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34【リヒト視点】広がる輪


「……待ってくれ! リヴ・オセアン」


 間に合った。去ろうとする彼を咄嗟に引きとめた。

 リヴと呼んだその男は、馬を引き連れたまま、深い海の色の瞳をこちらに向ける。


 あたりはまだ、暗いままだ。

 会場では、まだ”鎮魂歌”が展開されているのだろう。


「……なんの用だ」


 ため息交じりに言われる。リヴはフードを外し、僕に向き直る。


「…………ヴィアに。ヴィアに会いに来たんじゃないのか?」

「……いや、ばあさんに世話になったから、挨拶ついでに見送っただけだ」

 

 ……ばあさん?誰の事だろう。誰か知り合いがいるのか?いや、そんな事より……


「ヴィアに、会って行ってはくれないだろうか? 彼女は、本当に貴殿に会いたがっていて……」


 リヴの眉が怪訝そうに片方あがる。何か変な事を言っただろうか?


「お前は……ヴィアが、他の男と会っても平気なのか?」

「他の男……って、貴殿はヴィアの縁戚だった者だろう?兄のような存在だったと聞いている」

 

 リヴが、ふっと鼻で笑う。

「兄……か……、じゃあ、お前はヴィアの何なんだ()()()()

「え?」

「お前は、ヴィアをどう思っているんだ?」


「どうって……」

 この手の質問を、最近も受けた気がする。……ああ、そうだ。兄上からだ。

「ヴィアは、僕の大切な婚約者で……」


「婚約者ねぇ……」

 リヴは首の後ろに手を乗せて、目を伏せる。


「まるで、()()()()()だな」

「――……っな?!」


 鼻で笑われ、かっと顔に熱が集まるのが分かる。


「……何が言いたいんだ!」


 リヴは僕の質問に答えず、馬に跨る。高い位置から、僕に言う。


「別に……お前に言いたい事なんてないさ。精々、その位置を守っていてくれ。……どこに居たって、俺はいつか必ず彼女を迎えに来る」

 

 それだけ言うと、リヴは走り去ってしまった。手をぐっと握る。怒りなのか羞恥なのか、体がわなないてるのに気がつく。僕は、踵を返し、聖堂に戻る。


 暗闇の中、女神ノクタの像が、静かに微笑む。どのくらいそうしていたのか、徐々に窓から光が差し込む。

 ”鎮魂歌”が、終わったんだ。にわかに、聖堂の外がざわめいている音がし始める。


 ギーーーッと、古い音を立て、扉が開く。

 ヴィアが入って来て、僕の姿を見ると心配そうに駆け寄って来る。


 「……リヒト様! 何か……何か、あったのですか?」


 僕は、ヴィアを見る。今、自分は、どんな顔をしているだろう。彼女の目にはどう映っているだろう?


「ヴィア……」

「……はい」


 僕は自分を落ち着かせるようにふぅっと息を吐き、微笑む。


「……なんだか女神ノクタに似ているね」

「……!」

「とても綺麗だ……」

 ヴィアが、真っ赤になって俯く。何故だかわからないけど、それだけで、少し溜飲が下がったような気がした。


ヴィアに連れられて、外に出ると、不思議なくらい霧がすっきりと晴れ、温かな日差しに包まれた。


 その後、僕らは見学客に挨拶をしながら見送った。全ての客人を見送ると、ヴィアは嬉しそうにグラナティアとの事を話してくれた。子細は省かれたけど、あの発言はやはり自分に向けたものでは無かったと。謝罪し合って、友人になったのだと。僕は……彼が来ていた事は、ヴィアには話せなかった。何となく……その時はヴィアに彼の事を思い出して欲しくなかった。


 

 その後、ヴィアとグラナティアの交流は深まった。スエロ公爵は、まだ見守る姿勢のようだけど、あの一件以来、闇魔法に対する忌避感がかなり薄れたようだ。僕とルシエル、ヴィアとグラナティアは、いつも一緒に行動するようになった。

 

 翌年には、エレノアも学院に入学し、僕らの輪に加わった。楽しい時間があっという間に過ぎて行き、僕らは、高等部に進学した。僕は16歳、ヴィアは17歳になっていた。

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