天使のような婚約者
(そろそろ僕に婚約者ができるんだって、フレイヤ)
『あら、そうなの?私からすると早い気がするけど、ここの世界じゃ妥当なのよね』
クリストファーの年齢が二桁を超えた時、前々から厳選された婚約者が決まった。
アリス=フローレス公爵令嬢。王族の婚約者にふさわしい聡明さと振る舞い、そして家格によって王太子妃に選ばれた完璧な少女。
しかし非の打ち所がない婚約者に周りが満足する中、クリストファーは少し不安だった。
『どうしたの、クリス』
(なんとなく不安なんだ。君の話だと婚約者は愛し合う者同士なんだろう?)
フレイヤの世界では親に決められた婚約というものが珍しく、自分自身で決められるらしい。
無論、クリストファーの世界とフレイヤの世界は違う。だができることなら相思相愛の方が良いだろうと思っている。
『確かにそれが理想なのは間違いないわ。けどそうじゃなきゃいけないってことはないの。家族愛や友愛だっていいのよ』
『無理に恋心を抱こうとしなくていいの。そりゃあ険悪なのは良くないけど、クリスが幸せで心地よい関係を築ければそれが一番よ』
それより別の問題があるかもしれないとフレイヤは、気まずい雰囲気をだす。
『私、女性じゃない?できるだけキッパリ分けたつもりだけどクリストファーに影響がでてないか心配だわ』
こちらの世界では家を存続させるために、子作りが非常に重要視される。何年も経って子ができなければ離婚されるといった話もあり、同性愛に関してもあまり寛容ではない。
クリストファーの前世は女性で異性愛者。まったく影響がないのかと言われると、どうなるのかはわからない。
『ともかく、百聞は一見にしかず。会ってみたら変わるかもしれないわ』
(えっと、ひゃくぶん?)
『耳で聞くより目で見たほうが早いってことよ』
「お初にお目にかかります、クリストファー殿下。アリス=フローレスと申します」
数日後に設けられた婚約者初顔合わせの舞台。朝から念入りに綺麗に身支度され、フレイヤとともに疲れ果てたクリストファーを待っていたのは疲れを吹き飛ばす存在だった。
白銀の腰まで伸びた髪に、アメジストの瞳。一度も日を浴びたことのないような白い肌が眩しい。クリストファーの身長より数センチ小さい華奢な婚約者を見て、二人は同時にこう思った。
『天使だわ』
(天使だ)