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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編作品

前世の私は…

作者: 伊勢


※去勢シーンがあります。

苦手な方はお下がりください。



皆さん初めまして、こんにちわ。


小説やアニメでは『異世界転生』ものが流行りとなっている昨今、私もそれが大好きで手当たり次第に読みふけっています。

もはやテンプレとかしたその設定の中で、主人公が前世の記憶を思い出すシーンが多数存在します。

在り来りなのは高熱を出す。頭を打ち付ける。ゲームの攻略対象との邂逅、突然ふと頭に湧いてくる…等でしょうか。


私は異世界ものが大好きです。

転生・転移ものには憧れを抱いています。

しかし、それは物語だからこそ楽しめるものであって現実に起こったのだとしたら…それはとても恐ろしく感じると思うのです。


つまり、何を言いたいかと言うと…



長時間労働低賃金が当たり前の牧場に勤務をしております年齢=彼氏無し歴更新中のしがない牧場員の私。


そんな私の目の前には去勢手術を目前に絶望のどん底にいる哀れなお馬さんがおります。

その周りを笑いながらも痛そうに股間を押えるアホな野郎共が囲む、そのなんとも言えない光景を目にした瞬間。


前世の記憶というものを思い出してしまいました…。


「そろそろ麻酔きいたかな?」


「じゃあやりますか!」


「じゃ、いっきまーす!」


ジョキッ…!


「「「おおぅ…」」」


アホな野郎共は皆股間を抑えて痛そうな声を出しながらも、去勢手術という催しに楽しそうに盛り上がっています。


今まさに取られてしまった可哀想なお馬さんは…

もはや虚ろな眼差しでプルプルと震えています。


…今はないモノの喪失感に、私の顔もきっと青くなっていることでしょう。


「お?大丈夫か、顔真っ青だぞー?」


「…大丈夫です」


「そうか?まぁ、無理すんなよー」


「…はい」


なんとか気力を振り絞り馬を馬房に戻せば、今日の仕事は終わりです。


トボトボ…


家に帰る私の背中はさぞ哀愁漂う寂しいものになっていることでしょう。とてつもなく最悪な気分です。


「…はぁ」


脳裏を過ぎるのは、先程見てしまった哀れなお馬さんの姿


そして、思い出してしまった懐かしい風景。


いつの間にか走り出していた私の目に映るのは該当に照らされた暗く侘しい道ではなく、馬だった頃の辛くも楽しかったころの記憶の景色。


眼前に広がる草原を仲間と共に駆け回る。

狭い空間に詰め込まれ、いつの間にかライバルとかした仲間と歓声に包まれる中必死に足を動かし続けたあの瞬間。


そして…今はない大事なアソコを切り取られた絶望と果てしない喪失感。


「なんで、なんで思い出しちゃったかなぁ…」



前世、私はお馬さんでした…。



◇◆



前世の私はそれはもう我儘坊ちゃんでした。


お馬さんって、一般の人から見たら大人しくて賢いとか。

そういうイメージがあるらしいのですが…全くそんなことないです。


結構馬鹿です。

『馬鹿』という言葉に使われるくらいには馬鹿です。


特に前世の私は実績も何も無いくせにただただ煩く鳴き喚き暴れ回る手の付けようのない程の暴れん坊。

その癖足は遅くレースで全く活躍する事もできない。


一言で言えば態度がデカいだけの馬鹿でした。


まぁ、よく居ますよ。

レースで使われるお馬さんはやはり気がたっているのか、気性の荒い子は割といます。

しかし、そういう子はとことん扱かれますので後々大人しくなるのですけど…私の場合は逆に暴れてました。


お馬さんって、元々群れを成す動物です。

群れの中にはリーダーとなるボスがいます。

しかし、人に飼われた子達にとってのボスはお世話する側の“人”でなければなりません。


このお仕事を始める時、言われたことがあります。


まず最初に大事なのは馬との“主従関係”を明確に作りどちらが上か、確りと教え込むことが大事だと。

信頼関係なんてものはあとから勝手に作れ。まずは相手になめられないようにボスはこちらだと徹底的に教え込め、と。


正直、横暴だと思いましたね。


言う事を聞かない子には殴ってでも教え込む。

それがこの業界では当たり前なのです。

まぁ、相手に馬鹿にされまくるのは宜しくありません。

きちんと人が乗れるように訓練し、レースで活躍できるように調教するのがここでのお仕事です。


なので、まぁ…仕方がないのかもしれません。

けれど、前世お馬さんだった私はそれが心底気に食わなかったのです。


自分よりはるかに小さな臆病で弱い生き物が、自分の上に乗り偉そうにムチを振るうなんて…

何故、こんなにも生意気な奴らの言うことを聞かなければいけないのか?

何故、この俺がこんな生き物に背中を任せなければいけないのか?


たった一蹴りでこんなヤツら簡単に殺せるというのに。

何故?なぜなぜなぜ?


あぁ…気に入らない。


だから、蹴ってやった。

立ち上がって暴れて噛み付いてやった。

こんな奴らを背中に乗せて、何故走ってやらなければならない?言うことを聞かなければならない?


お前らなんか絶対にボスとして認めてやるものか、と。


だからでしょうね。

私は『五月蝿い』という理由で去勢されました。

まぁ、あまりにも暴れ回るものですから怪我人も多かったですし…今に思えば仕方がない事だと思います。


当時の私は、全くもって納得できないことでしたけどね。


ですが、実は正直あの時の記憶は曖昧なのです。

ただ、この上ない絶望感とそして喪失感だけはありました。


すっかり大人しくなった私は、上に乗る人を振り落とすことはなくなりましたが…走ることは無くなりました。

その後は、レースは引退させられのんびりとした牧草地の広がる乗馬クラブに移されました。

そこにいる人はとても穏やかな人達で、無理矢理ムチで叩いてくる人もおらず仲間たちものびのびと生活していました。

穏やかな風が吹くそこは、人に飼われる前の本来の私達の姿を思い出させるかのようでとても楽しかった記憶があります。

私には子をなせることは出来ませんでしたが、生涯の伴侶と決めた番もできました。


とても、幸せだったことを覚えています。


いつ、どうやって、死んだのか分かりません。

気付いたら新しい命に生まれ変わっていました。


何故、今世ではお馬さんのお世話をする方になったのか分かりませんが…今に思えば、前世がお馬さんだったからか無意識に仲間を求めてしまったのかもしれないです。


しかし、まぁ…

仲間なんてどこにもいなかったですけれどね。

なぜって、何より今世の私はお馬さんでは無いですし。


そもそも、かつての仲間だったお馬さんには…


バサバサ!


大きな羽音が聞こえた瞬間、風を切る音が聞こえた。

上を見上げれば大きな羽をいっぱいに広げて、天をかける複数の影。

下に視線を向ければ、そこには大きな角を生やしキラキラとした光の軌跡を描きながら翔けるお馬さん達。





前世、私は確かにお馬さんでした。

けれど…こんな大きな翼も角も生えてなかったですよぅ!












職場にいるクズに対し、いっその事去勢されてしまえばいいのに…と思った時に浮かんだお話です。


どうしてこうなったのかは甚だ不明であります( ¯꒳¯ )

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