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宇宙を目指して〜  作者: 東雲もなか
2章 初めの一歩
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05話 渾身の秘技

「エントリー者のお名前をよろしいでしょうか?」


 明氏に言われた通り、受付に来た儂。


「名前は、中島明で大丈夫だと思うでござる」


「中島さまですね。・・・はい、大丈夫です」


 係の人は、名簿から明氏の名前を見つけ出して、チェックを入れた。


「点検が一時間後に始まりますので、時間に成りましたらまたこちらに、いらしてください」


 つまりそれまでに、修理を終わらせないと、いけないということだろう。


「明氏が言っていた一時間は、やっぱり無いと思ったほうが良さそうでござるな。でも、スケジュールを把握しているはずの彼女が、こんな間違いを起こすでござろうか?」


 例えそうだったとしても、あれだけ必死にサポートしてくれる人を裏切ることなどできるはずもない。

 つまり、残り時間が三十分多かろうが少なかろうが儂に残された道は一つ。


「どうにか間に合わせるしかなさそうでござるね」


 受付を済ませた後は、荷物を置いていた場所に戻る。

 そして材料が届いた時すぐに作業に取り掛かれるよう、予めできることを初めた。


 ペットボトルロケットの機体をバラバラにしながら思う。

 もし、完成させることが出来なかったらと。


 さっきの状態でも一応飛ばせないことはなかったのだ。

 なら、壊れているなど言わないほうが良かったのではないだろうか。

 儂は浮かんだ思考をすぐに否定する。

 それこそ明氏は許してはくれないだろう。

 例え修理が終わらなかったとしても、彼女ならその努力を汲んでくれて許してくれるはずだ。


「何弱気になってるんでござるか!さっき、間に合わせるしか無いって言ったばっかりでござろう!」


 それなのに、逃げようとした自分の頬を両手で叩く。彼女を裏切るようなことは出来ない。


「やれるかじゃ無い、やるんでござる」


 一人なら無理だと思っても、今の儂には明氏が居るから。



 コンビニから帰ってきて、ひーちゃんのところに急ぐ。

 見えてきた彼女は何やらいじっている様子だった。



「ひーちゃん戻ってきたよ!」



 パンパンの重い買い物袋を下ろす。


 しかし、ひーちゃんに私の声が届いてないのか、私が帰ってきた事自体に気がついていないようだった。


「ひーちゃん!」


 もう一度。

 今度はさっきよりも大きい声で呼びかけた。


「ひょわっ」


 流石に今度のは気がついたようだ。

 今まで聞こえていなかった反動なのか、やけに驚いている。


「帰ってきてたでござったか」


「うん買ってきたよ、ほら」


 私はビニールの中身を見せる。

 そこにあるのは大量の二リットルのペットボトル(未開封)だ。


「でもこれ、中身があるでござるよ」


「大丈夫だよ」


 私は、ペットボトルの蓋を開けて一気にラッパ飲みする。

 中身があるなら飲んでしまえば良いのだ。


「非常に言いにくいでござるが、ペットボトルロケットで使うのは炭酸飲料の容器でござる・・・」


「ぶぉっ、それを早く言ってよ」


 もう四分の一くらい飲んでしまった。


「だったら、これなら良い?」


 私は、ひーちゃんのペットボトルをよく見て、似たものを選ぶ。


「それなら使えるでござる」


 確認が終わったのでまた中身を殻にするために飲んでいく。

 二回目だということもあるが、炭酸が入っていることもあってかなりきつい。

 なんだか胸にこみ上げてくるものがある。

 これがときめき?



