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宇宙を目指して〜  作者: 東雲もなか
3章 造山帯
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09話 すれ違う二人

「遅い、君たちは時間も守れないの」


『すみません(ごめんなさーい)(すまぬ)』


 私達は頭を下げる。

 ひーちゃんはまだしも、ロッキーはふざけているようにしか見えない。


「もう良いよ。はぁ・・・」


 佐々木さんは諦めたようなため息をつく。


「それでそれは?」


 ロッキーの明らかに手が加えられている飛行機が気になった様子を見せる。


「ああ、これ作ってて遅れたんでござるよ」


「・・・うん、それで?」


「斎藤氏が貰ってきたパーツを付けて操縦できるようにしたんでござるよ」


「しかも動力はゴムのままっ」


「へー」


 興味の無いふりをしているようだが、関心している声は隠せていない。


「そうだ、飛ばしてみてよ。さっきもこっちで飛ばす予定だったでしょ」


「任せとけ!」


 ロッキーが拳を握り答える。

 彼女がスマホを接続して準備している内に、ひーちゃんがプロペラのゴムを巻く。


 二人の準備がちょうど同時におわり、ひーちゃんがプロペラを抑えた状態で地面に置いた。


「準備は良いでござるか?」


 ひーちゃんはタイミングを計るべく、ロッキーに聞いた。


「オーケー」


 ロッキーはアイコンタクトを取るとウインクして見せる。

 そしてひーちゃんは合図と同時に手を離した。


 勢いよく回るプロペラが風を掻き、推進力に変わる。

 通常よりも重たい動きをしながらも、ふわりと浮かび上がり離陸した。


「うわぁー、本当に飛んだ」


「驚くのはまだだよ」


 ロッキーは手元を操作する。

 すると、右左と自在に部屋を飛び回る飛行機。

 しかし、永遠に飛び回れるわけもなく、すぐにゴムは伸び切り動力を失った機体は急速に高度を下げた。


「これはっ」


 ついに好奇心が抑えきれなくなったのか、佐々木さんが見事着陸を決めた飛行機に近づく。

 食い入るように見た後、


「こんなのがよく飛んだな。てか、さっき作ったって言ったか?良くもこんな短い時間で」


「でしょでしょ。ひーちゃんたちはすごいんだよ」


 自分のことではないのに、嬉しくってテンションが上ってしまう。


「思えのことじゃないんだが・・・ それで、これみんなの前で見せれないか?」


「みんなの前出ござるか?」


「そう、小学生とか喜ぶんじゃないかと思ってさ。どうかな?」


「佐々木さん、それは如何ほどの報酬が出るのですかな?」


 私はごまを擦る時のように手をこすり合わせながら、嫌らしい笑みを浮かべてみる。


 そしたらちょっと強めのチョップが飛んできた。

 クリティカルヒットしたのでそこそこ痛い。


「お前に聞いてない。それでどうする?」


「お願いするでござる」


「私もお願いしまーす」


「よし、それじゃあそろそろミーティング始めるか」


 彼が声を掛けると、他のスタッフたちも集まってきていよいよ午後の仕事も始まった。



 午前と同じように配列を変えた席にお客さんを案内する。

 つつがなく制作も進み、見事全員完成させることが出来た。


「ロッキーこれ見て。僕一人で作れたんだよ」


 小学生の男の子が自慢げに自分の作った飛行機を見せる。

 ロッキーは「流石だねっ」とハニカミ、男の子の頭をワシャワシャと撫でた。


