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婚約破棄された公爵令嬢は初恋を叶えたい!  作者: 橘 ゆず
第三章 悪人たちの狂騒曲
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58.それぞれの結末

高らかな宣言に、「なっ!?」と声をあげたのは当のエリックとシュワルツ大公だった。


 シュワルツ大公が立ち上がると国王の前に進み出た。


「何を仰せられます。王太子位はエルリック殿下に内定していたではありませんか! 陛下の直系である王子殿下がお二人もいらっしゃるのに傍系である当家のエリックが王太子となるなど前代未聞です!」



 シュトラウス二世は静かに首を振った。


「確かに此度のことでエルリックには何の咎もない。しかし、ザイフリート家があのような企てをしておったことを知りつつ、それに与する形であれを王太子につけるわけにはいかん。それに、だ」


 シュトラウス二世は、王妃の座から慎ましく一段下がった席で控えていたロザリー妃を見た。


 それを受けてロザリー妃が立ち上がった。


「エルリックは王太子の座につくことを望んではおりません。自分には荷が重い、とても務まらないとずっと気に病んでいるのです。そして、私もあの子を育てた母としてそう思います。あの子は聡明な優しい子ですが、国王という重責に耐えられる強さはありません」


「何を言う、ロザリー!」

 父親のマール辺境伯が声をあげたが、ロザリー妃は静かに首を振った。


「何度も申し上げたはずです、父上。その時は父上もザイフリート公爵も、私の言うことを聞いて下さらず、私も一度はあの子を王太子とすることに同意いたしました。けれどやはり、あの子を愛するがゆえに申します。

 あの子は、次代の国王となるのに相応しくありません。だからと言って、私はあの子が人に劣ると言っているわけではないのです。ただ、あの子の美徳は、国の頂点に立ち、国民の生活を守るのには向いていないものです。

 私は母として、この国の民の一人として、エルリックを王太子の重責から解放し、かわって、エリック公子殿下の立太子をという国王陛下のご意向に心から賛成いたします」


 ロザリー妃が穏やかな口調で、しかしきっぱりと言い放つとマール辺境伯は力なくうな垂れた。


「確かにそうかもしれん。殿下のことを真に思うのならそうするべきかもしれぬな……」


 最初は懸命に辞退を繰り返していたエリックだったが、シュトラウス二世に

「国のために頼む。不肖の息子の尻ぬぐいを押しつけるのは申し訳ないが」

 と涙ぐみながら頭を下げられて、とうとうそれを承諾した。



「身に余る光栄です。及ばずながら国と民とのため、生涯力を尽くすことを誓います」

 そう言って胸に手をあてて礼をするエリックを見ながら、シュトラウス二世は満足げに頷いた。


 

 母から王太子となる必要がなくなったことを知らされたエルリックはあからさまに安堵の表情を見せた。

 しかし、ザイフリート家の罪状を聞くと、常に穏やかな彼が珍しく取り乱し、父国王のもとへと駆けつけた。


「カタリーナは何も知らなかったのです。彼女は本当に善良で優しい女性です。どうか罪が彼女に及ぶことがないように陛下のご恩情を賜りたく存じます!」


 王座の前に跪き、必死にカタリーナの無罪を訴えるエルリックを見て、シュトラウス二世は驚いた。

 

(いつでも控え目で落ち着いているといえば聞こえは良いが、すべてにおいて無関心で、情熱などは持ち合わせていないように見えていたこの息子が、カタリーナ嬢のためにこれほど必死になるとは……)


 自分は何があってもカタリーナと離縁しない、彼女を罪に問うのなら自分も連座してその罪に連なるというエルリックを何とかなだめて帰らせてから、シュトラウス二世は重臣たちを呼び、今回の件の処遇について、幾度も話し合った。


 その結果、カタリーナは罪を問われることは免れたが、ザイフリート家が公爵家の資格を剥奪されたため公爵令嬢の身分の失うことになった。

 貴族の身分ではなくなったカタリーナとの婚姻の継続をエルリックは強く望み、彼女を失えば今後誰とも結婚しないと言い張った。


 それをロザリー妃から聞いたシュトラウス二世は、外見も性格もまるで似ていないがエルリックは確かにアドリアンの弟だな、と苦笑した。


 ザイフリート公爵とルーカスは身分を剥奪された上、王宮の東側にある貴族の罪人を収容する塔へと収容された。

 エリザベートも同じ塔へと入れられ、裁判を待つ身となった。


 マリエッタとセオドールは、王宮の北側にある身分の低い、しかし国家の転覆に関わる重要な罪を犯した罪人たちが入れられる牢獄に入れられ、厳しい尋問を受けることになった。

 

 ダリル一味もそこへ投獄されたが、あきらかにマリエッタとセオドールに騙されて悪事に加担したようだったので、すぐに平民たちの犯罪者の入る粗末な牢獄へと移され、そこで裁判の結果を待つことになった。


 騙されていたとはいえ、アドリアンに対する暴行、アマーリアの拉致という重罪を犯した彼らの罪は重く、恐らく死罪は免れないだろうと思われた。


 アドリアンは当分の間、療養という名目で王妃クラウスのもとへ預けられ、事実上の謹慎生活を送ることになった。

 彼の身分をどうするかについては、後日、決定が下されることになった。


 すべてが解決とはいかないが、世の中が新しい光にむかって動き始めた。


 クレヴィング公爵は、エリックの立太子の儀の前にラルフとアマーリアの結婚式を挙げることを決めた。


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