【リヒト視点】覚醒


「やあ……楽しんでくれたかな?」


 僕の顔をして、僕の姿をした()()が、僕の声で話しかけてくる。

「……お前は、何者だ。何故、こんな事をするんだ」

 ふふふっと、それは楽しそうに笑う。実際の僕より、幾分幼い笑顔だ。


「何故……か。そうだね。この国にやって来たのは、偶然だったんだ。憧れている人の過去を追っていたら、ここに辿り着いた。……でも、今回の事は、昔から何となく考えていた事だったんだ。……僕の力は、どこまで使えるだろうって。どれだけの事をしたら、みんな僕の事を無視できなくなるだろうって」


 それは、ふらふらと歩きながら話しかけてくる。僕は、ふぅ~と長く息を吐いて、足を崩し座り、黙って聞く事にした。何より、ものすごく疲れてるんだ。

 

「実際、帝国のような広い国より、こちらの方が御しやすいと思ったんだ。中枢系統が王家に一本化されているし、解体も楽だから。人間を操るにしても、武力が主力の人間より、魔力が主力の人間の方が、僕にとっては都合が良い。君も気が付いただろう? 半分眠らせながら戦わせなくちゃいけないから、どうしても体術は質が落ちるんだ」


「……魔獣を操りこの国を襲わせたのも、お前だろう?」


「正解。ある程度の人間がいっぺんに片付くから、良いかなって思ったんだ。彼が先陣を切って向かってしまったのは、残念だったけど……まあ、それで儚くなればそれまでの人だったって事だから」


 僕は、聞きながら推理する。この男は、僕の事を知っているようだ。つまり、初対面では無い。そして、彼……中央広場に先陣を切ったのは、リヴだ。リヴの事も知っているとなると……帝国の人間か?

 

 不意に、それはひょこっと僕の前にしゃがみ込む。その瞬間、その姿はヴィアに変わっていた。嬉しそうに、僕を見る。僕は思わず目を見開く。偽物と分かっているのに……心が動く。それは、ヴィアの声で、語りだす。

 

「君……可哀相だね。大人しく部屋に籠り続けていれば、こんな大変な目にも合わなかったのに。闇属性魔法使い(ぼくら)に巻き込まれて、大変だったろう?僕は、君の事も結構調べたんだ。君の事は、結構気に入ってる。君はいつも真っ直ぐに、彼女を見て居たね。でも……その手は受け入れてもらえなかった。何となく、わかるよ……君の気持ち。僕もね……求め続けたのに、結局、手を握ってくれなかった人がいたんだ。僕の場合、……母親だけどね」


「……母親?」


 それはおもむろに立ち上がり、またふらふらと歩きだす。

 

「そう。僕はね……こういう闇の中で育ったんだ。みんな、僕を無視するんだ。僕の母親だけ、僕に何度か会いに来たよ。いつも、申し訳なさそうに涙を流すんだ。……でも、僕が手を伸ばしても、手を掴み返してはくれないんだ。……いつも、くるっと背中を見せて、扉から出て行ってしまう」


 その表情が、少し陰る。まるで、本当にヴィアが俯いているみたいだ。僕は、少し心が痛くなる。


「でも……そんな母も、僕を無視する父もいなくなって、僕は普通の生活を手に入れた。快適だったよ。二次覚醒してからは、よりね。どの人間も、ある程度僕の思い通りに動かせる。この人に好きになって貰いたいなって思ったら、”魅了”の魔法で簡単に好きにもなってくれるんだ。……まるで、操り人形みたいだった」


 男は、嬉しそうに笑って話す。ただ……それは、本心ではないだろう。想像しただけでも、空しい生活だ。


「君らの動向は、見ていてとても楽しかったよ!まるで、ドラマを見ているようだった。ヴィアラテアは、あれはダメだね。君を不幸にする。彼の好きな人だったから生かして置いたけど、僕は、彼女が嫌いだよ。だから、最後の夢を見せてあげたんだ。……彼女さえいなければ、彼女にさえ出会わなければ、君は平穏な暮らしをして来れたんだ」


 僕は、ヴィアの名前にぴくっと反応する。ぐっと拳を握りしめ、立ちあがる。僕は、零れる様に声を出した。

「……ぶな」

「……え?ごめん。聞こえないな」

 僕は、目の前のそれの胸ぐらをつかむ。ヴィアの顔をしたそれが、驚愕の表情に変わる。

「お前ごときが、ヴィアの名前を呼ぶな!」

 僕は、はっと鼻で笑ってしまう。ふつふつと怒りと共に、内側から力が湧き出して来る。もう、こいつなんて恐くない。

「お前……ヴィアが嫌いと言ったな。違うだろ。お前はヴィアが、()()んだ。自分が操れない人間だからな。ヴィアの評価は、お前を全うに見た評価だ。お前はそれを恐れたんだよ!」


 思いっきりそれを突き飛ばす。それは、床に尻をついて僕を見上げている。


「僕の気持ちがわかると言ったな。わかる筈、ないだろう。自分への評価を恐れて、ぶつかっていかないお前に……何がわかるんだ!お前、本当に人を思った事もないだろう。愛しくて、大切に思った事もないだろう。……その存在がいるだけで、どこまでだって強くなれるんだ。どこまでだって、優しくなれるんだ。心がずっとずっと広く、大きくなれるんだ。……たとえヴィアが僕を選ばなくても、僕がヴィアを愛した時間は消えない。僕は、彼女のお陰で、最高の自分になる事ができたんだ!」


 僕の体が、少しずつ光を纏っているのがわかる。僕は、怒りのまま、力を全部解放する。


 ……二次覚醒だ。これまで押さえ付けていた栓が抜け、体の隅々まで魔力がみなぎる。この魔力の使い方が、わかる。周囲がカッと明るくなって、僕は気がつくと会議室に居た。ぎゃあ!と悲鳴をあげ、痛そうに目を押さえて転がる男が目の前に居た。……ヴィクター・シュトラウス。こいつだったのか。

 

 見渡すと、隣には、グラナティアが座った状態で眠っていて、ヴィクターの魔力が途絶えたのか目をうっすら開けた。エレノアも同様に、座って眠っていたけれど、もぞもぞと動き始めた。時期に、卓に臥した彼らも目を覚ますだろう。ブリジット様だけがロープに縛られ転がされており、僕は立ちあがりブリジット様に駆け寄った。


「何故だ……何故魔法が解けた。闇魔法は、闇魔法でしか解けないのに……」

 ヴィクターは、ようやく目が回復してきたようで、床に座ったまま僕を見ている。

 

 僕は、ブリジット様のロープを小刀で切ると、ヴィクターに向き直る。


「……僕は、ずっとブリジット様の魔法を見てきた。そして、今回、お前の魔法もな。観察する内にわかったよ。……闇魔法は、僕らの脳神経に働きかける魔法だ。僕の魔法は、砂粒程度の光を出すだけの魔法だと思っていたが、そうじゃない。砂粒程度の光だけでなく、()()()()()()()も、その魔力量の限り無数に出して繊細に操れる魔法だった。だから、僕の全身の神経を、僕の光で覚醒し、目を覚まさせたんだ」


 ヴィクターは、半ば茫然と僕を見ている。目を覚ました全員が、僕を見ている。僕は、気にせず続ける。


「もう、闇属性魔法使い(きみたち)の魔法は、僕には効かない」


 ヴィクターは、観念したように、俯いた。

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