私がフッた幼なじみふたりが付き合うことになった物語
「ふたりの気持ちに答えられないよ。……ごめんね」
放課後、家の近くの公園で幼なじみのタクヤとヒロシに告白されたマユミ。
子供の頃からいつも三人で遊んでいた仲良しだった。
「何故だ!?」
「どうして?」
マユミの言葉にショックを受けたふたりは、素直に受け入れることが出来ない様子で彼女に問いかける。
「――だって、小さなときからずっと一緒だったから、タクヤ君もヒロシ君も家族っていうか、兄弟にしか思えないんだもの……」
親族的な情はあっても、異性としての感情はないとマユミはいう。
タクヤはぐっと歯を食いしばり、ヒロシはやや涙目になる。
ふたりは幼なじみの枠を越えてマユミと付き合いたかったのだ。
落ち込むタクヤとヒロシは顔を地面に向け、マユミにフラれた事実を噛み締めていた。
マユミはそんなふたりを励ますように、出来るだけ笑顔で話しかける。
「そんな顔しないでふたりとも。私はいつまでもタクヤ君とヒロシ君の大の仲良しのままでいるから!――だから元気出して、ね?」
笑いかけてはいるが、マユミもまた複雑な表情をしていた。
だけどふたりのためならと、勇気を振り絞ってみせる。
だが、ふたりはフッた本人であるマユミの励ましの言葉を聞いた途端、顔を上げて彼女を睨みつけると、思いの丈をぶつけるのだった。
「フザケンナ!このクソ女ッ!!何が『元気を出して』だァ!オメーのせいでハートブレイクしてンだぞ!?」
「そうだよ!フラれた女と仲良しのままでいられるワケないよ!!今日でみんなお終いに決まってるだろ!?」
「――えっ、そんな……」
今度はマユミがふたりの言葉にショックを受ける。
そして動揺している彼女をよそに、タクヤとヒロシがお互い手を取り合った。
「なあヒロシ。フラれた者同士、俺と付き合え」
「うん、僕もそう思っていたところさ」
夕暮れの公園で男がふたり、お互いの意思を確認し合い強く抱き合う。
ひとり取り残されたマユミは、あっけにとられながらその光景を直視していた。
「あれ?なんで?ふたりとも、さっきまで私のことが好きって告白してきたのに??」
――どうしてこうなった!?
しかも男同士で??
混乱するマユミに構うことなく、タクヤとヒロシはお互いのぬくもりを惜しみながら離れると、公園の遊具のない場所へと移動し始めた。
ワケも分からずマユミも、焦りながらふたりのあとを追うことにする。
ふたりは公園の真ん中までやって来きた。
そして両者とも突然、制服の上着を投げ捨てたのだ。
夕日が沈みかけて影が長く広がる。
すこし肌寒い一陣の風が吹き抜け、マユミのスカートがめくり上がった。
だが、男たちは互い真剣な眼差しで見つめ合い、マユミの下着に興味を示さない。
自治体の十七時を知らせる音楽とともに、両者が一斉に殴り合いのケンカをはじめた。
学校では空手部のタクヤ。
キレのあるパンチが炸裂する。
対して園芸部のヒロシはよけることだけで精一杯だ。
運動部と文化部、体格や力の差があっても、ヒロシは決して勝負を捨てない。
「ちょっと待って、ふたりとも!どうしていきなりケンカなんて始めるのよ!?」
展開についていけないマユミは、ふたりのケンカを止めようと近づいてくる。
しかしタクヤとヒロシは両手を掴み合いながら、マユミの方を向いて叫ぶのだ。
「女は黙ってろ!これは男と男の戦いだッ!!」
「そう、だよ……。僕らの雌雄を決する、大切なことなんだ!」
「タクヤ君、ヒロシ君――」
熱く燃え上がるふたりにマユミは言葉を失う。
『これは女の私では止められない、男同士のプライドの戦いなのね。たぶん……』
そう思うと、マユミの胸がキュンと絞めつけられた。
「ふたりとも、男の子なんだね」
マユミがそうほほ笑むと、男たちは『はあ?』と顔を歪ませてていうのだ。
「当たり前だろ?男だったら、突っこまれるより突っこみたいに決まってるだろ!?」
「僕らは受けと攻めのポジション争いをしてるんだよ!」
「へ?」
――何を言ってるんだろ、このふたり……。
マユミは会話の内容が理解できないらしく、頭の中がクエスチョンマークでいっぱいになる。
タクヤとヒロシは話し終えると、再び激しい攻防戦を繰り広げていた。
タクヤの大ぶりな右ストレートがヒロシの鼻をかすめる。
ヒロシは隙のできたタクヤの側面に周り込み、左フックでみぞおちを狙う。
しかし力の乗らないパンチは有効打にならず、逆にタクヤのカウンターの足払いを食らって地面に叩きつけられた。
倒れたヒロシは悔し涙を目尻にあふれさせ、闇に溶けつつある空を見上げる。
「――僕の負けだよ。ははっ、……やっぱりタクヤにはかなわないや」
「いや、ヒロシ。お前がここまで俺に食いついてくるとは正直思わなかった。見直したぞ」
にこやかな笑顔でヒロシに手を差し出すタクヤ。
タクヤの手をぎゅっと握り、ヒロシは服に付いた土を払いながら起き上がる。
何がなんだが分からないマユミはその場に座り込み、ふたりの姿をただ見ているだけしかできなかった。
タクヤとヒロシは今一度お互いに見つめ合い、夕日が沈み赤く光を放つ中で再び抱擁を交わしたのだった。