第1話 目覚める能力
アニメを見てて、主人公が魔法を使ってタイムスリップしていて、俺もやりたいなーと思って何気なく口にした。
「1年前へ……転移っ」
ブオン。
戻った。
できたわ、タイムスリップ。できちゃったわ。
「1分前に転移」
時計を見る。1分戻ってる。
え、戻っとる。マジで戻っとる。
「マジか、マジかよ! 嘘だろこれ!」
時間を遡るドリームパワーが俺の手に。
となれば、金だ。
仮想通貨ってやつがめっちゃ儲かるらしい。グーグルのおすすめ記事に書いてあった。
「10年前へ転移っ!」
仮想通貨を爆買いした。
10年経過。銀行残高11桁。仮想通貨12桁。
とりあえず六本木ヒルズの最上階で1ヶ月豪遊した。湯水のごとく溶ける金。
しかし仮想通貨の残高は上昇。ああ、俺が神だ。
整形してイケメンになった。うわあ、イケメンだ。鏡を見ると、イケメン。
イケメンになって間を置かず、彼女ができた。めっちゃかわいい彼女だ。看護師らしい。
彼女と一緒に豪遊した。楽しさの絶頂に今俺はいる。
と思えば、彼女が重病を患っていることが急に判明。生まれた頃からの持病らしい。
余命2年だという。
莫大な資金を投じて手術した。
でも時間が足りなかった。
死んだ。彼女が死んだ。
「3年前に転移」
時間を戻して、莫大な金を投じて病気の研究を進めた。
彼女と出会い直した。
3年かけて治療法が確立された。彼女の病気が治った。
病気が治ってすぐに、彼女にプロポーズされた。嬉しすぎて泣いた。
彼女と結婚した。ハワイのチャペルを貸し切りにして式をやった。その後世界一周旅行をした。やりたい放題。夢心地だ。
子供ができた。可愛い女の子だ。この子は世界で一番かわいい。かわいさで勝てるやつなんていない。嫁といい勝負といったところ。
もういいわ。タイムスリップとかどうでもいいわ。
めっちゃ幸せだもん。これ以上ない。俺より幸せなやついないよ絶対。
もう力は使わない。決めた。俺はこの幸せな状態のまま一生を送るぜ。
で、子供のためにお金をガンガン使った。ちょっとわがままな子に育ったかも。
と思ったら、いきなりパンデミックが起きた。世界中にヤバいウイルスが蔓延して人口が15%減少した。超不景気。
不景気のせいで、いつの間にか金が尽きた。
気づいたら、彼女が浮気していた。死ね。
そして離婚した。子供は彼女の方に引き取られた。裁判に負けた。
で、今日からホームレス。
あんなに愛おしかった君がいない。
大好きな娘もいない。あんなに愛してたのに。あんなにかわいかったのに。
「うわ、懐かし」
東京都内をふらふらと歩いてたら、電光掲示板に昔のアニメが写っていた。俺がタイムスリップするきっかけになったヤツ。
映画化するらしい。
見たことない技使ってる。爆炎魔法とな。
俺も使えるかな。
「爆炎魔法!」
ブオン。
うわ、出た。体よりでかい火の玉。明らかにヤバい見た目してる。
てかどうやって止めるの? 止まんなくね?
ズドン、ドガアアアァァァ!
六本木ヒルズに直撃して下から5階分ぐらい消し飛んだ。
やばい。東京がゴジラに襲われたみたいなレベルで火の海だ。
警察がピストル構えて俺の方にジリジリ寄ってきてる。
「ちょ、ちょっとまって」
「撃て!」
パパパン!
痛えええええええええええ!
超絶痛いんだけど!