「斎藤氏、子供から人気でござるな」


 そういうひーちゃんも両手に子供を携えているので、人気だと思う。


「やっぱりロッキーって名前が良かったんだよ。やっぱ私って天才?」


「そう? わかりやすい名前の方が懐かれやすいのかな」


「いや、バカっぽいから、知能レベルが一緒だと判断されるんじゃない?」


「くっ、後で絶対・・・」


 子供の手前、汚い言葉はギリギリのところで飲み込んだようだ。

 代わりに奥歯を削る音が、目の前にいる私にすら聞こえてくる。今日は背後に気おつけておこう。


「それにしても、やっと終わったでござるな」


「あ、なんかさっき聞いたんだけど、外にスペース確保出来たからテストフライト擦るみたいだよ」


 午前は飛ばす場所もなかったので作って解散だったが、誰かがそれじゃ可愛そうということで、施設に交渉したようだった。

 休憩終わり私達は室内で飛ばしていたが、あれは一機だったし、それに人も少なかった。

 万が一子供に当たると合ってはかなわない。


「それでは、外に飛ばしに行くよー」


 佐々木さんは、私達と話すときとは真逆の優しい声で呼びかける。

 最初聞いたときは気持ち悪かったが、しばらくすれば慣れて若干気持ち悪さを感じるくらいになった。

 本人に言ったら怒られるので絶対言わないけど。


「私達も、移動するでござるか」


 そう言うひーちゃんの手には、改造された自分の飛行機を持っている。

 しかし、なんだかさっき見たときから形状が変わっている気がする。

 いや、変わってる。

 プロペラがなんか二枚になってる。


「どうしたのそれ?」


「え?みんなの前で飛ばして見せるんでござるよ?」


 何当然のこと聞いてるんだろうかと、首をかしげるひーちゃん。


「そうじゃなくてさ、なんか変わってない?初めのときと」


「暇でござったので、さらなる改造を施してたでござる。佐々木氏に聞いたら余ってるパーツ使って良いって言ってござったから。どうでござる?かっこいいでござらんか?」


 かっこいいか聞かれれば、かっこいいかな?


「そんなことより早く行くでござるよ。飛ばしたくて飛ばしたくてウズウズしていたんでござるから」


 ひーちゃんはお前も小学生の子供かというくらいに走っていく。

 いや、むしろ小学生よりも子供かもしれないと、彼らを追い越して行く大人げない高校生を見ながら思った。

 私は、ああはならないように、余裕を見せながら歩いて向かった。



「それで?準備をほったらかして何をしていたのか聞こうか?」


 私は今、大勢の小学生の前で正座させられ説教を受けている。

 小さい子からの同情の視線が痛い。


「ろ、廊下は走っちゃだめって教育されていますので・・・その」


 怖くて顔が上げられず、足元を見ながら答える。佐々木さんは何も言わない。

 それがまた怖くてたまらない。


「あ・・・えっと・・・ごめんなさいっ」


 その空気がたまらなく、足にすがって謝る。こうなったらプライドなんて要らない。

 大人の余裕とか思ってた過去の自分なんて知ったことではない。


「こいつ、からかうと意外と面白いな」


 佐々木さんはひーちゃんたちに向かって言う。


 ん?もしかして私って怒られ損だった?


「それにしても、よくもまあこんなの作るよな」


 佐々木さんはひーちゃんが持つ機体を改めてじっくり見る。


「プロペラを左右に配置してゴムを斜めに貼ることにより、パワーと持久力をもたせて、更にゴムの強化もしてるんでござるよ。重量増加に伴う補強も入れてるので安定性も上がってるでござる」


