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缶コーヒーと夕焼け

作者: 清澄涼

「なろうラジオ大賞4」応募作品です。


 高校生の時、夏の放課後、友人と並んで飲んだサイダーは美味かった。強い日差しに目を閉じた。シュワシュワと炭酸が喉を通り過ぎていった。青春の思い出の一ページだ。


 それから数年経ち、会社員になってからは毎日缶コーヒーを飲んでいる。学生時代に缶コーヒーを進んで選んだことはなかった。俺には苦くて、舌が痺れる感覚がして、大人の味に思えた。そんな訳で、当時の自分には無関係の物だった。


 今、俺の職場のデスクのキーボードの横には同じ銘柄の缶コーヒーの空き缶が二本並んでいる。色々飲み比べた結果、自分好みの一本を見つけて、その銘柄を飲み続けている。

空き缶を並べているのは、捨てに行くのが面倒ということもあるが、仕事を頑張った目安を見える化している。いわば自己満足だ。空き缶が一本の日もあれば、三本の日もある。


 仕事で疲れた体にはコーヒーが無いと仕事が捗らないのもあるが、この味と香りが好きだ。お気に入りの一本ができるなんて、自分も大人になったのだな、と一人微笑んだ。


 女子社員達は、コーヒーショップで買った洒落たカフェラテや、限定のドリンクを持ってオフィスに入ってくる。皆、「自分の一杯」というやつがあるということだ。

 俺には社内の自販機で買えるこの缶コーヒーが丁度いい。

ふと、自分の席から西の窓の方に目をやった。今日も日が沈む。ここから見える夕日を眺めるのが好きだ。

夕焼けの光でオフィス内全体が少し赤く色付いて、暖かな雰囲気に包まれる。


 誰に残業を強制されている訳でもないが、納期も近いし、定時で帰れないだろう。窓辺のデスクに座っている同僚が左手に缶コーヒー、右手にマウスを持ち仕事をしていた。


 俺は社内に設置されている自販機向かった。学生時代に好んで飲んだサイダーも並べららていたが、いつもの缶コーヒーのボタンを押した。缶が落ちてくる瞬間の、ガコンという音を聞くのが小さな楽しみだ。


 俺は温い缶コーヒーを手にして、自分の仕事デスクに戻った。無言で夕日を横目に見ながら缶を開けて、目を閉じて飲んだ。都内のビルだらけの無機質な街でも、日の落ちる前の僅かな時間は温かい空気になる。


学生時代のサイダーも美味かったが、今この瞬間の缶コーヒーもいい。


 飲み干された缶が、コトリと小さな音をたててデスクの横に並んだ。今日は同じ柄が三本並んだ。


 もう少しだけ仕事頑張ろう。

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