53【エレノア視点】きっと、きっと、大丈夫
「……ヴィアを、責めないでやってくれ。あの子も随分、悩んだと思うんだ」
目が覚めて、事の仔細を聞き、ブリジット様と共にヴィアお義姉様の元へ向かう。その道すがら、お兄様とお義姉様の事を聞いた。ブリジット様は、お義姉様から直接お聞きになったらしい。
お二人の事は、何となく察していた。きっと何かあったんだろうなって。だって……お兄様がまた引きこもるなんて、お義姉様との事意外で思いつかないもの。
以前のわたくしだったら、きっとショックを受けていた。……ううん。本当は、今も少しショックを受けている。だって、本当に睦まじいお二人だと思っていたから。でも……今なら、お義姉様の気持ちも、わかってしまう。
アスガルズ帝国のフレイ様に会った時……わたくしの心臓は、とび跳ねた。
それまでは、王族だもの……政略でも、愛の無い結婚でも、歩み寄れたらそれで良いって思っていた。民の為、国の為、この身を捧げられるならそれで良いと。でも、今は違う。
フレイ様が、わたくしの名を呼ぶ度、嬉しくて舞い上がってしまう。
フレイ様が、わたくしを見るたび、自分がどんな顔をしているか気になってしまう。
フレイ様の笑顔をみるたびに、幸せな気持ちになってしまう。
……彼の特別になりたいって思う。
そんな人、今までいなかった。
生涯を、共に歩むなら彼が良い。彼でないのなら、わたくしの人生はとても色褪せたものになってしまう。
お義姉様は、そんな相手を見つけてしまわれたんだ……。
お兄様が、悲しむ姿が思い浮かんで、わたくしも悲しくなる。
三人で過ごした仲睦まじい時間に、自分だけ置いていかれてしまうようで、寂しくなる。
でも、そこまで考えて、ぶんぶんと顔を横に振る。
お二人は、わたくしを置いて行ったりなんてしない。
わたくしだって、遠くに行くんだ。大好きな、彼のもとへ。でも、大好きなお二人を置いて行ったりなんてしてない。心はいつも、共にある。
わたくしは、ブリジット様の体を支えて、西の塔の階段をぐっと踏みしめる。
この騒動が、無事にすんだら……お兄様をいっぱい元気づけてあげよう。
新しい恋を探すのも、良いかもしれない。どなたか良い方いたかしら?
お義姉様の事も、たくさん応援してあげよう。
レギオン大公とは……あまり話さなかったけど、お義姉様を泣かせたら、ただじゃおかないんだから。アスガルズに帰られる前に、ちゃんと釘をさしておかないと。
大丈夫。みんな、みんな、きっと幸せになれる。
わたくしだって、きっと力になってみせるわ。
だってわたくしは、次期、帝国の皇后なのだから!




