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第8話 死の谷

 リーニアの本当の正体はビッチだった。死ね。


 とにかくミリオン王国の死の谷へ向けて出発。


 1週間経過。到着。


 高低差100メートルくらいの大きな谷だ。

 なんか宿屋がいっぱいあって、そこかしこから湯気が立ち上ってる。


「温泉街じゃん」


 とりあえず温泉に入った。

 気持ちいい。


 現地で情報収集したところ、カリルエットという少年をすぐに発見。


 廃れた宿屋で働いているところを訪問。

 声をかけたところ、にこやかに対応していただいた。


 銀髪のマッシュ、というよりはショートボブか。

 低身長で声が高くてニコリと笑った姿がかわいい。一瞬女の子に見えた。もう俺はダメかもしれない。


「カリルエットさん、最近困ってることはありませんか?」


 なんて聞いてみたら、特に無いとのこと。

 神様は護衛してくれって言ってたけど、困ってないなら良いんじゃないの?


 と思ってたら、急にお告げが来た。


 なるほどなるほど。


 カリルエットは魔王討伐の鍵となる人物で、今死ぬと世界がやばい。

 で、魔王を復活させたい! って組織の方々が命を狙ってる。

 数日以内に敵が来る。


 ということらしいので、とりあえずカリルエットが働いてる宿に一週間宿泊することにした。


 3日経過。


 廊下でカリルエットとぶつかって謝る時の表情がかわいすぎてめまいがしたのと、部屋で火のムチの改良のために魔法使ったら壁をちょん切ってしまった。


 それ以外は、今の所何も起こらず平和。いいね。


 と思っていたら、何やら宿の外に黒ずくめの集団が

 カリルエット! いるなら今すぐ表へ出ろ! と大声で叫んでいらっしゃる。


 敵さん、襲来である。


「あ、今行きまむぐっ!」


 廊下で返事をしようとするカリルエットの口を手で塞いで、しー、と喋らないようにジェスチャー。


 揺れる銀髪からいい匂いがする! いや彼は男の子のはずなんだけど。


 落ち着くためにこちらの意図を彼に伝える。


 外、敵。俺ら、逃げる。おーけー?


 コクリと小さく頷くカリルエット。

 了解が取れたので、裏口からそそくさと脱出。


 死の谷から抜けたあたりで、もう大丈夫だろうということでカリルエットに事情説明。全部正直に言った。


「神様にお願いされて……って、面白い冗談だね」


「神様、信じてくれません!」


『よかろう。カリルエットよ、儂の声が聞こえるか』


「あ、え!?」


 神様の助太刀によってすんなりと事情説明は済んだ。


 今後の予定としては、勇者パーティーのいるミリオン王国首都まで彼を送り届けることになる。神様がそうアドバイスしてくれた。


 せっかくなのでもっと温泉を楽しんでいたかったけど、敵さんがこの街にいるので悠長にはしていられない。


「さっさと行きますか」


「あの、えっと、よろしくお願いします」


「こっちこそよろしく。困ったことあったら気軽に言ってね」


 礼儀正しくてかわいい少年カリルエットと共に新たな旅が幕を開けた。


 と思ったら1日後。


 人気のない道で黒ずくめの人たちに囲まれました。

 総勢100人は超える大所帯。しかも全員お馬さんに乗って槍をこちらに向けてきている。ガチ装備じゃん。


 カリルエットくんは青ざめてガクブルしている。

 よっぽど怖いのか、俺の手をギュッと握って体を寄せてきている。こういう仕草が一々かわいらしくて頭がくらくらしてくる。男なのに。


 そう。男だ。彼は男なんだ。

 カリルエットくんの肩をぎゅっとして少しでも安心させる。


 合図もなく一斉に黒ずくめが突撃してくる。


「火魔法」


 別に詠唱とかいらないんだけど、カリルエットくんがびっくりしないように声を出しておく。


 半径3メートルの炎の円を展開。

 この円の中に侵入した敵は自動で燃える。

 以上。


 相手は一人もこちらに近づけない。我ながら完璧な作戦。


 火のムチを作って、黒ずくめが持ってる槍の穂先を全て切り落とす。


 武器を壊され、黒ずくめズはざわざわと驚き始めた。おうおう、びっくりしてるねえ。


「これ以上続けますか? 次は首ですが」


 なんて調子に乗って警告したのが良くなかったのか。


 遠くの空から赤くてでかいナニカが飛んでくる。


 なにあれ? 飛行機?