「飲み終わったよ・・・」


 やっとの思いで、カラにする。


「実はでござるね・・・」


 カラの容器を見ながら、申し訳無さそうなひーちゃん。

 まさか、予備の部品を持ってたから、私が飲み干す必要なんてなかったとか言わないよね。


 そう言えば、半ば勢いで飛び出してきてしまったような気もする。


「あの、儂のペットボトルロケットはタンクに二種類のペットボトルを組み合わせて作っててござって・・・だからその、もう一つ要るでござる」


「え?は?」


 ついつい冷たい言葉が漏れてしまったようで、ひーちゃんが怯える。


「怖いでござる!ででも百パーの性能が出せないだけで一本だけでも大丈夫でござるよっ」


「はーしょうがないね。こう見えても学生の頃は、一気飲みの遥と呼ばれたものよ」


 先生は、ペットボトルを掴むと口をつけ真上に向ける。


『先生!』


「何、気にすること無いって。若者は黙って好きなことだけしてれば良いの。それを支えるのが大人の仕事でしょ?」


 先生は息継ぎで口を外すとそう言う。でも、


「それ、私がさっき飲んでいたオレンジジュースです・・・」


「・・・・・」


 結果先生も二・五リットル飲むことになった。



「うっ・・・私車で休んでるから」


 先生はなんとか飲み干したのだが、あの量を一気に飲んだせいで、こみ上げるときめきが止まらないらしい。


「私も少し休んできます・・・」


「明氏!」


 車に戻る私を呼び止めてきたひーちゃん。


「その、ありがとうでござる」


 私は右手を突き出し、親指を立てる。

 格好つけたかった訳ではない。

 苦しくて話せなかっただけだ。でもしかし、


「おえー」


 結局、ときめかずにはいられなかったのだが。



「先生、急に車出してもらってすみませんでした。ただでさえ疲れてるみたいなのに」


 車では、二人してシートを倒し、顔に腕を当てて寝ている。


「あ?あぁ、気にすることないよ。それに、送っていくこと自体はそんなに労力を要してないし」


 先生は言葉の終わりにゲップをする。


「あはは・・・」


 運転なんてしたこと無いからわからないのだが、それでも、あれを飲み干すほうが大変だろうと思う。


「でも先生、自分から飲んだじゃないですか。言う成れば自業自得じゃないですか」


「だから何も言ってないだろ。誰かのせいで胸焼けがすごいなんて」


「言ってるじゃ無いですか!・・・うっ」


 つい起き上がってしまい、また、ときめきが逆流してくる。


「吐くなら外で吐けよ」


 車を汚されたらかなわんと先生。


「吐きませんよ。あと、これは胸のときめきです」


 先生は目元に当てていた腕をどけこっちに顔を向けてくる。


「ときめきとか、お前それ本気で言っているのか?」


 割とマジなトーンで言われるとふざけていたのがなんだか恥ずかしくなってくる。


「本気な訳ないじゃないですか」


「お前なら、その可能性も捨てきれなかっただけだよ」


 まあ、こんなんでも私達のことを考えてくれているんだ。

 見た目によらず意外と良い人なのかも知れない。


「そう言えば、あのジュース代使った二本はともかく、他は部費からでないから」


「え?ちょっ、それってどう言う」


「そんな訳だから、後で返してね」


 訂正、割と鬼な先生だった。

 私からケチとか言える立場ではないことはわかっているが、流石にそれはないだろう。

 そんなことを思いながら何も言えないでいると。


「冗談だよ。反応が面白いからつい。ね?」


 この人は私達のことなんて考えてない。

 自分が楽しんでるだけの人だ。


 私は先生のカテゴライズを速攻で書き換えた。


 三十分ほど休んで、ひーちゃんの様子を見に行く。

 ちなみに先生はまだ寝ている。

 私も体調が元に戻っていなかったので、休みたい気持ちは山々だったのだがそうも言ってられない。


「調子はど・・・」


 言いかけてやめた。

 元々二つだったペットボトルを一つに繋げている彼女の姿は、真剣そのもので、とても声を掛けれるような状態じゃなかった。


 時計を見てみると、もう点検が始まる時間。

 最後に持っていくとすれば、もう少し時間はあるのだが、それでも少し間に合いそうではない。

 これは奥の手を使うしかなさそうだな。


 私は、受付の方まで足を進める。

 正直あまり乗り気はしないが、仕方がない。


 受付につくと正座して綺麗に四つ指つく。そして、


「どうか、もう少しだけ時間を待ってください!」


 そのまま頭を下げて土下座する。

 周りからいろんな種類の視線が集まるが、気にしていられない。


「あ、あのっ、困ります。とりあえず立ってくださいっ」


 係員が慌てて私を起こそうとする。

 でもそういうわけにもいかない。


「私が立ったら、少し待ってもらえませんか?」


「それも少し・・・」


「なら私が立つことは出来ませんっ。時間を伸ばしてくれるまではっ」


 我儘を言っているのはわかる。

 だからこれ以上迷惑も掛けられないと諦めをつけようとした。


「騒がしいけど何事?」


 綺麗な、でも何処かツンとした声が響く。


「すみませんでした。この子が少し・・・」


 係の人は私の方へ視線を向け、更に軽く説明を入れる。



「ふふ、大丈夫よ」


「いや、しかしですね」


 笑う女性に、困ったような係員。


「えっとあの・・・」


 私が言うのも何だが、突然のことで動揺してしまう。


「あなた、名前は?」


 聞いてきたのは先程の綺麗な女性。

 

 改めて見れば、スタイル抜群でパンツスーツがよく似合っている。

 足が長いのが良いのだろうか。上はジャケットでは無く白いジャンパーを着ていた。


「私の名前は、中島明です」


 女性は「そう」と端的に言うと、ポケットから名刺を取り出す。


「私は、雲雀秋よ」


 女性こと、雲雀さんは名刺を渡してくる。

 私はそれを受け取り名前を確認した。


 へー、雲雀さんか。

 ひーちゃんと同じ名字だ。

 私が名刺をまじまじと観察していると「中島さん」と声が降りかかる。


 「あなた時間が欲しいのでしょ。良いわよ、待ってあげる。その代わり、条件があるわ。今度、私達主催のイベントがあるのだけど、そこで手伝いをしてほしいの。人手が足りなくてね」


 手伝いか。

 まあ、この際そんなことは障害にならない。

 これで時間が買えるのだったらむしろ安いくらいだ。


「わかりました。それでお願いします」


 雲雀さんは腕の内側につけた時計を見て、


「それじゃあ、今から三十分後まで。それ以上は何があっても待たないから、覚悟を決めてやりなさい」と言った。

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