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47【リヒト視点】恋心と依存

 

 はやる気持ちを落ち着かせながら、ブリジット様の元に向かう。

 馬車に揺られる間、自分に言い聞かせる。

 僕は、何を心配しているのかと。

 お体の具合の悪いブリジット様を置いて、ヴィアがどこかに行く筈がない。

 ご両親の事や、僕らの事だって、大切にしてくれていた。


 そもそも、たとえリヴが現れた所で、護衛が数人いる筈だ。

 中に通す筈がない。

 

 それに、僕らは、婚約者同士だ。それは、陛下が決めた事だ。

 それは、変えられない事実だ。

 

 ……そんな事を考えるのに、不安はどうしても拭えない。


 僕は、何をこんなに恐がっているのだろう?



 

 

 ブリジット様の邸宅に到着する。ブリジット様のご容態はどうだろうか?

 慣れた道を急ぐ。


 温かみのある木戸をあけ、中に進む。

 いつもみんなでお茶を飲むリビングを通り抜け、階段で2階へ。

 夜の闇が、ひんやりと感じられる。



 ブリジット様の部屋の前でノックをするが、返事がない……。

 ヴィアが……居る筈だよな?


 キーッと軽い音を立てて扉をあける。

 ブリジット様の脇に、光魔法が灯されたランタンが見える。

 目を凝らすと、すやすやと、寝息を立てているのがわかる。

 ……落ち着いたのか?

 じゃあ、ヴィアはどこに……

 

 

 部屋に入り、辺りを見回すと、テーブルの上にカップが二つ、並んでいた。

 どくっと、胸が跳ねる。

 まさか……


 ふと物陰から、白く浮き上がるドレスの裾が物陰から見えた。

 近づいて行くと……ヴィアがしゃがみ込んで泣いていた。


 その震える肩には男物の上着が掛けられているのがわかった。

 何があったのか。何故、ヴィアは泣いているのか。

 

 ……何となく、わかってしまった。

 


 時が止まったように、僕は動けなくなる。ヴィアが、なぜか、いつものヴィアに見えない。自分の知らないヴィアが、そこに居る様な気がしてくる。……それでも、ヴィアはここに居る。


「ヴィア……」

 

 ヴィアの名前を零すように、呟いた。小さく震える体が、ぴくっと反応する。

 ヴィアは、ゆっくりと顔をあげた。



 ――……っ!



 僕は、驚いて息を飲む。胸がどくどくと脈打ち、顔に熱が集まる。

 誰かを想って泣く、ヴィアの顔が……あまりにも美しくて。

 

 そんな事を思っている場合じゃないのに、急に心が混乱する。

 今、僕が動けば、今まで大事にしてきた物が全部、形を変えてしまう気がした。


 

 ――震える肩を掴んで、抱きしめたい。

 ――涙を拭って、口付けしたい。


 今この瞬間は、ヴィアが僕の婚約者かどうかなんて、そんな上辺だけの関係に何の意味もなかった。


 ……好きだと、思った。


 僕は、ヴィアの事が、好きだと思った。言葉にすると、余計ドクドクと胸が脈打つ。それは、綺麗なだけの気持ちじゃなかった。

 だから、余計に躊躇われる。いつも、何も気にせず、手を握ってエスコートしていたのに。泣いているヴィアに駆け寄れなかった事なんて、今まで一度だってなかったのに。

 自分の変化に戸惑いつつも、気持ちを落ち着かせて、ヴィアにもう一度声を掛けようと試みる。


「……ヴぃ」

「リヒト様」


 ヴィアが、俯いている。嫌な予感がする。僕を見て。こっちを、向いてくれ。


「……婚約を、破棄して下さい」


 …………

 ヴィアは、何を言っているんだろう?

 それは、つまり……

 

「……彼の、所に、行くの?」


 そんな事、出来る訳ない。ヴィアは、()()()()闇属性魔法使いだ。どこにも行ける筈がない。そんな仄暗い考えが、頭に浮かぶけれど、ヴィアは首を横に振った。


「……わたくしは、蟄居する事を選びます」


 よろっと、後ろに一歩、下がる。

 「そう……」と一言だけ呟いて、僕はヴィアを置いて、その場を去った。


 

 どうやって、帰って来たのか……気がついたら、自室にいた。

 使い慣れたベッドに寝転び、天井を見上げる。

 こんな情けない話、ない。僕は、恋を自覚した途端、振られてしまったんだ。

 情けない自分が、恥ずかしい。笑ってしまいそうだ。


 もっと、早く自覚していたら、何か違ったのかな?

 もっと早くに思いを口にしていたら……あの時、初めて行ったデートの帰り道、気持ちを確かめあっていたら、僕らはまだ、手を取り合って乗り越えていけたのかな?

 

 なぜ、こんなにも君を望むのに……君は僕を選ばないんだろう?



 部屋の中は、変わらず静かで、整然としている。

 それが妙にイライラする。


 僕らは……いや、()()

 今まで、何のために、頑張っていたんだっけ?


 ()()、どうして、部屋から出たんだっけ?


 僕は、それから部屋を出る事がなくなった。

 僕はまた、引きこもり王子になった。

 

 

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