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21【リヒト視点】違和感の正体


 その日は、専攻科目を選ぶ為に、僕とルシエルは、昼食を取りながらヴィアとその友人らの意見を聞くことになっていた。学院には複数の場所で食事が取れ、最も広い食堂、カフェテリア、サンルーム、そして中庭にあるガゼボやベンチなどがある。今日は僕達はカフェテリアに行く事にした。サンルームよりは窓が大きくないものの、明るすぎず、心地よかった。


 紹介されたのは、あの茶会でも言葉を交わした、ソフィア・ケントニス伯爵令嬢とアルテ・メアーナス子爵令嬢だった。ソフィア・ケントニス伯爵令嬢は、水色の真っ直ぐな髪を高い位置に一つに纏め、切れ長のブルーの目を持つ背の高い少女だ。確かお父上が魔法省に所属し、かなり優秀な人物と聞いた事がある。アルテ・メアーナス子爵令嬢は、肩より少し長いオレンジ色の髪に、まんまるいグリーンの瞳にシンプルな丸い眼鏡を掛けている。本来の生家は王都から離れた遠方にあるようだが、お父上が個人の所有する商会で画商のような事をやっており、幾人もの新人画家を発掘した事で有名な人だ。恐らく、お父上に付いて王都に来たのだろう。

 

「……概ね、こんなところでしょうか」

 メアーナス子爵令嬢が、説明を終える。お父上の影響でか情報収集能力に長けているようで、学院ではまだ1年しか過ごしていないのに、それぞれの教授が持つ科目の良否を細かに教えてくれた。


「ありがとうございます。とてもわかりやすかったです」

 ルシエルが嬉しそうに告げる。一段落ついたところで、それぞれ飲み物やデザートを再度注文する。ヴィアの様子をちらっと横目に見る。日を追うごとに気持ちは落ち着いたようで、見た目には、もういつも通りの明るく優しいヴィアに戻っていた。彼女は本心を隠すのが上手いように思うので……僕はまだ少し気になっているけど。

 

 僕の視線に気がついたのか、ヴィアが微笑みながら僕を見て、質問してくる。

「クラスの方はいかがですか?もう慣れましたか?」

「ん~……そうだね。概ね……」

「?……あ、そういえばスエロ公爵令嬢と同じクラスでしたよね。お話する事は出来ましたか?」

 

 僕が学院に入学してからこの1週間程は、バタバタと忙しくしてしまって、二人でゆっくり話す事が出来ていなかった。だから、グラナティアの事についても話せていなかった。

「……それが、中々。どう、話しかけて良いものか悩んでしまって……って、どうかされましたか?」


 メアーナス子爵令嬢とケントニス伯爵令嬢が、驚いたような顔でこちらを見てくる。なんだろう? 二人は顔を見合わせて、メアーナス子爵令嬢がその理由を話してくれる。

「えっと、……その、王子殿下がスエロ公爵令嬢を気にかけていらっしゃったので、少し驚いてしまって」

「リヒトと呼んでください。学院では、後輩なので。……グラナティアとは幼馴染で、以前はとても仲が良かったのです。お二方に初めてお会いした茶会の日以来、ぎこちなくなってしまいましたが……」

「……はい。記憶しています。あの日以来、社交の場ではリヒト殿下は一躍有名人でしたから」

「え?!」

 つい、少し大きな声が出てしまった。あの日以降、また社交の場から遠のいて殆ど引きこもっていたのに……どうして有名人になれるんだ。

 

「えっと、その、あの……アルフェイムの3人の王子殿下は、やはり社交界の子女達の憧れなので、どの王子殿下に一番憧れるかという話題はよく出るのです。けれど、あの茶会までは、リヒト殿下はあまり社交の場にいらっしゃらなかったので、どちらかというと皇太子殿下と第二王子殿下に軍配が上がっていたのですが……あの日リヒト殿下がヴィア様を守るお姿を見て、リヒト殿下に好意を持つ子女がかなり多くなりまして……」

「えぇ……?」

 つい疑う様な、情けない声を出してしまう。そんな好評を得ているとは、思いもしなかった。

「それで、その、それに比例するようにと申しますか……スエロ公爵令嬢の悪い噂が出回るようになりまして……」

「……?悪い噂?」

 なんだろう。不穏な雰囲気だ。ルシエルとヴィアは、全く知らないようで、二人とも顔を見合わせては首をかしげている。ケントニス伯爵令嬢が続けてくれた。

 

「社交界では元々、スエロ公爵令嬢が第二王子殿下かリヒト殿下、どちらかのご婚約者になるのではと目されていたのです。今、四大公爵家に置いて妙齢の女性は、皇太子殿下のご婚約者のクリオ・ブランカ公爵令嬢かスエロ公爵令嬢だけなので……。そして、第二王子殿下が留学先から中々お戻りになられないので、恐らくリヒト殿下とのご婚約がその内、決まるだろうと……。ですが、ヴィア様とのご婚約が急遽お決まりになったので、スエロ公爵令嬢がそのことに嫉妬して、ヴィア様を悪く言ったのではと噂が広まりまして……」

「……っ?!」

 

 そこでようやく違和感の正体に気がついた。グラナティアは、()()()()()()()()()()。あの茶会では、輪の中心に居たのに……。

「スエロ公爵令嬢は礼節に厳しい事で有名でしたから。噂話には恐らく、そこに脚色が加えられたのかと思います。それでも、スエロ公爵令嬢は宰相閣下の一人娘なので、表だって非難する者はおりませんが……ヴィア様には王家の後見がついておりますし……その、闇属性魔法使いであるという事もあり……みなどちらの味方をするかという所で、遠巻きに様子を見ているような状態でして……」

 ヴィア様、ごめんなさい……という言葉に、ヴィアが微笑んで首を振っている。僕は思わずげんなりしてしまう。これだから社交界は苦手なのだ。

 

 でも、だとしたらそれは僕の責任だ。改めて、自分の立場とその発言の影響力に身につまされる。僕が頭を抱えて悩んでいると、ぽんぽんと肩を叩かれる。顔をあげると、にっと悪戯っ子のように笑うヴィアがいた。

「今こそ、『仲直り』の時ではありませんか?」

 一瞬きょとんとしてしまうが、すぐにその言葉の真意に気がつく。ふぅっと少し長めに息を吐き、同じ様に笑う事で、僕はその言葉に是と答えた。


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