第6話 ゲームの世界
「ステータス」
ブオン。
半透明のウィンドウが立ち上がった。近未来的。
すごい既視感。これ見たことあるぞ、どっかで。
あー。
あー。
……あ!
百年ぐらい前に流行ったゲームの画面だ。
意識投影型RPGゲーム。
ゲームの内容は、正直うろ覚え。
ストーリーとかマジで覚えてない。どうしよ、リーニア。炎の魔術師とか言ってたよな。重要人物じゃん絶対。
牢屋からの脱出とか旅とかいろいろ手伝っちゃったけど、歴史が改変されてたらどうしよう。
歴史が改変されて、世界が滅んじゃう方向に行ったらどうしよう。
とても困る。
マジで困る。
「……まいっか」
ヤバい時は魔法使ってなんとかしよう。
そうしよう。
で、ステータスだ。
名前:テン・セイシャ
レベル:1000
マナ:10000
力:1000
情報量を必要最低限に絞った感じ、いいね。
レベルもマナも分かる。
力ってなに? パワーが増えたってこと?
試しに地面を殴ってみる。
バゴンと音がして床がちょっと割れた。
「俺つええ」
拳で床を粉砕。人間やめちゃいました。
なるほど。
敵を倒す。
経験値をゲットしてレベルアップ。
マナと力が上昇して強くなる。
もっと敵倒す。
このループで強くなるってのがこの世界の常道みたいだ。
でも一気に1000レベルまで上昇するか? 普通。
「バウ!!」
どこからともなく犬が出現。飛びかかってきた。
なぜか燃えていらっしゃる。ヘルハウンド的な犬っころだ。
身体強化!
平手打ち。
パアン!
犬っころがふっとんだ。壁にバーン。血、バシャー。
経験値が流れてくる。
「あれ?」
名前:テン・セイシャ
レベル:1010
マナ:10100
力:1010
レベル上がった。
10上がった。
ちょっと待てよ。
ここにいる魔物が強すぎて、経験値が多すぎてめっちゃレベルが上がる感じ?
そんな都合いいことある?
「あーでも、一応ここってダンジョンのめっちゃ下層になるのか」
落とし穴にボッシュート! してきたからよくわかってなかったけど、ダンジョンて普通下に行くほど難易度上がるよね。
そう考えると、バカほどレベルが高くなってるのもうなずける。
あれ? 一生ここで修行してれば最強になれるのでは?
「レベリングだー!!!」
それから俺はひたすら敵と戦い続けた。
***
1ヶ月が経過した。
「ステータス」
名前:テン・セイシャ
レベル:10000
マナ:100000
力:10000
遂にレベル5桁突入した。ここまでくると、モンスターを何百体倒してもレベルは上がらない。このダンジョンで修行するには、ちょっと強くなりすぎたみたい。
マナを使った火魔法がめちゃくちゃ強くなった。
何度も使ってるうちに、火を自由自在に操れるようになってきた。
球体でも立方体でも、好きな形に火を変形できる。
目に見えない速度で飛ばしたり、逆に動かさないで停止もできる。
最近は、超超高温の紫の火をムチ状にしてブンブン振り回してる。
これすると、簡単に敵を輪切りにできる。トラだろうがヘルハウンドだろうが関係なし。雑魚処理にはもってこいの魔法。
おかげでマナだけで敵を倒せるようになった。仮想魔力タンクを使わなくても生きていける。やったね。
仮想魔力タンクの残量は1.8本分くらい。結構減ってる。でも相応の力を手に入れられたので、ヨシ!