「お、おう・・・」


 佐々木さんも、そこまで聞いたつもりはなかったのだろう。

 ひーちゃんの早口に戸惑っている。


 それから、試空の時間となった。


「誰かライター持ってござらんか?」


 一人の小学生を連れたひーちゃんがスタッフが集まっているところまでやってくる。


「私は持って無いけど・・・」


 誰か持っていないものかと見渡すと、持っている人が渡してくれた。


「結局ライターで何するつもりだったの?」


「この子の機体が飛んだ時、左に曲がるって言ってござったので・・・」


 言いながらライターに火を付け近づける。


「不出来なのもは燃やすでござる」


「え⁉」


 ぎょっとした小学生は阻止するべく、ひーちゃんの腕にすがりつく。


「危ないでござるよっ、嘘、嘘でござるから! 離れるでござる」


 一旦ライターを消し、すがりついてきた体を振りほどき落ち着かせる。


「炙ってフレーム修正をするんでござるよ。フレイムだけに」


『・・・・・・』


 超ノリノリで言ったひーちゃんは、私達のジト目に、無言無表情で調整を初めた。

 器用なことに片手でライターを持ったまま反対の手で翼を捻っている。


「ほら、これで良くなったでござるよ」


 ひーちゃんは息を吹きかけ熱したところを冷ましてから小学生に返す。


「ありがとっ 飛ばしてみても良い?」


 ひーちゃんは頷く。

 小学生は喜々と小さな手でゴムを巻き地面に置く。

 プロペラを抑えていた手を離せば、一気に加速して機体は風を掴み浮かび上がる。


「うわぁ〜 すごーい」


 飛行機は、ひーちゃんが組み立てた機体には及ばないものの近いくらいまで高度をあげる。


「曲がんないだけじゃなくて、良く飛ぶね、ひーちゃん」


「歪みを取ったでござるからね。その分ロスが減ったんでござるよ」


 さっきの様子を見ていたのか子どもたちが一人、二人と集まってくる。


「あれ、おにーちゃんがやったの。僕のもやってよ」


「私のもー」


 我よ我よと請われ引っ張りだこなひーちゃん。


「わかったでござるから、みんなちょっと待つでござる」


 ひーちゃんは、さっきした作業と同じことを周りが圧倒する速度でこなしていく。


 十数分もしない内にやり遂げ、汗を拭う。

 未だにひーちゃんの腕はさすがだと関心する。


 小学生たちは彼女にお礼を言うと楽しそうに駆けていった。


「儂、そんなに女っぽくないでござるか・・・?」


 気にしてたんだ・・・

 私が愛想笑いをすれば、彼女は更に凹んでいた。



 しばらく思い思いに遊び、一段落たったころ。


「それでは、そろそろ集まってー」


 佐々木さんが子どもたちを呼び寄せる。


『はーい』と元気な声が聞こえ、イワシのように一気に集まってきた。


「それでは行くでござるよ」


 ひーちゃんはさっき子供たちがしていたのと同じようにプロペラを回してゴムを巻く。

 違うのは二枚のプロペラが付いていることだ。


 今度は、ひーちゃんは巻き終わった機体を抑えていなかった。

 手を離しているのに、進まずに静止している。


「みんな見ててね」


 ロッキーがお昼開けやったように、手元のスマホを操作する。

 そうすると、飛行機は一人でに動き出し、空へ舞う。

 まるで手品でも見せられているような気分だった。


 それを見て、息を飲んでいた人たちもしばらくすれば自然と歓声を上げた。

 飛行機は以外に長い滞空時間を稼ぐ。


「こんなによく飛んだっけ?」


 私の記憶にあるのは、舞い上がってすぐに落ちてしまっていた。

 これは、何も手を加えていない機体に負けず劣らずの時間飛んでいるのだ。


「よくぞ聞いてくれたでござる。プロペラの回転をコントロールできるようにしたので、飛行時間が飛躍的に伸びたんでござるよ。飛行機だけに」


「後は、風の条件もいいからね。追い風を使って時間を稼いでるんだよ。操縦することもできるから、うまくやればかなり伸ばせるの。いい風が吹いたタイミングでバトン渡してっ佐々木さんに言ってたらちょうどいいタイミングで紹介してくれたから良かったよ」


