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宇宙を目指して〜  作者: 東雲もなか
4章 星の神話
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11話 最初の敗北

 いろいろ、いろいろあったが目的地に到着した。

 私が車を降りて伸びをしていると、待っていた雲雀さんがこっちに来た。


「おはよう」


「おはようございます」


 私が挨拶を返したところで、先生も降りてきて「本日はよろしくお願いします」と頭を下げていた。

 こう見ると普通の先生みたいだ。


 ひーちゃんは相変わらずで、そっぽを向いている。


「今日は、ありがとね。プラネタリウムの解説役がどうしても見つからなくてね。削ろうかとも思ったけど、よかったよ」


 雲雀さんは私をひーちゃんを交互に見ながら言う。


「そういうことだから。よろしく、ひーちゃん」


 ひーちゃんは不満そうに唇をとがらせる。

 ワンテンポ遅れて「わかったでござるよ」と言ってくれたので嫌々ながらも引き受けてくれるのだろう。

 これで一安心だ。


「私は何をすればいいの」と言うのはロッキー。


「ロッキーは見てるだけでいいよ」


「え?」


「見てるだけでいいよ」


「聞こえてるから! え?つまり私って来る必要無かったんじゃ」


 それもそうだなーと思う。でも、来てしまったものはしょうがない。


「じゃあ、ひーちゃんのお手伝いお願い。多分機械とかあるから」


「機械だったら人では足りてるわ」


 雲雀さんが割って入る。


「・・・それじゃあ、見てて」


「もう少し私のできること考えてよ!」


 この後ロッキーはしばらく私にすがりついてきたが、無視して館内へ進んだ。


 ひーちゃんは本番の準備と打ち合わせをしている。

 私はその必要が無いので、離れてみていたのだが、こうして見ているとあの親子はそれほど仲が悪そうに見えないから不思議だ。

 ひーちゃんも母親をそれほど嫌ってる訳じゃないのだろうか。


「どうしたんでござるか?さっきから見てるようでござったが」


 私の視線に気づいたのか、寄ってくるひーちゃん。


「うん、まあね。それやりこっちに来ていいの?」


「さっき休憩をもらったでござる」


 ひーちゃんは私の隣の座席に腰掛ける。


「ひーちゃんはさ、お母さんのことそんなに嫌いじゃないでしょ?」


 いつも会うことを極端に避けてるように見えるが、さっきの様子を見るとどうも違和感が拭えない。


「・・・・・・」


 言ってから気がつく。

 私からこのことを彼女に聞くべきじゃなかったことに。

  ひーちゃんも、もっとタイミングというものがあっただろうに。


「ごめん・・・」


「謝る必要はないでござるよ」


 今度は私の言葉に応えてきた。


「あの人は過大評価が過ぎるんでござるよ。儂のこと天才か何かだと勘違いしてるんでござる。全く自分の基準を人に当てはめないでほしいでござるよね」


 ひーちゃんは言い終わって空笑いをする。


 彼女は気付いて無いのだろうか。

 そんな自分が認める人から評価されているという事実を。

 だが、気付いていてなおそのプレッシャーに耐えられなかったのかもしれないが。


「ひーちゃんはさ・・・ 誰のためにロケットを作るの?」


「儂は・・・」


 ひーちゃんは視線を下げ自分の拳を開いたり閉じたりを繰り返す。

 そして最後に握りしめ、「明氏の為に、明氏が誘ってくれたからその期待に応えたいでござる」と言った。


 そっか、そうだったんだ。

 でもこのままじゃ前の二の舞になるだけ。


「私はそれじゃだめなんだと思う。結局よっぽどの聖人でも無い限り、自分の為にしか動けないんだよ。でもいいじゃん。エゴ上等だよ」


 誰の為、彼の為。

 そうやって自分の行動概念を他人に押しつけるのなんてうんざりだ。

 きれい事ならいくらでもいえる。


 自薦行事を否定するつもりもない。

 だけどさ、


「そっちの方がサイコーに楽しいじゃん!」


「そうでござるね・・・」


 肯定の言葉を口にするにしては落ち込んだトーンの返答。

 これは、わかってくれなかったかなぁ。


「もうそろそろ、戻らないとでござるね。頑張ってみるでござるよ。明氏」


 ひーちゃんはそうやって、元の場所に戻っていった。

