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13【リヒト視点】決意


「披露目の会…とは、僕達のですか?」

「他に誰の会を開くと言うのかしら、この子は」


 エレノアは、泣き疲れた様子だったので、一足先に下がって貰った。母は嘆息しながら、扇を口元にあてる。まだ、家族とヴィア以外の人とは、うまく話せないのに……。それと、気になる事がある。


「あの……母上。今更なのですが、この婚約の真意を教えて頂く事は可能でしょうか?」

「真意?」


 僕はうなずく。僕は、『婚約者が決まった』という事しか聞かされていない。あとは、全て推測に過ぎない。兄上とヴィアの話から、色々上書きされたが、まだ腑に落ちない事がある。


「陛下は何故、僕とヴィアに婚約を命じたのでしょうか?」


 母は、ちらっとヴィアを見る。ヴィアは、困ったように微笑みながら、その視線を受けうなずいた。

「そうね……あなた自身に余裕がなさそうだったから、多くを語らなかったけど、あなたも知っておいた方が良いかもね」


 母は、扇を置き、口を潤す様に紅茶を含む。


「要は……闇属性魔法使いに関する今回の騒動を、()()()()にしたのよ」

「は?」


 母が再度ヴィアに視線を送る。ヴィアは、心得たとばかりにうなずき、続きを話し始める。


「今回……闇属性魔法使いに関する対応に意を唱えたのが、わたくしの父ルポルト侯爵と、祖父であるオセアン辺境伯です。この二家は、外交と国防において今や国に欠かせない家となっています。その為、国としても無碍には出来ないけれど、貴族達の反発も予見された為、次世代に託したのです」

「次世代に……託す?」

「はい。私は、まだ11歳です。人となりを判断するには、まだ早いと人々から認識されるでしょう。なので、侯爵令嬢としての対面を保つため婚約を執り行い、一旦は王家が後見に立つことで、意を唱えた二家にも、貴族達にも、両方に配慮した姿勢を見せたのです」

「なるほど……でも、何を基準に君を安全な闇属性魔法使いと判断するんだ?判断基準が曖昧じゃないか。それに、もし判断されなかった場合は、どうするんだ?」


 今度は、母上が引継ぐ。

「要は、世論よ。社交界でヴィアと実際に触れ、次世代の貴族達がヴィアの人となりを知り、闇魔法の安全性と必要性を説き、信頼を勝ち得る事。そして、それができれば民心を動かす事が出来る程の事である事が望ましい……と。もし、それがある程度の年になっても叶わなかった場合は、あなたの婚約者を挿げ替え、ヴィアは蟄居に入るわ」

「なっ!?」

 そんな暴論あるか。つまり、国も貴族も、この件に関して何も変える気がないと言っている様なものじゃないか。

「具体的な制限期間はあるのですか?」

()()()()()、ないわ。あなた達の婚約においては……まあ、王立学院を卒業するころまでには、また調整が必要になるでしょう」

 王立学院……魔法の使用方法をはじめ、法律や経営など、各々の目的に応じて学べるよう、国が用意している教育機関だ。貴族用と平民用とそれぞれ用意されており、13歳から15歳は基礎教育として王都や各領地に複数ある学院から選択して、殆どの国民が入学する。16歳から18歳は高等教育として、一般的には貴族は全員入学する。つまり、期限は僕が18歳になるまでという事だ。


「ん……?僕達の婚約においては?」

 ヴィアが、僕の疑問を的確に引きうけてくれる。

「はい。それは、わたくし達闇属性魔法使いへの、陛下の配慮だと思うのですが……本来は、魔力抑制具(バングル)が出来た時点で、国としてはある程度の自由を認めて下さっているのです。他の貴族達からの反対意見が拭いきれないだけで。その意見を汲んで、先代は王家所有の居に籠る事を()()決められました。なので、婚約においてはリヒト殿下の事情が汲みされ、調整が行われるでしょうが……その後のわたくしの身の振り方に関しては、また保留扱いとなるのです。あくまでも、()()自由を認めているという事で。でも、貴族達の意を汲み……()()()()()()()()になるまでは、国の保護観察のままとなるでしょう」

「完全に安心な状態?」

「……今際の際には生家に帰してやると、そういうことよ」


 茫然とした。怒りで心が震える。何もしなければヴィアは、生まれた時から、どのように生き、どのように儚くなるか、決められていた事になる。そこに自由な意思は、全くない。彼女達の魔法がなければ、安全に生活する事も出来ないと言うのに……。


「……かつて貴族が闇属性魔法使いを王家に差し向け、王家が傾く直前まで陥るといった事件があったのよ。そして貴族達はその責任を闇属性魔法使いになすりつけたの。その結果、闇属性魔法使い達は、迫害の憂き目にあった。……先代の代までは、その過去の過ちを認めたくない貴族が多かったのよ。けれど、ようやくそれも、過去の出来事になってきた。あとは、同じ過ちを犯さないと、示せれば良いのだけど……。ヴィアがいくら良い子でも、また次の代がそうとは限らないから、二の足を踏んでしまう状態なのよね……」


 言葉が出て来ない。思っていた以上に、根深い問題だった。僕に、何が出来るだろう?

 

 ヴィアは、そんな僕の様子を心配そうに見ていた。そして、宥める様に言った。

「……これは良い機会なのです。皇后陛下も皇太子殿下も、お力になってくださるとおっしゃってくださいました。わたくしも、出来る限りの事はやろうと思っています。大丈夫です。きっとなにか、良い方法があるはずです」

 僕は、何も言えなかった。きっと、ヴィアの方がもっと不安な筈なのに。

「けれど、改めて……リヒト殿下には、申し訳なく思います。わたくしの事に、巻き込んでしまって……」

「そんな!さっきエリーにも言ったけど、この婚約のお陰で、……君のお陰で、僕は部屋から出て来られたんだ。披露目の会もそうだ。やってやろうよ。僕は、ヴィアが自由になる未来を、見ていたいよ」


 ありがとうございます……と、ヴィアは嬉しそうに笑った。

 僕達の闘いは、ここからだ。

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