 私は、佐々木さんの方を見る。

 彼は、今後の行動についてスタッフと確認を取ってる最中だった。

 へー意外と彼も・・・


 佐々木さんはこっちが見ていることに気がついたのか、少し不機嫌な顔を私に見せてこっちに歩いて来た。


「俺の方そんなジロジロ見て何かよう?」


 私に対して、用事があるのか聞いているが、本当に用事があって来たのは彼のほうだろう。

 なので「別に」と答えておいた。


「まあ、何言おうが構わないけどもうそろそろ片付け始めるから、ちゃんと働けよ」


「あれ?私口に出して言ったっけ?」


 確か心の中だけしか・・・あ


「なるほどね」


 まんまと自白してしまった。


「さてと、仕事仕事」


 私はまだ遊びたそうにしている、ひーちゃんとロッキーを連れて大変な場所から片付けて行った。



 片付けも終盤になり、後この椅子を直せば終わりというところ。

 私に声を掛けて来た人物が居た。


「捗ってる?」


 何かと振り返るとそこには腕を組、壁によっかかる雲雀さんの姿。

 する人がすればだらしない立ち方も、彼女なら様になっていてなんかちょっと悔しい。


「ええ、まあ。ちょうどこれで終わりです」


「そう、なら良かった」


 雲雀さんは、壁から背を離し、私の方へ歩いてくる。


「ちょっと話したいことがあってね」


「話し? ですか?」


 彼女は肯定とばかりにウインクをする。


「うん。あなた輝と仲良くしてくれているんでしょ?」


「はいっ、そうです!」


 雲雀さんは「ふふふ」と上品に笑う。

 何が面白かったのかわからず私は戸惑うばかりだ。


「ごめんごめん。あまりにも良い返事だったものだからついね。でもそれだけ自信を持ってくれてるなら嬉しいな」


 嬉しいと言っていながら、彼女には寂しさが垣間見える。

 何かあったんですか?と聞くことは私には出来なかった。

 そこまで踏み込んでも良いのだろうかという思いが、私を思いとどまらさせる。


 それを察したからかどうなのかはわからないが雲雀さんは、


「聞いてくれても良かったのよ」 と言う。


 私は、それならと彼女と何があったのかについて聞いた。


「大したことでは無いんだけどね・・・ 輝が小さい頃、私もママみたいにロケットつくるんだぁ、ってね。輝の為になればと思って、色々厳しいことも言っちゃったりとかね。それで、嫌いになっちゃったみたいで・・・」


「そう、だったんですね」


 私の短い人生ではこういうときになんと返せば良いのかわからない。


「ただ、後悔もしてない」


「え⁉」


 続いた予想外の言葉に驚く。


「ふふ、そりゃ驚くか。でも、それくらいで嫌になっちゃうくらいならどうせ、できるわけ無いから」


 彼女は辛辣なことを言う。

 小さい頃というからには、小学生くらいだろうか。そんな幼子にはまだ現実を教えるには早すぎるように思えた。


「あなたには私が鬼に見えた?」


 心を見透かしていたのか、思っていたことを言い当てられる。


「そのっ・・・はい」


「まあ、そうよね。あなたから見て輝ってどんな子?」


 私から見たひーちゃん・・・


「頑張り屋さん、ですかね」


「そう」


 予想していた答えだというように短く返事し、遠くを眺める。

 何かを期待していたが、それは勘違いだったという雰囲気にも取れる。

 私はそれを見て悔しさを覚えた。


 何故なのかはわからない。

 でも、今すぐに何か言わなければならないという衝動だけが走っていく。


「私はっ・・・」


 喉がつまる。

 遠くを見ていた雲雀さんも、突然声を出した私の方を見た。


「私は・・・もうちょっとサボったって、良いと思うんですよね」


 私は何を言っているのだろう。

 言ってたじゃないか、そんなんじゃ出来っこないって。

 このままだと怒られてしまうと思って、慌てて訂正を入れようとする。


「今のは、ちg」


「あなた面白いこと言うのね。もっと早く輝と出会ってくれたらな〜」


 あ〜、あ〜、とわざとらしいため息を付いている。

 そして私の方を見ると微笑む。

 それは今までのシャープな彼女のイメージとは違い丸みを帯びていた。


「これから輝をよろしくね」


 頼まれたからには引き受けないわけにはいかない。


「はい、任せてください!」



 私が荷物を取りに行こうと、休憩室に踏み出すと思い出したように雲雀さんが止めた。


「まだ何かありましたか?」


「ああ、その再来週何だけど・・・」

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