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37【リヒト視点】そういう所だぞ


「……というわけで、ヴィアをデ、デートに誘いたい」

「誘えば良いじゃないか」


 僕はまずはルシエルに相談する事にした。ルシエルは、ますます身長が伸び、体も大きくなり、甘いマスクに精悍さが加わり、もの凄くモテている。悔しい。見かけに寄らず真面目な性格も、それに拍車を掛けているようだ。だから、この手の話は得意な筈だ。僕も、兄上に似てきたのでまあまあ綺麗な顔なのだが、どうも可愛らしさが抜けないらしい。


「簡単に言うな」

「何が難しいんだよ。もう何度も二人で出掛けてるじゃないか」


 ルシエルは、いつからか僕に対する遠慮がすっかりなくなった。今日は、二人で学院の中庭のテラスで昼食を取っている。春も過ぎ、今日はだいぶ日差しも強い。傘がある席が空いていて良かった。

 

「そういうんじゃない。今までは、学院と王城と……行けたとしてヴィアの邸宅までの送り迎えと、ブリジット様の所だけだった」

「……今までは、どうやって会う約束をしてたんだよ」

「それは……成り行きで」

「成り行き?」

 

 ルシエルは、3つ目のパンに手を伸ばす。その他にも、米やら肉の塊やらが手元に沢山ある。貢ものらしいが……毒でも盛られていたらどうするんだろう。


「……王城では、ヴィアが王子妃教育を終えた帰りに少し散歩をしたり、学院ではいつもみんなと一緒じゃないか。あとは”見学会”の打ち合わせを馬車やブリジット様の所でしたり……そんな感じで」

「……なるほど。イベントの時とかはどうしてるんだ?」

「イベント?」

「祭典の日……は無理か、誕生日とか」

「僕の誕生日は、城で小規模ながらもみんなを集めているじゃないか。君も来てくれただろう?ヴィアの誕生日は、ブリジット様の所で毎年。ブリジット様とヴィアは誕生日が近いから、二人合わせて」

「…………」


 ルシエルが、んん~~……? と首を傾げて何か考えている。やっと考えてくれる気になっただろうか。

 

「……プレゼントとかはどうしてるんだ?」

 

 違った。話が逸れてる。

 

「え?プレゼント?毎年贈ってるよ。ヴィアの大好きなお菓子とお花を。婚約した年からずっと」

「………………」

 

 ルシエルは、しかめっつらをして、頭を抱えてしまう。何なんだ一体。

 しばらくして、ルシエルが立ち直ったようで、戻って来る。


「……ヴィア姉さんとは、思い合ってるんだろう?」

「え?」

「言葉で確認した事無いのか?」

「…………」


 僕は、つい何も言えなくなる。実際、ヴィアが僕の事をどう思っているかなんて聞いた事は……ない。僕はずっと、あの日のリヴ・オセアンの言葉が気になっている。ヴィアに変に確認したら、藪蛇なんじゃないかって思ってちょっと恐い。最近は、ヴィアの口から辺境伯領での事を聞く事もなくなっていた。

 それに、僕らの婚約は幼い頃、陛下の命で決まった……いわば、既定路線だ。ヴィアの処遇に関して、僕は思うところがあり、ぜひ婚姻して、()()()()()を手に入れてあげれたらと願っている。だから、敢えて確認する必要もなかったのだ。


「……まあ、そんなに軽く聞ける事じゃないのはわかるけど、言った事もないのか?」

「え?」

「ヴィア姉さんに」

「…………」


 僕は固まる。ルシエルは、頬杖をついて、僕を見ている。


「ヴィア姉さんの事、どう思ってるんだ?」

「…………」


 もう、その質問を聞くのは、何度目だろう? ……以前なら、「ヴィアは僕の大切な婚約者だ」って、胸を張って言っていた。でも最近は、その答えは何か違うような気がする。何かが足りないような……そんな感じだ。だから……何と答えていいのか、わからない。


 僕が何も答えないのを見て、ルシエルは諦めたみたいに息を吐く。

「まあ……二人の問題だから、これ以上は何も言わないけどさ。取り合えず、リヒトが考えなくちゃいけないのは、どう誘うかじゃない。その日、どう過ごすかだ」

「え!」

「というわけで、俺と行こう」

「……え?」

……嫌だよ、気持ち悪い。


「……今、絶対失礼なこと考えたろ」

「…………」

「下見に行こう。当日エスコートも出来るように」

 

 ルシエルのこういう所がむかつくんだ。最後は絶対優しい所が。


「行かないのか?」

「……行く」


 僕らは、鐘の音と共に教室に戻る。


 実際……僕はどうするんだろう? どんな方法があるのか、わからないけど……もし、本当にリヴがヴィアを迎えに来たら。そして、ヴィアがそれに着いて行きたいと言ったら……

 胸がどくどくと、脈打つ。

 ……どうして、こんなに……不安?な、気持ちになるんだろう?


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