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51【リヒト視点】戦闘が始まる


 僕とグラナティアは、ひとまず皇太子殿下(あにうえ)の執務室に向かう事にした。

 ヴィアの今の状況を、詳しく聞く為だ。けれど、兄上の執務室につく少し前から、物々しい雰囲気を感じる。騎士達数名が戦闘の準備を終えて、兄上の部屋の前で待っている。


 執務室から、兄上が出てくる。兄上もまた、騎士服を身に着けていた。


「兄上!」

「……リヒト。出て来たのか」


 僕とグラナティアは、騎士達を掻きわけ兄上の目前に行く。兄上の騎士服姿は、初めて見た。長い金色の髪も、今日は一つに束ねられている。


「ねえ……どうしたの?何があったの?」


 兄上は騎士達に先に行かせ、僕らに向き直る。

 

「……国内すべての森の魔獣が、一斉に騒ぎ出したんだ。シールドがあちらこちらで破られるのも……時間の問題だ」

「「――――!!」」


 僕とグラナティアは言葉を失う。シールドが破られれば、人的被害は免れない。


「そんな……!何でそんな事に……」

「さあ……何者かに仕組まれた事だろうとは思っているけど、結局尻尾は掴めていない」

「……もしかして、数年前から起きてる魔獣の被害も?」

「ああ。間違いなくそうだろう。入念に、準備を進めて居たってところだろうな」

 ふっと兄上が鼻で笑うが、その表情は、悔しさが滲みでていた。

 

「どうするの?兄上は、どこに向かおうとしているの?」

「ひとまず、このままではどこで被害が起こるか分からない。全ての森に通じる道が、王都中央広場で合流する。敢えてシールドを開けて、魔獣達をそこにおびき寄せて迎え撃つ事になった。だから、僕もそこに行く。先んじて、()()()()()()も向かってくれている」

「そんな……」

 国の勢力を総動員して、どれ程の事が出来るのだろう? 魔獣一匹一匹にも苦戦するのに……群がってやってくるなんて、規模が大きすぎて想像も出来ない。もし、兄上の身になにかあったら……。だって、クリオお義姉様のお腹には……今……。


「城は、引き続きシールドの中に居るが……お前とエレノアだけでも、辺境伯領に下がれ。エレノアは、今頃ブリジット様が到着されて目を覚ましている頃だろう」

 僕ははっとして、首を傾げる。

「どうして、エレノアのもとに、ブリジット様が……?」

 

 兄上は嘆息する。そして、僕の目を真っ直ぐ見て、言った。

「……一連の騒動は、恐らく闇属性魔法使いの仕業だ」


 僕とグラナティアは、目を見開く。今、この国にはヴィアとブリジット様以外、闇属性魔法使いはいない筈だ。……まさか、他国から?ブリジット様を害したのも、ヴィアを排したのも、この時の為だったのか!でも、ブリジット様がいるなら……そうだ、”鎮魂歌”がある!

 

「ブリジット様がいるなら、魔獣を鎮められるんじゃないか!?」

「ブリジット様は、まだ完全に回復されていない。それに……もう御高齢だ。この規模の”鎮魂歌”を展開するのは無理だ。エレノアの件が済んだら、この城にフィールドを展開する準備を進めてくれる。もし、この城内に操られている者がいたとしても、時期に目を覚ますだろう。ヴィアラテアにもその手伝いをしてもらう為、今人を向かわせた。ただ、今段階では完全に安全とも言えない。……スエロ公爵令嬢。君も自領に戻るか、二人と共に辺境伯領へ向いなさい」

 ヴィアの名前を聞いて、体が反応する。ヴィアも頑張っているのに、僕だけ逃げろって言うのか?僕は、ぐっと拳を握る。こんな時まで、安全な場所にいるなんて嫌だ。

「……僕はいかない」

「リヒト……」

「僕はいかない。魔獣との戦闘は足手まといになるかもしれないけど、城内がまだ安全でないなら、ブリジット様とヴィアの御身を守る。……グラナティア。君だけでも、エレノアと共に安全な所に行ってくれ」

 僕は、グラナティアを見る。グラナティアは、逡巡したようだけど、すぐに首を横に振って答えた。

「……いいえ。リヒト殿下がお二人を守ると言うのなら、わたくしはリヒト殿下の御身を守ります。わたくしは、第二次覚醒まで終えております。炎の使い手なら、右に出る者はいないと言われています。必ず、お役に立って見せます!」

 

 兄上は、何も言わず僕らを見る。僕らは、一歩も引かずその視線を受け止める。そして、兄上は諦めたように笑うと、いつもみたいに僕の頭を撫でた。

「……わかった。ただ、二人とも無理だと思ったら、すぐに退避するんだよ。わかったね。必ず、生き残るんだ」

 僕とグラナティアは、力強く頷く。兄上は、そのまま踵を返し戦場へと向かった。僕とグラナティアはその姿を見送り、エレノアの部屋へ急いだ。

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