てか死ぬ。
「十年前、に、てん、い……」
ブオン。
戻った。
見慣れた景色。
六本木ヒルズ最上階。さっき俺が壊したやつ。
全身を触る。血は……出てない。あぶねえ。死ぬかと思った。
「……もういいわ。疲れた」
なんでこんなことしなきゃいけないんだろ。
別にいいじゃん。一人でいいじゃん。奥さんとか子供とかいらねえ。
もう痛いの嫌だし。二度とごめんだし。
意味分かんないもん。なんで撃たれなきゃないの? 間違って六本木ヒルズ消し飛ばしただけなのに。
「てかなんで魔法使えたん?」
タイムスリップだけじゃなかったのか?
「えーっと……水魔法、発動」
ちょろちょろ。水が出てきた。
床に染みて、俺がおしっこ漏らしたみたいになってる。
なんだこれは。
「火魔法」
ポッ。火が出た。ライターでつけれる程度の大きさ。3秒でフッと消えた。これじゃ線香に火をつけられないな。
「魔法使えんじゃん」
どうやら俺は魔法使えるらしい。
要するに、俺の力はタイムスリップではなくて、魔法に関する全般的な能力ってことなのかもしれない。
火魔法とか水魔法とか色々ある中で、最初に転移魔法を使ってタイムスリップしてただけと、そういう話だ。
え? 最強じゃね?
「修行すっか」
修行生活が始まった。
南アフリカの地下500メートルに秘密基地を作って、食料溜め込んで、そこでずっと魔法の練習をした。
たいていの魔法はすぐ使えるようになった。
特に攻撃系の魔法は、適当に魔法名を考えて、イメージして、後は言葉にするだけでなんでもできた。
マジで適当に詠唱するだけ。
ファイアボール! アイスソード! ウインドストーム! といった塩梅だ。
ガトリング砲を召喚して発射! なんてことも普通にできた。サモン、ブローニングM2。
そんな感じで、最初の1年くらいは攻撃の魔法ばかりを練習していた。
やられる前にやる、がモットーだった。
で、1年くらいして、防御の魔法を練習し始めた。
これが難しい。
うまく発動できない事が多かった。発動しても、全然防御力上がらないなんてこともあった。
ピストルで撃たれた時の記憶のせいで、苦手意識が付いてるのかもしれない。
とにかく、焦らずじっくりと取り組んだ。
1度上達した魔法は、転移でタイムスリップしても上達したままだった。
だから過去に戻って何度も何度も、無限に練習した。
修行10年目。
目をつぶって魔法を発動する練習をしていたら、詠唱してないのに魔法が発動した。
たまたまだ。
なんでできるようになったのか説明できない。
何も口にせず、イメージを固めて、魔力? っぽいやつに力を込める感覚。
ファイアボール。いけ。
発動した。
無詠唱。これはれっきとした無詠唱だ! なんていい響きなんだろう。
この時の嬉しさは言葉で言い表せない。
ここから上達速度が加速した。
どうやら防御魔法は無詠唱の感覚が重要らしい。
障壁魔法。無色透明ウォール。
回復魔法。怪我を瞬く間にヒール。
解毒魔法。有害成分をパーフェクトクリア。
1個1週間ペースで会得した。
次に、支援系魔法。
2年かけて、身体強化魔法を会得した。これであなたもバケモノにアワーアップ。拳で壁をクラッシュ。
と、ここで唐突に思いついた。若返りの魔法とかできんじゃね? と。
だってタイムスリップの魔法があるんだ。いけるだろ。
今は、過去に戻ることで実質的に年齢を維持してる。それなら普通に若返ったり、不老不死だったり、そういうこともできちゃわないのか? という理屈だ。
「若返り魔法……発動!」
発動したのか? いやしてない。魔力っぽい何かが流れてない感じがする。
多分、発動することはできると思う。でも、極限まで「できない」に近い。99.9%できない。
でもこれができたら、見える世界が変わってくる気がする。
「やるぞー俺はやるぞー」
ワクワクしてきた。やっぱり魔法は楽しい。
若返り魔法だけを練習し始めて30年経過した。
そして遂に、遂に……できた! 若返ったぞー!
