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第4話 企み

「私はあの屋敷から脱出するわ。そのために誘拐されたの」


 おお。

 この人やばい。


「意図的に攫われたのですか?」


「当然よ。盗賊とは事前に口裏を合わせておいたもの」


「そうなのですか」


 随分とこちらの予想を裏切ってくる計画を企てていたようだ。


 なんと理知的なお嬢様だろうか。

 つまり今までのは猫をかぶっていただけだということ?


「私はライエル家の人間じゃないのよ」


「ほう」


「炎の魔術師ミルアを知ってる?」


「存じ上げません」


「そう。結構有名だったと思うけど」


「それは申し訳ありません」


「いいえ、いいのよ。で、私はそのミルアの転生体よ」


「転生体ですか……」


 はー。

 へー。


 転生体。


「数年前に、勇者パーティーが魔王討伐に失敗したって話は流石に知ってると思うけど」


「はい」


 知らん。ごめん。


「その時、魔術師として戦ったのが私よ」


「なるほど」


 分からん。


「私達は魔王に敗れて死んだ。でも、保険として転生魔術を全員に仕込んでおいた。だから私以外もどこかに転生してるはず」


 何もかも分からん。ごめん。マジでごめん。


「つまり、リーニアお嬢様は転生してライエル家の長女になったわけですね」


 オウム返しのように言われたことをそのまま言う。


「そうよ。まあ、転生したからといって、今日この日まで何かできたかと言われると、そうでもないんだけど……」


 つまり彼女は俺と同じ転生者。転生仲間だったというわけだ。


 ちょっと嬉しい!

 実は修行してる間に疎外感、感じてた。こんなことやってるの俺以外誰もいないんだよな……みたいな。


 ここにきて同士が増えた。しかもこの様子だと、勇者パーティー全員が同じ境遇だ。転生者だ。


 転生者友達! テントモ!

 それともテンダチ? マブダチ的なノリでさ。俺は転生じゃなくて転移だけど。


「とすると、結構長生きしてるということですか」


「生前分を合計すればそう言えるかも」


「失礼ですが実年齢のほどは」


「あなた失礼ね」


 顔をしかめるだけで何もしてこない。普段のリーニアなら即座に殴ってくるところだ。


 やっぱり今までの立ち振る舞いは演技だったんだな。


「お父様は私を利用しよとしているみたいだけど……私には成すべきことがあるわ。だから家にはいられない」


「そのためにわがままな令嬢を演じていたということですか?」


「ええ。おかげでお父様は私のことなどどうでもいいと思い始めてるわ。追手もそう多くかからないはず」


「そこまで考えてたなんて、すごいですね」


「……あなたには沢山迷惑をかけたわ」


「迷惑だなんて思ってませんよ」


「いいえ。今まで無茶なことばかり言ってしまってごめんなさい」


 あのリーニアがしおらしく謝ってる!

 あのリーリアが!


「今の私にできることは限られてるけど……あなたの助けになることがあれば、今のうちにやりたいと思ってるの。……だめ?」


 な、なんてギャップ! やばい惚れちゃいそう。

 付き合いたい。今すぐ結婚しよう!


 待て。落ち着け。前みたいに浮気される可能性はゼロではない。

 どんな女も結局は金なのだ。金。


 というか勇者パーティーだったんでしょ? パーティーとはつまり複数の人の集まりなわけで。

 つまり、勇者様とそういう関係になっちゃったり? ありえる。


 パーティーの仲間同士でレッツパーティーしてるかも、しれない。セクシャルにコネクションをネゴシエーションしてるかも、しれない。


 地雷だ。やめとこう。


「リーリア様、こちらこそ、色々とお世話になりました」


「私としては申し訳ない気持ちでいっぱいだわ。せめて奴隷の身分から開放するくらいはしてあげたいんだけど」


 と、そんな話をしていたところ。

 牢屋の外。通路の向こうから男がやってきた。


 ボロボロの服。腰に湾曲した剣。頭にバンダナ。ニチャリとした悪い顔。


 ザ・盗賊って感じの野郎だ。


 リーニアが口裏を合わせたと言っていた野郎だろうか。


「リーニア様よお、さっきぶりだなあ」


「ボロコッソ、今回はお疲れさまでした。追手はいませんか?」


「いねえぜ。あんたらの護衛は酒場で飲んでやがる」


「そうですか。では今のうちに街から出てしまいましょう。早速ですがここから出してください」


「それはできねえなあ」


「……今なんと?」


「それはできねえって言ったんだよ」


 あれ? ボロクソさん?


