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第7話 影の勇者

 それから神様と腹を割って話をした。


 神様は滅びゆく世界を諦めきれず、他の世界にゲームを配信。

 ゲームクリアした人を、勇者として召喚。

 そういうことらしい。


 神様の未来視の結果をもとに、ゲームのストーリーが作られてる。

 だからゲームを攻略することは、この世界が滅ばないように行動することと同義だそう。


 なんで世界を救うためだけにそんな回りくどいことを? って聞いたら、面白そうだったから、だそう。

 面白いって大事よね。良いと思うよ。


「で、お主はなんなんじゃ?」


 と聞かれたので、俺のことも全部話した。


 いきなりタイムスリップできるようになったこと。

 1万年修行して、最強になったこと。

 召喚魔法で、異世界に来たこと。


 終始、目玉が飛び出るほどびっくりしていた神様が面白かった。


 で、結局俺のやることは変わらず、本物の勇者様のサポートらしい。


 俺が魔王倒せば良いんじゃないですか? って言ったら顔を真っ青にして首を横に振られた。


「お主のことが全く未来視できんのじゃ。頼むから派手な動きは控えてくれんか」


「でも俺が魔王倒すのが一番手っ取り早いと思うんですけど」


「なんと言えばいいのか。やってはいけない気がするんじゃ。直感で申し訳ないが、ダメな気がするんじゃ」


「そう、ですか」


 直感ね。それなら仕方ない。勘って意外と大事だもんね。天に任せるってやつ。

 神様が言ってるんだから間違いない。


「じゃあ、とりあえず神様の言う通り、色々動いてみるとします」


「分かった。時々お主だけに聞こえるようお告げをするとしよう。お主も何か困ったことがあれば、心のなかで儂を呼ぶと良い。相談に乗ろう」


「あ、じゃあ早速ですが、俺の魔力を回復する方法とか心当たりないですかね」


「マナではなく魔力か。すまんが心当たりはないのお。その力、完全にこの世界のものとは別種のものじゃ。役に立てずすまん」


「いえいえ」


 という感じで神様との邂逅かいこうは終わった。

 気づいたら天使の前にいた。

 あのかわいい天使の前だ。


「じゃ、俺は行くので」


 ペコリ、とお辞儀してくれる。髪がさらりと揺れる。

 かわいい。


 で、一週間くらいかけてダンジョンを登った。

 帰り道も適当。火魔法でバッタバッタとなぎ倒すだけ。


 ワンパターン。

 新しい魔法欲しいな。回復魔法とか障壁魔法とか。

 でもどこで習えばいいんだろ……。


 なんて考えてたら地上に到着。

 洞穴から抜けたら、来た時と同じおっさんが突っ立ってた。


「どうも」


「……生きてたんか、お前」


「まあ、なんとか」


「モンスターは引き連れてきてないな?」


「はい」


 適当に挨拶して別れる。


 久しぶりにこの世界の言語を聞いた。


 神様とは日本語で話してたからな。あの空間では自動翻訳機能が働くみたいで、意思疎通が楽だった。


 ちょっと耳を慣らしていかないとな。


 門番と別れたところで、脳内に神様の声が響いてきた。


『聞こえるかの?』


(聞こえますよ)


『おお。良かったよかった。して、今は何をしておる?』


(え? 神様って、この世界を見たりできないんですか?)


『そうじゃが、覚えないかの? お主に関しては未来視できないんじゃ』


(あ、そうでしたね。すいません)


 なんだか不思議な感覚。いるはずのない人と頭の中で円滑に会話。


 念話ってやつだろうか。便利。こういう魔法があったらぜひ覚えておきたいところ。


『早速じゃがお主にやってもらいたいことがある』


(はい。なんでしょう)


『ミリオン王国にある死の谷という場所に向かい、カリルエットという少年を探し、保護して欲しい』


(ええっと、ミリオン王国の死の谷で、カリルエットを保護、ですね)


『そうじゃ。詳しいことは、そこに着いてからまた伝えるとする』


(急いで向かった方がいいですか?)


『大丈夫じゃ。それほど急を要するわけではない』


(分かりました。ぼちぼち向かうとします)


