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4【ヴィアラテア視点】みんなわたくしの為に


「そう……。何かあれば、何でも言って頂戴ね。これから、あなたも社交界に出るようになるでしょう。その中には、口さがない者も多くいると思います。けれどこれからは、王家が後ろ盾となり、あなたを守る事を約束しましょう。……どうかもう一つの家族と思って、頼って頂戴ね」

 

 皇后陛下は、わたくしに優しくそうおっしゃってくださいました。けれどその言葉で、今までの生活が終わりを迎えたのだと、いやが応でもわかってしまい……少し心が塞いでしまう。


「……は、い。本当にありがとうございます」


 いけない……少し表情に出てしまっていたかしら?


 この婚約は、わたくしの為のものだった。他の側面もあるのかも知れないけれど、少なくともわたしくしは、そう捉えていた。


 闇属性魔法使いの対応は、世代を超える毎に緩和されている。かつて幽閉や拘束の憂き目にあってきた三~四代前の先代達が、王家の者のみが着け外し出来る闇属性対応の魔力抑制具(バングル)を開発し、闇属性魔法使いにもある程度、自由が許されるようになった。けれど、そのバングルすらも闇魔法で作られたものじゃないかと、効果の程はわかったものじゃないと言う貴族達が、一定数いるらしい。

 その為、先代までの闇属性魔法使いは、幽閉まではしないまでも、自ら王都にある決められた屋敷に籠る事を選んだ。家族の下を離れ、王家の保護・監察の下、友も得ず、結婚もせず、静かに暮らし、役目を全うした。わたくしも、この顔合わせの後、すぐに王家所有の屋敷に移る事になる。本来ならば、社交にも出ず、そこで生涯過ごせば良いだけ。

 

 でも、それはわたくしの父が許さなかった。『何故、何も悪い事をしていない自分の娘が、そんな扱いを受けなければならないのか』と。また、『魔力溜まりの緩和や魔獣の抑制も行い、国の為に働く者に、そのような粗末な扱いをするのは許さない』と。『娘にも、友を得て、恋をして、幸せな未来を描く権利がある』と……王家を始め、全ての貴族達に意を唱えた。

  

 ルポルト侯爵領は、海岸沿いに位置し、貿易と国防を担っている歴史の古い家柄だ。その影響力は大きく、だれも父の意見を真っ向から否定する事は出来なかった。また、国内の魔獣討伐の第一人者であり、王家の近衛を凌ぐ私兵を率いる祖父母の……辺境伯家の後押しも大きかった。

 みんなの気持ちが、本当に嬉しかった。

  

 そこで出た仲裁案が、この婚約だった。治世に付かず、いずれは他家を継ぐであろう第三皇子と婚約し、社交の場にてわたくしの人となりを示す事。王家への忠誠心を示す事。期限は設けられていない。父は納得していなかったが、現状、それが()()()選択だった。

 


 けれど、わたくしは、父が王家といざこざしている間に預けられた辺境伯領で、幸せな暮らしを知ってしまっていた。祖父母は、わたくしを普通の……ただ大切な孫娘として、接してくれた。

 それに辺境伯領には、リヴ兄様が居た。リヴ兄様は、辺境伯領に養子に入られた、わたくしの叔父にあたる人だ。年は、5歳しか違わないけど。


ブルーグレーの髪と、深い海の色の、優しい瞳を思い出す。

 リヴ兄様は、わたくしが心細くて1人部屋で泣いていると、絶対に気がついてそばにいてくれた。眠れないと言えば、背負って星空を見に連れていってくれた。


 闇魔法が恐いのは、貴族達だけではない。それなのに、わたくしが街へ行ってみたいと我が儘を言えば、魔力の影響で闇属性だとすぐに分かってしまうわたくしの髪と瞳を、変なフードと色眼鏡で隠し、連れて行ってくれた。それも、『こんな格好恥ずかしい』と言えば、自分はもっと変な格好をして、『2人で変な格好なら、仮装か何かと思われるんじゃないか』と、瞳を細めて、笑って言ってくれた。初めて見る街の景色は、きらきらと明るく輝いていた。

 

 それに、リヴ兄様は言ってくれた。『闇魔法は、みんなを守る素敵な魔法だ』と。そして、闇属性という言葉だけが、わたくし自身を表す言葉ではないと……。

 王家の監視も付いていたし、両親や祖父母に迷惑を掛ける事は出来ないから行ける所も限られていたけれど、わたくしの心はどこまでも自由でいられた。言葉で言い尽くせないくらい、有難く、満たされた幸せな時間だった。でも……。



 膝の上に置いていた手に、少し力を込める。

 ここで、同じ様な時間を築いて行けるかしら?第三王子殿下とは、仲睦まじくなれるかしら?

 思えばこの方にも、ご迷惑をお掛けしてしまう事になるのよね……。

 

 極度に人見知りで、あがり症な為、出来ればそっとしておいて欲しいと、事前に聞かされていた。なので、わたくしと母は、なるべく殿()()()()()()()()()()過ごす事を決めていた。

 けれど少し気になってしまい、顔を向けてしまった。そしたら丁度、王子殿下もこちらを向いていた所だった。私のバングルを見て、気遣う様な、労わるような……そんな視線だった。

 やってしまったと思ったけど、目も合ったのでニコリと微笑んでみた。そしたら……


「も、申し訳、あり、ま、せん!……た、体調が、体調がすぐれません、ので、僕、僕は、……これで!」


 ……やっぱり、やってしまったみたい。脱兎のごとく、出て行かれてしまいました。皇后陛下が、頬に手を当て溜息を吐かれました。

「本当に、ごめんなさいねぇ」

 いいえ、わたくしの方こそ。わたくしはただ、眉尻を下げつつ微笑んで、首を振った。

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