嬉しすぎて施設を爆発してしまった。
あまり余った力で地球の表面をこんがりと焼いてしまった。ごめんよ人類。
タイムスリップで地球を直してあげる。
その後の実験で、自分の年齢を好きなくらいにいじれることが分かった。
なんて使い勝手のいいこと。
これで俺は寿命という概念を完全に超越した、上位の生物となったわけだ。俺つえー。
とりあえず18歳ぐらいの年齢で固定しておく。
楽しかった。もう止まれなかった。
俺はずっと魔法の練習をし続けた。時間なんて気にしない。
時々、宇宙からエイリアンが攻めてきたり、核戦争で地球が滅亡しそうになったりしたけど、適当に魔法で防ぎつつ練習をつづけた。
1000年くらい経過。
3大欲求を克服した。
寝なくても、何も食べなくても、常時100%の実力を発揮できる。そんな魔法を作った。
俺は紛れもなく最強だった。チートキャラ。最強最強。俺最強。
修行3000年目くらい。
本当になんでもできるようになってきた。
敵の攻撃は自動反射。転移でどこへでも瞬時に移動。
一人じゃ何もできない? 残念、自分の分身を魔法でいくらでも作れるから一人ではない。
人を操ったりもいける。洗脳。倫理的にアウトだけど。
空を飛べる。光よりも速く動ける。月にも火星にも行ける。なんなら他の銀河系に行くことだってできる。
「別の世界ってあるのかな」
ふとそう思った。
「やってみるか」
異世界へ行くため、今までのすべてを捧げて研究した。
もうこれ以上は無いと思えるくらいに力を絞り出した。
技術、経験、なんとなくの勘。どんなものでも活用した。
難しかった。けど、楽しかった。
そして気づけば修行開始から10000年。
「準備オーケー」
上空1500メートルの高さから地上を眺める。
そこには超、超巨大な魔法陣。俺が一人で書いたやつ。
これが成功すれば異世界へ行ける、はず。
俺のすべてが詰まった集大成。ワクワクする。どうしようもなく胸がときめく。
もうこの世界には飽きてきたんだ。やりたいこともだいたいやりきった。
地球なんて、繰り返しの多いコンテンツでしかないのだ。
あー異世界行ったら何しよう。無双しようか。いや、世界間移動について研究するのもありだな。
「よし。発動!」
見たこともない量の光が地上の魔法陣を埋め尽くす。
ここ100年間、ずっと仮想魔力タンクに溜め込んでおいた魔力。
無尽蔵とも思える量のそれがグングンと減っている。
それだけでは飽き足らず、俺の体からも魔力が吸われる。
そして遂に。
ブオン。
突如視界が暗転した。真っ暗。何も見えない。
高速で謎の空間を移動してる。宇宙を光の速さで移動してる時みたいな。
体感で1時間ぐらい経過した。
フサッ。いきなり柔らかい音。
草むらの上? に着地した。
「うわあぁ」
青い空、白い雲。太陽が1つ。
あたり一面見たこと無い綺麗な草原。遠くにめっちゃ高い山がそびえ立っていて、いい感じに斜面を水が伝っている。
「ミェー」
ツノが3本生えたヤギみたいな動物が歩いてる。
遠くの空で、恐竜みたいなヤツが羽を羽ばたかせて空を飛んでいる。
こんな生物見たことも聞いたこともない。
「い、異世界だ」
胸からこみ上げてくるこの気持ち! なんと言えばいいのか!
ああ嬉しい。嬉しい!
「異世界に来たぞおおおおお!」
バッと両手を上げて、祝砲代わりにファイアボール。
ドカンと景気のいい音が……。
「あれ」
なんで出ない?
「ファイアボール」
出ない。
あーもしかして、世界観転移に魔力を使いすぎた? 今の俺の魔力空っぽかもしれないな。
「魔力よ、集え!」
空気中の魔力を集める。
集まらない。
「はあああああああ!?」
3本ツノの動物が、なんだこいつ、みたいな目でこっちを見てきた。
そんなことどうでもいいんだよ!
「魔力ねーじゃねーかああああああ!」
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