 彼女と入れ替える形でロッキーが私の隣に座る。


「お帰り、そっちは大丈夫だったの」


 ロッキーは親指を立てウインクをする。


「それでどうした?機械のトラブルとかで呼ばれてる間に二人で話し込んじゃって。戻りにくいったらありゃしなかったぞ」


「もしかして聞いてた?」


 ロッキーは申し訳なさそうにニヘラと笑う。


「なんだかごめんね・・・」


「ロッキー相談所必要?」


「・・・お願いします」


 私はひーちゃんに配慮しながら、ことのあらましを伝える。


「なるほどねぇ。私は何もしなくていいんじゃないかと思うよ」


 それだと、


「あまりに無責任じゃないかって思った?」


 思考を浮かべるより先に言い当てられる。


「うん」


「でも結局のとこ、輝の問題でしょ?私たちが何か言って変わるものでもないし、返させるものでもないと思うよ。それは輝が見つけるものだから。どうしても輝が道に迷ったとき手を握ってあげればいいんじゃないかな」


 ロッキーが言っていることも理解できる。

 しかし、納得はできずモヤモヤした気持ちを引きずったまま本番を迎えた。



 ひーちゃんは舞台上で星座やそれにまつわる神話の話をしている。


 普段、ロケットのうんちくばっかり話しているので、こんな知識もあったのかと素直に驚いた。

 ひーちゃんの語るそれは、ただそのままの物語ではなくユーモアも加えられていてつい失笑してしまう。


「輝もこの話をお母さんに聞かされてたのかな・・・」


 隣のロッキーがふと漏らす。


「そうなのかもね」


 幼き日のひーちゃんはまだ、母親を嫌って無かったのだろうと思った。

 いいや、今もきっと・・・



 一通りの催しが終わり、最後に私が舞台に立つ。

 咳払いをして喉を整えてマイクを近づける。


「皆さんこんにちはっ 今日はその、ありがとうございました。重ねて私、中島明からお願いをさせてください」


 会場は何が始まったのかと少しのざわめきが起きる。


「私たちは、ロケットを飛ばそうと計画してるんですが、支援してくれる人がほしいんです。なので、協力してくださる方は、この講演が終わった後に私のところまで来ていただけると幸いです」


 私はそれだけ完結に伝え、壇上から降りた。



「全然来なかったあああ」


 今いるのは帰りの車の中。


 結局あの後、最後の一人が出て行くまで待ってみたが、誰一人として私のところまで来てくれる人はいなかった。

 そりゃ、少ないだろうとは思っていたのだが、まさか一人も、説明すら求めに来ないなんて思ってなかった。

 算段が甘かったと思わざる得ない。


「まあ、あれだよね。あんな抽象的な説明じゃ。誰も理解できないよ」


 先生が隣の運転席で言う。


「私はどうすればよかったんですかね」


「それ答えちゃってもいいの?私はもっと自分で考えてほしかったんだけど」


「あるものは使えです」


「そういうことなら・・・ 例えばね、試作機を作ってイメージしやすくするとか、後は日付単位までとはいかないまでも、それなりに細かい計画の提示とか?」


 試作と聞いて後ろの座席を見る。ひーちゃん、ロッキーと目が合うが、どちらも微妙な顔をする。


「試作はまだ難しそうです。私も、前からお願いはしていたんですが」


「なんで完璧なものを作ろうとしてるの?」


「それは、いくら試作って言ってもあまりに中途半端じゃまずくないでござるか?それに適当なものを人前に出したくないでござるし」


 ひーちゃんが言えば、ロッキーもうなずく。

 それを聞いた先生はため息をついて目頭を押さえた。

 ちょうど信号に止まり振り返る先生。

「あのねぇ、大体試作ってそういうものなの。そもそも、完璧じゃ無いからこれの完成形を見たいって人は思うんでしょうが」


 先生はまた前に向き直り、信号が青になってから車を走らせた。

 私はもう一度ひーちゃんを見る。


「実は、まだ言ってなかったんでござるが、十分の一スケールのものならあるんでござるよ。あまり出来がよくなかったので言わなかったでござるが・・・」


「そうなの⁉明日見せてよ」


 ひーちゃんはうなずく。


「おーい明日は土曜だぞー」


「じゃあ、朝から部活できるねっ」


「私は、そういうことじゃなくてね・・・もういいよ」


 先生は諦めたように言った。

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