「約束と違います!」


「約束なんざ知るかよ! 中央の貴族様がな、お前を金貨5000枚で買うっつってんだ」


 お嬢様は言葉に詰まっている。


 どうやら口裏をあわせていたと思っていたのはリーニアだけで、実際には売られていたようだ。


「テン、ごめんなさい。私のせいで……」


「いえいえ、生きてればこういうこともあるでしょう」


「騒ぎになるかもしれませんが、ここは私が魔法で突破するしか……」


「まっ!?」


 魔法!? え、魔法!?


「あんた馬鹿かぁ? 奴隷用の腕輪付いてんのに、魔法使えるわけねえんだよなあ」


「…………」


 そういえばいつの間にか手錠をつけられていた。

 恥ずかしそうにうつむくリーニアお嬢様かわいい。


 というかこの世界、魔力ないのに魔法使えるんですか!?


 俺の世界のものとは違う理論で生み出された技術なのかもしれないけど。

 どういうことですか教えて下さい! 俺、気になります!


「変態貴族の遊び道具になる前に、精々心の準備でもしてるんだな」


 そう言い残して盗賊はどっかに行こうとする。


「あのーボロクソさん」


「誰がボロクソだボケ!」


「俺はどうなるんでしょうか」


「んなこと知るか! そこで死ぬまで寝てやがれ!」


 盗賊は今度こそどっかに行ってしまった。


「テンさん。本当にごめんなさい」


 リーニアさん!? 土下座はやめて!


「私のせいで……」


「別に気にしてませんから」


「巻き込んでばかりで私は何もできていません」


 めちゃめちゃいい子じゃんリーニア。本当の姿は炎の魔術師ミリア、とやらなんだろうが。

 とってもいい子だ。純情だ。


「何かお返しできるもの……そうでした。どうせ貴族の遊びに使われるのです。使ってください」


「え」


「私の体を使っていいですよ」


 どうしてそうなる。


「前世も含めて初めてなので、や、優しくしていただけると嬉しいです……」


 顔を赤くしてもじもじしている。

 変態貴族に初めてを頂かれるくらいならやけくそだ! って感じ? ねえ? なんなの? 変態はどっちだよ!


 やめてほしい。こちとら1万年分溜まってるんだ。今ここでパーティしたら穴の空いた牛乳パックになってしまう。


「冗談はやめてください」


「冗談じゃ、ないですよ?」


「んぐぅ」


 目をうるうるさせながら上目遣いでこっちを見るな! かわいい! 抱きたい! パーティータイム!


「はっ!?」


 だめだ! 正気を保て!

 おっと脳内の正気細胞くんから報告だ。

 だめです! 保てません!

 くそ! 無能細胞が!


 仕方ない! 気を紛らわせろ!


「あー実はですね。俺も魔法使えるんですよ」


「え? そうなんですか?」


「はい」


「でも手錠が付いてますよね?」


「まあ見ててくださいよ。爆炎魔法ぅ!」


 ブオン。


 バゴーン!


 鉄格子が、壁ごと吹き飛んでボロボロに砕けた。

 破壊完了。


「こんな感じです。では出ますか」


「え? え?」


「あ、回復魔法」


 ブオン。

 シャーン。


 ボコられて腫れ上がっていたリーニアの顔がきれいに元通り。


「行きましょう。ん? リーニア様?」


 固まったままリーニア様が動かない。どうした? バグった? 


 外からは騒がしい声が聞こえてくる。俺の魔法の音に気づいたヤツらがいるらしい。もうここにはいられないな。


 急がないと面倒な気がするんだが……よし。


「ちょっと失礼」


「えっ! わっ!」


 リーニア様を抱きかかえる。お姫様だっこ? いいえ。おんぶです。我ながらダサいなあ。


「行きますよ」


「ま、待っ」


 待ちません。


 身体強化、発動!

 ブオン。


 強化された脚力で、跳躍!


「きゃあああああっ!」


 悲鳴を背中に受けつつ、バドミントンの羽にでもなったかのようなスピードで飛び出した。

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