そして最近、暇になった。
強くなりすぎて、やることが無い感じ。
ダンジョンというだけあって、宝箱、ボス部屋、経験値部屋。バラエティに富んでいて結構楽しかった、んだけど……。
宝箱の中身は、剣! 防具! ポーション! こればっかり。
びみょーだ。素手で十分だし、かさばるし。魔法で回復できるし。というかダメージ受けないし。
持ってても楽しくない。晴れの日に間違って傘を持ってきちゃった気分になる。
だから宝箱は、時々出る食料だけが目当て。他はいらん。
ボス部屋、経験値部屋もつまらん。
マンモス、ゴーレム、ドラゴン。錚々《そうそう》たるメンバーがボス部屋で待ち構えてた。のだが。
火のムチ。ブオン。スパッ。おわり。
作業だ。全部作業。経験値部屋だって、経験値の量が違うだけでやってること同じ。
10000レベルだと、何してもレベル上がらないし。
やることがない。
「最下層行くか」
このダンジョンというものは、階層のどこかに階段がある。
で、そこを降りると次の層に進むことができて、敵がちょっと強くなる。
とすると、ゲーム的には最後の層に何かあるんじゃないか? なんて考えてみたり。
思い立ったが吉日。
早速最下層まで爆速で降りた。
今が第何層なのかは知らないけど、適当に降りてれば着くでしょ。
で、100層か200層か降りた。
到着。
天使がいる。
頭に輪っかがついてる、明らかに天使って感じの女の子。
顔小っちゃ。まつげ長。めっちゃかわいい。
「よくぞ来ました異界の勇者よ」
「勇者?」
「え?」
知らないの? みたいな表情された。知らないんですけどほんとに。
「えーっと、天使さん。すいません。異界の勇者ってなんですか?」
「……神がお呼びです」
無視された。ちょっとツラい。
「あ、はい。俺はどうすれば?」
「行きますよ」
ブオン。
いきなりどっかに転移した。
空だ。めちゃめちゃ透き通った空。遠くにいい感じの入道雲が見える。眼下に果てしない海面が広がってる。
アニメの背景に使えそうな場所。
で、なんか知らないけど、目の前におじいさんがいる。
「儂、神じゃ」
神様? マジ?
「マジじゃ」
「心読めるんですね」
うむ、と神様が頷いた。
「なるほど、じゃあ何を取り繕っても無駄ってことですね」
「そうじゃの。さて、早速だがテンよ。儂の使い魔になれ」
「使い魔?」
「そうじゃ。使い魔じゃ」
「嫌です」
「なぜじゃ?」
「普通イヤじゃないですか、誰とも知れないジジイの使い魔なんて」
「はぁ?」
「かわいい女の子ならまあ、って感じですけど」
「…………」
そりゃさっきの天使の子みたいなかわいい子に頼まれたら喜んでお受けしますとも。
でもジジイだよ。神とか言ってるけど所詮ジジイ。
ジジイのために働くのは老人ホームだけでいい。
「そもそもなんで使い魔をご所望で?」
「お主は使い魔にちょうどよいと思ったからじゃ」
ゲームに出てくる魔物じゃねえぞ俺は。
「丁度いいって、何が丁度いいんですか」
「この世界が滅ばんよう調整するのに、限界が来てな。ダンジョンの最下層に来れるような人材に協力してもらって、滅亡を回避する必要がある」
「はあ」
「理解できたかの?」
「はい」
「で、使い魔になってくれんか?」
「いやー」
「お主が素直に頷かんと……」
え? 怖い。
「全人類が魔王に殺されてしまうぞ?」
「あーそうなんですか」
怖くなかった。でもそれはちょっと困るかも。
「ちょっとしか困らんのか……」
「ええっと、報酬とか無いんですかね」
「報酬とな?」
「ボランティア活動じゃやる気出ませんし」
「あーそうじゃな」
「というか、まだ仕事内容決まってませんし」
「使い魔じゃから、儂の言ったことをやってくれれば良い」
「例えばどんなですか? 無理な命令とか遠慮したいんですけど」
「大丈夫じゃ。娘を助けたり、悪い貴族に制裁を加えたり、その程度じゃ」
「それが魔王討伐に繋がるんですか」
「安心せい。魔王討伐は本物の勇者がやってくれる。魔王を倒す素質を備えた勇者じゃ」
「はあ」
「お主にはその勇者が円滑に魔王を討伐できるよう、裏から手を引いてやってほしい。言うなれば影の勇者じゃな」
影の勇者ねえ。ちょっとかっこいいかも。
「でもなー」
「分かっておる。突然お主をこの世界に召喚した儂にも責任はある。最低限の安全は保証しよう」
「んん?」
召喚した?
