貴方のクロッキー
言いたいことはいっぱいあるのに、
全て口から出てこなくて。
貴方とはずっとすれ違いで、
ただ胸が押しつぶされるようだ。
放課後の屋上。
最近では、屋上に出られる所は少ないらしいが、私の通うところは簡単に出れる。
今、私の目の前には、フェンス越しに彼女が佇んでいる。
「そこ、好きだね」
三階建の屋上でも、風は当然強かった。
彼女の短い髪の毛が、軽く吹かされ揺られている。
スカートの方は強く靡いて、彼女の体のラインが、ハッキリとしていた。
彼女の顔立ちは、剣のようにキリッとしているが、
彼女の体や瞳は、嫋やかに輝いていた。
青空に映える彼女のシルエットは、綺麗な形ですぐにでも絵に写せそうな程に。
私の頭にはフィルターが掛かっているようで。
彼女以外のものは全てぼやけて見えた。
ただひたすらに、ピントがあって。
瞳に吸い込まれるように、彼女に近づいてしまった。
彼女の声が恋しくて、震えて。
すぐ近くなのに、遠くに感じて。
フェンスさえも分厚い壁に感じて。
私の覚束ない手が、酷く不細工に見える。
潤った唇から発せられる言葉は、風の音よりも鮮明に聞こえて。
私の心は高鳴って、彼女に触れたくなった。
長い睫毛が、私に向けられて、彼女をより近くに感じた。
お互いの呼吸音が、ただ聞こえた。
彼女の呼吸は甘くて円やかで、心地が良かった。
これが最後かもしれないと思うと、少し悲しかった。
けれどそれと同時に心成しか嬉しかった、この苦しみがとうとう終わるのだと思うと。
ありがとう、とも言いづらい。
ごめんね、とも言いづらい。
これから、君の白い肌や透き通った瞳、その体のラインだったり潤った唇が、恋しく虚しく狂おしくなるのだろう。
考えただけでも辛いし悲しい。
けれど、乗り越えれば私達は楽になれるのだろう。
お互いがお互いを尊重するようになって、また、仲良くなれるのだろう。
それまでの間なのだから、私は現実を受け入れよう。
私はポケットから、萎れた花を手に出した。
それを自分の髪に刺して、彼女に言った。
「似合ってる?」
彼女はいつも通りにはにかんで、似合ってると言った。
僕も2人に恋をしています。
2人を救うにも、どうすればいいのかわからず。
ただじっと待っていました。
屋上で2人の会話を覗き込んだ時、
やっと2人の心情が分かって、涙が出そうになりました。