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10【リヒト視点】世界一可愛い僕の妹


 あれから、僕とヴィアとの交流は順調に続いている。

 週に2度は顔を合わせ、ティータイムを取ったり、王城の庭園を散策したり、書庫で本を読んだり。


 ヴィアは、王子妃教育など日々頑張っているみたいだ。

 僕は、ヴィア以外とは、まだ少しぎこちなかった。特定の人とは話せるのに、それ以外の人だと、急に頭が真っ白になってしまう。でも、あの日、兄上と話していたヴィアを思い出して……勇気を出して、下手でも良いから少しずつ周囲の人と交流を持つようにしている。

 その一環として、剣術の授業も再開して貰った。ヴィアの隣に立つのに、ふさわしい姿になりたいと思ったから。つまり、体型も……格好良くなりたかった。その効果もあって、少しずつ健康的な見た目になってきている気がする。良い傾向だ。


 今日は、ヴィアとティータイムの日。僕は一足先に、ガゼボに来ていた。

 温室の時もあるけど、晴れて暖かい日は、ここで落ち合う事になっている。

 


 カップに口を付けていると、ヴィアがこちらに向かってくるのが見えた。

 僕は迎えようと、立ち上がる。

 ――……? 何かおかしい。後ろを気にしながら、そわそわと落ち着かない様子だ。

 何だろう?


 僕は、ヴィアの側に駆け寄る。


「ヴィア、どうかした?」

「あ……リヒト殿下」


 ごきげんよう……と、ヴィアは困惑の表情のまま礼を取る。

 僕は首をかしげる。ヴィアは困ったように眉根を寄せ、口元に手を当て、僕に小声で話す。


「わたくし、どうやら……つけられているようなんです」

 ……つけられてる?何を?




 僕らは一旦お茶をしながら話をする事にした。

「実は、先週頃から、王城に来るたび視線を感じておりまして……」

 何と言う事だ。王城内は、かなり厳重に結界も張られていて、警備もいるから安全だと思っていたのに。闇属性の魔法を狙ってのことだろうか?

「それが、その……」

 ちらっと、ヴィアが一方向に視線を送る。僕も、その視線を追って目を凝らす。

 ……垣根の向こうに、ふわふわと柔らかい金色の髪の、小さな陰が見え隠れしている。あれは……

 

「あ、エリー……エレノアだ」

 エレノア専属の侍女と護衛が、少し離れた所に立っている。間違いない。

 

「やっぱりそうですよね!あまりにも愛らしいお姿だったので、そうではないかと思ったのですが……」

「ですが?」

「……あのように、お隠れの様なので……わたくしが気がついたとなると……その……不敬かなと」


 ヴィア……気がついたくらいで、不敬にはならないよ。

 僕は、嘆息しながら思案する。僕と妹は、良く似ている。いや……彼女は僕以上に人見知りだ。ヴィアが気になっているけど、挨拶出来ずにいるのかもしれない。


 もう一度、エレノアの方を見ると、僕の視線を感じたのか走って逃げてしまった。

「あ……」

 ヴィアも声を漏らす。う~ん、どうしよう……。



 その日以降、別の日も、また別の日も、エレノアがヴィアをつけている様子が見られた。エレノアは、隠れている(つもりでいる)ので、ヴィアも気がついてはいるけれど、声を掛けられずにいるようだ。あの顔はきっとまた、不敬だとか考えているんだろうなぁ……。


 エレノアに会うのも、かなり久しぶりだ。話し掛けるのも、実は勇気がいる。僕の姿はすっかり変わってしまったし……自分で言うのも何だけど、僕は少しシスコンのきらいがあるので。エリーに嫌われるのはどうしても怖いのだ。

 でも、そうも言っていられない。僕は、勇気を出して、そっとエレノアに近付いた。


「エリー?何やってるの?」


 エレノアは僕に気がつかなかったようで、肩がびくっと跳ねた。薄紅色の瞳が、大きく見開かれる。驚いて真っ赤になる姿が可愛い。

 

「お、おにいさま……!」

「驚かせて、ごめんね? 久しぶりだね」


 僕は、なるべく優しい声音を心がける。エレノアが、慌ててカーテシーをする。


「お久しぶりでございます!えっと、あの、これは……」

「うん。大丈夫だよ。大丈夫だから。落ち着いて。何かあった?」


 エレノアは僕の顔を見て、一瞬瞳を潤わせ、すぐにもじもじと俯いてしまう。僕はその顔を覗き込もうと、首をかしげる。するとエレノアは突然顔をあげて、拳を握りながら言った。


「わたくしが……!必ずお兄様を救ってみせます……!」


 そういうと、ごきげんよう!と挨拶をし、走り去ってしまった。

 ……僕は何から救われるんだろう?



 

 それからは、エレノアの姿を見る事はなくなった。ヴィアはとても残念がっていて、今度きちんと紹介すると話をした。今日は、書庫で二人で魔法学の勉強をする事になった。

 僕は、魔法学がとても好きで、引き籠っている間もかなりの量の文献を読んでいた。ヴィアがちょうど今日、魔法学の授業を受けてきたというので、色々と考察を話し合ってみる事にしたのだ。


「リヒト様。こちらの、上級変異種の派生の起源についてなのですが……」

「あ。それはね、確か奥の間に詳しい文献があったよ。僕が取ってこよう」


 ありがとうございます、という返事を受けつつ、僕は奥の間に移動する。王城の書庫は、いわゆる図書館のようになっていて、中央の間にテーブル席があり、左右に二間、そして奥に一間、部屋が設けられている。

 どの部屋も吹き抜けになっていて、二階の天井まで本がびっしり並んでいる。

 それぞれの部屋をつなぐ扉はいつでも開放されているが、奥の間は窓が無く少し薄暗い。所々に用意されている、光石(光属性の魔力を込めた魔石)の明かりを頼りに、僕は目的の本を探す。

 奥の間の二階にあがり、本を何冊か手にしていると、扉からヴィアが入って来るのが見えた。

 待ち切れなかったかな?


 僕は声を掛けようと、手すりに触れる。


 ――……ギーッ、バタン! ガチャ……


 ……えっ!? 閉まった?


 ヴィアも驚いたようで、口元に手を当てて扉を見てる。


 何が起こったんだろう??

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