「なんじゃ、何か分からんことでもあったか?」
「あの、この世界に召喚した、って、どういうことですか?」
「……説明し忘れとった。すまん。知っての通り、この世界はお主の知るゲームの世界と同一じゃ。だからお主は、何らかの原因でゲームの世界に転移したと考えておるじゃろうが、実際のところは違う」
「はい」
「儂は神として5千年ほどこの世界を管理しておるのじゃが……未来視でこの世界の滅びを察知した」
「滅ぶんですか」
「このままじゃとな」
それは大層なことだ。
「じゃからその未来を回避するため、お主らの世界から救世主を呼び寄せることとした。しかし、何の説明もなしに呼び寄せるのは効率が悪い。じゃからゲームコンテンツとして儂らの世界の情報を知ってもらったのじゃ」
「えーっと、要するに、世界がヤバいから、ゲームをプレイさせて、プレイヤーを勇者として呼び寄せたってことですか?」
「うむ」
「はあ」
「……なぜそんなに納得いかぬような顔をしとるんじゃ?」
「あー」
「メール送ったじゃろう?」
「メールですか?」
「全クリした者だけに送るメールじゃ」
「あー」
「まさか受け取ってないとは言わんでほしいが」
「ちょっと、メールは知らないですね」
シーン。沈黙。
「お主、なぜここにいる?」
「話せば長くなるんですけど、結論から言えば、自力で……」
おじいさん、ぽかーん。目を見開いて口を開けて愕然としている。
マンガだったら目玉が飛び出ているかもしれない。
「神か? お主も神だったか?」
「神ではないですね」
「じゃ悪魔か? 冥王か?」
「人間ですね」
「嘘じゃ。人間がどうこうできる話ではない」
悲しい。
人間じゃないって言われた。よりにもよって神様に。
「ちょっと、魔法とか使ってですね……」
「魔法に、世界を渡るようなものはないぞ」
「ええ。この世界のものとは違うんですけど……知りませんか?」
「知らん。別の世界の魔法ということか? 何ができるんじゃ?」
「欲求制御、不老不死、タイムスリップ、みたいな」
「ほう。ほうほうほうほう」
なんかおじいさんが納得したみたいに腕組んでうなずいている。
「創造神だったか」
「違います」
「じゃあなんじゃ!? なんんじゃというのじゃ!? そのチート能力は!」
「神様はこういう力使えたりしないんですか?」
「無理に決まっておるじゃろうが! そんなん数度見ただけじゃ!」
「あ、見たことはあるんですね」
「遠い昔に別の世界で数度じゃ! この世界でなど、最近一度あっただけじゃ!」
最近?
「それって2、3ヶ月くらい前ですか?」
「そうじゃが? なぜ知って……まさかお主、儂を殺すために!」
ハッと気づいた様子を見せたおじいさん。
かと思えば急に土下座してきた。
「許して! 殺さないでほしいのじゃ! 使い魔とか全部ウソ! 冗談じゃから!」
「ちょっとちょっと」
「美少女がほしければくれてやる! だから許して! 儂まだ5000年しか生きとらんのじゃ! まだ地獄には行きたくないんじゃ!」
この姿を見た宗教の人とか、どう思うんだろうか。
「あーだから儂こんな仕事したくなかったんじゃー。もっと天界でぬくぬく育っていたかったんじゃー」
「そう気を落とさずに」
「勇者に慰められたー最悪じゃー神様失格じゃー」
「別に神様をどうこうする気はないんですけど」
カッと目を見開く神様。
「……それを早く言えい! 小童が!」
こちらが敵対しないと分かった途端この態度。
随分と調子のいい神様だこと。
「すまん。儂、調子乗った」
「いいですよ」
茶目っ気があっていいと思うよ俺は。