 ミリオン王国、死の谷。カリルエット。よし覚えた。

 無理せずにやっていこうと思う。


 で、何日かかけて街に戻った。


 まずは金だ。当面の活動資金がほしい。じゃないとミリオン王国にも行ってられない。

 冒険者ギルドに顔を出す。


「こんにちは」


 キレイな受付嬢に挨拶。


「今日はどんな御用ですか?」


「質屋ってどこにありますかね」


「質屋?」


 若干怪しむような目線を向けられたものの、素直に教えてくれる。


 宝石屋はお城の近くに店がある。

 武器防具やマジックアイテムはギルドの受付で買い取れる。だそう。やるじゃん。


「買い取ってください」


 魔法の袋を取り出して、中から指輪系のアイテムを1個取り出す。

 魔法の袋も、指輪も、どっちもダンジョンの宝箱に入ってたやつ。


 魔法の袋は、エコバッグくらいの大きさで、見た目の5倍くらい入るやつ。

 何かに使えるかなーと思って、この中に宝箱の中身をいくつか詰め込んどいた。


 今取り出したのは琥珀色の宝石がはめ込まれた指輪。宝石部分が怪しげに光ってる以外は普通の指輪に見える。


 そういえば、リーニアお嬢様もこういう指輪つけてたっけな。誰かと婚約でもしてたんだろうか。


「これは……少々お待ち下さい」


 受付嬢がカウンターの奥へ行ってしまう。


 すごい冷静に対処された。


 しょぼかった? ある程度まとまったお金が手に入らないと困るんだけど……。


 と思ったら受付嬢が来た。あれ? 誰か一緒に来てる。

 コワモテムキムキのおっちゃんを連れての帰還だ。


「ここのギルマスだ。話がある」


 半ば強制的に2階の部屋へ連行される。

 書斎。良さげなソファーが2つ。真ん中にお値段が張りそうな机が一つ。


 扉がバタンと閉められる。


 ギルマスと1対1の構図。


「どこで手に入れた?」


 めっちゃ怖いフェイスで聞かれる。


「ええと、ダンジョンで」


「盗んだんじゃねえのか?」


「宝箱から取ったんですけど、盗みに入るんですかね?」


「どこの宝箱だ?」


「ダンジョンの宝箱ですよ」


「本当に盗んだんじゃねえんだな?」


「はい」


 ギルマスはじーっと指輪を眺めている。


「あの、何か指輪に問題でも?」


「この指輪、鑑定させてもらった。蘇生の指輪だ。使用者が生命活動を停止した1分後、強烈な回復魔法が発動し生き返る」


 すごい。蘇生だって。


「200年前、第一次魔法大戦で大賢者グレモリーがこれを着用していた。それ以降、この指輪に関する記録は残されていない」


「はあ」


「分かるか? お前が持ってきた指輪は……歴史的にも効用的にも伝説級の指輪だ、間違いなく!」


 目がギラついてらっしゃる。落ち着きがないというか、興奮してるように見える。


「ダンジョンから持ってきた、というのは嘘ではないんだな?」


「はい」


「2つ、お前には選択肢がある」


 選択肢ね。わかりやすくていいね。


「1つ、この指輪の所有権を主張し続ける。この場合、お前は王都に移動し、指輪が本鑑定されるのを待つことになる」


「えっと、俺は指輪を売りたいんですけど」


「それは知っている。ただ、ここで売るより王都でオークションにかけたり、王族に直接献上した方が多くの金を受け取れるという話だ」


「なるほど」


「2つ、今すぐ指輪を手放す。この場合、俺が買い取ってやることになる。もちろん金は払うが、そう多くは用意できない」


「お金が沢山もらえるんだったら1つ目の方がいい気がしますけど」


「ああ。ここで売るより何十倍も得だろう。ただ、報酬を受け取れるのは半年後くらいになるだろうがな」


「それはちょっとイヤですね」


「あとは、毎日暗殺者が送られてくるくらいか……」


「そんなですか。この指輪」


 暗殺者来るくらい価値があるのか。


「国レベルの話だからな、伝説級のアイテムは」


「じゃあここで売ります。割と今すぐお金が欲しいので。えっと、ギルマスさん?」


「ヴェルグだ」


「ヴェルグさん、買い取りをお願いします」


「分かった。金貨100枚でいいか?」


「はい。それでいいです」


「よし……金はすぐに用意する」


 嬉しそうにニヤっとしたのが見えた。転売でもしてお金をがっぽり稼ぐ腹積もりなのかな? 


「あと、お金以外で頼みを聞いてほしいんですけど」


「ん? ああ、何でも言ってくれ」


「いくつか知りたいことがあるので、もし知っていれば教えてもらえると助かります」


 質問攻めにした。


 リーニアという少女を知っているか。

 答え。知ってる。

 最近、家出して騒動になった貴族の令嬢。未だに行方不明。


 炎の魔術師ミルアを知っているか。

 答え。知ってる。

 めっちゃ有名な魔法使い。かつて勇者パーティーで魔法使いをしていた天才魔術師。魔王に敗れて死んでしまい、今はもういない。ビッチ。


 え? ビッチ?

 え?

 

 ……まあいい、次に進もう。


 勇者とは何か。

 答え。英雄。世界を滅ぼす力を持った魔王を倒し、人々を救うと言われている英雄。今はミリオン王国にいるらしい。


 レベルとは何か。

 答え。その人の強さの指標。

 長く敵と戦ってきた人はレベルが高く、戦闘経験が無い人はレベルが低い。ただ、レベルが高くても成長率が悪い人は弱かったりするので、あまり鵜呑みにはできない。

 ステータスと唱えると自分のレベルを見ることができる。鑑定魔法で他人の魔法を見れる。


 ミリオン王国の死の谷を知っているか。

 答え。知っている。100メートルくらいの深さのある谷。第一次魔法大戦で大賢者グレモリーと黒竜ボレアムートが戦った時に、攻撃の余波で形成されたという。

 谷底に温泉が湧いたことで価値が生まれ、観光街となっている。


 第一次魔法大戦とは?

 答え。昔の戦争。人類とその他種族による魔法での大きな戦いがあった。今は仲直りして平和にしてる。


 こんなところだろうか。


「他に聞きたいことはあるか?」


「えっと、炎の魔術師ミルアについて、もう少し詳しく伺っても?」


「ああ」


 二桁以上の人と関係を持っていると噂の淫女いんじょだったらしい。

 相手をいたぶることで興奮する特殊性癖を持っていることでも有名。


 インジョ? 特殊性癖?

 いや確かに、めっちゃ蹴ったり罵ったりされた。

 けどあれは演技だって本人が……はっ!


「あれ全部ウソだったのか……!?」


 屋敷では演技をしていましたってのも。

 初めてなので優しくしてほしいって言ったのも。

 全部、ウソ……。


 ビッチ、こええ。

 マジで騙されてた。もうやだ。女こわい。こわいよ。


 ギルマスとの対談の後。受付で金貨100枚入った袋をもらって終わり。

 ギルドを出る。


 今回の件で俺が学んだことは、女は信用できない、ということだ。

 怖い。もう一生結婚なんてしないし、付き合ったりもしないぞ俺は!


 ……でも天使の子はかわいかったなあ。

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