23【リヒト視点】ヴィアの悪だくみ
促されるまま入っていくと、家の中はとても綺麗に整えられ、色とりどりのファブリックが居心地の良さを作りだしてくれている。席に通され、シナモンの香りのするお茶が出される。
「お師匠様、こちらがわたくしの婚約者のリヒト・ヴァン・アルフェイム殿下と辺境伯家でお世話になったルシエル・オセアン辺境伯子です」
「リヒトとお呼びください。お会いできて光栄です」
「僕の事もルシエルと」
「ブリジットです。私の事は好きに呼んで頂戴。もう世俗も離れて、最近は家名も名乗っていないの」
ふふっと笑うその仕草が、少しヴィアと似ている気がした。けれど、さすが先代国王陛下の妹君というだけあって、風格と品位の感じられる人だった。
「それで、ヴィア。そろそろ白状したらどうだい?また、何か面白い事を思いついたんだろう?」
「ふふふ。そうなんです。実は春の祭典に関わる事でして……」
「「春の祭典?」」
思わず声を出したのは、僕とルシエルだった。確かに近々、春の訪れを祝う祭典がある。3日間程休日が続き、王城も街もお祭り騒ぎになるのだ。
「はい。この季節の祭典ですが……わたくし達闇属性魔法使いにとっては別の意味合いがあるんです。祭典の執り行われているその裏で、魔力溜りを抑制し、魔獣の心を沈める“鎮魂歌”という大規模な魔法を展開するという、重要な日になるのです」
「……! だから、祭典の日はいつもいなかったんだ……エレノアと二人で、いつも不思議だったんだ」
「はい。今まで言えずに申し訳ありません。この日は、闇属性魔法使いのバングルが外されるので、恐がる人もいるから公表を控えていると教わっていたので……何となく、どこまで言って良いものか判断できず、誰にも話せずにおりました……」
「なるほど……でも、今日この場を用意したって事は、何か考えがあるんだろう?」
「はい。実は以前から、この“鎮魂歌”を皆様に見学して頂く事は出来ないかと皇后陛下にご相談させて頂いていたんです」
「「見学?」」
また、ルシエルと声が重なる。ヴィアは、鷹揚に頷く。
「はい。わたくしは、成人になる頃までに闇属性魔法使いの安全性を皆様に説かなくてはなりません。それは、わたくしの人柄に対するものもそうですが、それだけでなく、闇魔法そのものを見て頂けないかと思っておりまして……」
……確かに、見ると聞くとでは大きく違うかもしれない。闇魔法に関しては特に、みんな勝手な印象だけで悪く言っているような所がある。
「皇后陛下は、希望者だけであれば問題ないのではとおっしゃってくださいました。警備の方も増員し、シールドの内側で、わたくしどもが祈りを捧げるのをただ見ていて頂ければと……どれ程の方が集まって下さるかは、わかりませんが」
「なるほど……でも、意外とみんな興味があるんじゃないかな?僕らの国がどうやって守られているのか、上位貴族程知っておいた方が良いと思うし。辺境伯の両親も、多分それを聞いたらどちらかは駆け付けると思う」
「はい。実は皇太子殿下もそうおっしゃってくださいました。皇太子殿下は、毎回陛下に変わり、わたくし共のバングルを外す役割を担って下さっているので、毎回参加されているんです」
そうだったんだ。知らされていなかったとは言え、知らなかった自分が少し恥ずかしいし、もどかしい。ヴィアは、色々考えていたんだ……まだまだ、努力が足りないなぁ。少し落ち込んでいると、その様子に気がついてか、ヴィアが慌てて声を掛けてくる。
「あ、でも、本当に思いついたのは最近なんです。学院に通うようになって、周りのみなさまを見ていて何となく……それで、今回良い機会なのではと思いまして」
はっと気を取り直して、尋ねる。
「そうそう。それがグラナティアの一件と、どう絡んでくるんだろう?」
ヴィアがちらっと護衛の位置を確認する。僕ら3人だけに聞こえるよう、口元に手を当てて小声で話し出す。
「そこに、もしグラナティア様を連れて来られたら……リヒト様の意識とグラナティア様の意識を繋げる事が出来ないかと思いまして」
「「…………?」」
僕とルシエルが首を傾げるのに対し、ブリジット様は「なるほどね……」と小さく笑う。
「つまりわたくしの闇魔法を使って、お二人の夢の中で会っていただくのです」