「ど、ドラゴンっ!?」


 カリルエットくんの悲鳴に近い声。

 ドラゴン? え。マジで?


 と思う間にもドラゴン着陸。


 ドシン!


 黒ずくめ数人、グシャア。


 グアアアアと爆音。ものすごいドラゴンの咆哮にさすがの黒ずくめたちも恐れおののいている様子。


 あ、ドラゴンの背中から人が降りてきた。

 白銀の鎧。赤い大剣を背中に装備してる。強そう。モンハンかな?


「我は聖国クロリアから参った、国家竜騎士団副団長のカストロである」


 カストロ。名前もなんか強そう。国家竜騎士団の副団長さんね。

 最近、次々新しい人が出てきて覚えられそうにない。


 カストロがカリルエットの方を向いて口を開く。


「聖女カリルエット、あなたには帰還命令が出ている。即刻帰還したまえ。従わない場合は強制連行させて頂く」


 え? 聖女カリルエット?


 カリルエットを見る。

 ばつが悪そうに上目遣いでこちらを見てくる。


「ごめんなさい……実は私、聖女なんです」


「!?」


 なん……ということだ。


 彼は、彼女だったのだ。


 俺はさっきまで女の子の手を握り、肩を抱いていたのか?

 というか現在進行系で手を握ってくれている。


 カリルエットくん、いや、カリルエットちゃん。


 聖女様が頭を下げて謝ってくる。


「嘘ついててごめんなさい」


 滅相もない!


「貴様、聖女様とはどんな関係だ?」


「最近知り合ったばかりです」


「それにしては随分と……」


 随分となんですか? 変なところで言葉を区切るんじゃない。


「テンは悪い人じゃない!」


「確かに、魔王崇拝者共と同じというわけではなさそうだが、念の為に殺処分を」


「やめて! もしそんなことしたら、私は聖女としての力を一生使わないから」


 やばい。今のセリフぐっと来た。

 特にヤバいのが、彼は、彼女だということだ。女の子だということだ。


 俺の貞操観念は間違っていなかったということだ。


 にしても、いつの間にこんなに信頼されたのか。


 数日前までは、宿のお客さんと従業員の関係だったはずだ。俺とカリルエットの間には適度に距離があった。


 一体これはどういう心変わりなのか。


「では殺すしかあるまい」


 脳筋かよ。


 カストロが、いつの間にか大剣を構えていた。

 真っ赤な大剣。刀身にドラゴンの模様が浮かび上がってる。かっこいい。


「竜撃斬」


 ブン。


 何も視認できなかった。


 左肩に痛み。と思ったら、ブシャーと血が出てきた。

 ああ、マジか。


「うそ、テンッ! だめっ!」


 気づけば仰向けに倒れていて、カリルエットが泣きながら俺のことを見ていた。


 なにこのシチュエーション。バッドエンドかな? 泣いてるカリルエットちゃんかわいそうなのにかわいい。


「聖女カリルエット。ついてきたまえ」


「いやっ! やだ!」


「……このままだと気絶させて運ぶことになるが?」


 やっぱりこいつ脳筋だ。


 立ち上がる。

 現在進行系でカリルエットを無理やり拉致しようとしてるカストロ。

 そちらの方向に向き直る。


 ええと、なんて言おう。


「カリルエット、安心してくれ。俺は死んでない」


「テン!?」


「……貴様、傷はどうした」


「便利な魔法がありましてね」


「魔法使いか? 少しは腕が立つようだな」


 カストロがカリルエットを後ろに放り投げた。まるでゴミ箱にゴミを投げ捨てるみたいに。吹っ飛んでいく聖女様がどことなくシュール。


 カストロが隙のない構えをとる。 


「いいだろう。本気を見せてみろ。相手をしてやる」


 どうしよう。竜騎士。マジで強いんだけど。

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