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お金


 計画通り融資の返事がもらえないまま、もう一週間が過ぎた。ヤンは、イルナスを連れてゼ・マン候の邸宅を訪問した。出迎えてくれたゼ・マン候の表情には、明らかな安堵の表情が含まれていた。


「いったい、どうされたんですかな、イルナス様?」

「その……私が無理を行ってお呼びしたんです」


 ヤンがバツの悪そうにつぶやく。もちろん、演技である。

 一方で、ゼ・マン候や、側近のド・ベスタの顔には勝ち誇ったような感じが覗える。


「ゼ・マン候。ヤンに話は聞いた。なんとか、資金を融通してもらえないだろうか?」

「……わかりました。イルナス様がそこまで言うのでしたら」


 ゼ・マン候は、膝を手でパーンと叩いて答える。考えた末の結論ぽい感じを演出しているが、明らかに結論は出ているので、出来レースのようなものなのだ。

 ヤンは嬉しくも悲しくもなかった。


「本当ですか! 本当にありがとうございます!」


 しかし、満面の笑み。お金を融通してもらえるのには、変わりがないので、ここは派手に喜んでおく。やはり、融通したものにとっては、喜ばれることが嬉しさにつながる。


 ヤンは側近のド・ベスタから資金を受け取って、ゼ・マン候の邸宅を後にした。馬に乗りながら、ヤンはイルナスの頭をなでる。


「イルナス様。お疲れ様でした」

「い、いや。僕は疲れてないけど……ヤンは疲れてそうだな」

「わかります? この、予定調和な感じは精神的に疲れるんですよ」


 まるで、公式行事をこなしているような感覚。やらなければいけないとはわかっているが、結果がほぼわかっているので、楽しくもないし、やる気もわかない。そんな感じだ。


「でも、資金も得たことですし、これでどんどん、ゼッキビ作れますよー」

「……僕も手伝う」

「……っ」


 健気な上目遣いに、ヤンは危うくキュン死しそうになった。

 可愛い。イルナス様、爆裂可愛い。


「帰ったら、もっとプニプニしなきゃですね!」

「なんでいきなり!?」

「イルナス様のせいです!」

「もっと、なんで!?」


 マジでわからない表情を浮かべるイルナスのほっぺを、ここぞとばかりにプニプニするヤンは、仕方ないと思った。イルナスが可愛いのがいけないんだ。絶対にそうだと決めつけて、もっとプニプニする。


「でも、これで計画も組み直せます。さすがに、資金面で不安がある中、購入の段取りは組めませんからね」


 ヤンは計画を脳内に浮かべて、修正を加えていく。もちろん、すぐに方向転換というわけではない。2ヶ月までは資金はもつので、実害も出ていない。


「実害が出始める前に、変更できてよかったです」

「……意外とまずかったのだな」

「正直、激まずでした。資金の面は、どうにもならないことが多いので」


 資金ぎれを起こすと、まずは信用面が崩れる。今は、快く従ってくれている農民たちも、商人のバルカスも、ヤンの運営を不審に思うはずだ。そして、一度失った信用を取り戻すのは容易ではない。


「お金でつながっている信用というのは、結構堅いです。互いに利が見えるので、得体の知れない仁義などよりも、手軽だし裏切りも少ない。正直、私はこちらの方が好みですね」

「そうか? なんだか、薄情な関係ではないか?」

「物足りなく感じるかもしれませんが、私にはちょうどいいのです」


 もちろん、イルナスには、本当に信頼できる臣下が必要だ。彼には、お金を超えた信頼関係を構築して、今後、さまざまな困難に当たっていかなくてはいけないから。


 しかし、ヤンには不要だ。必要なのは、気軽に利用できる手足。そこそこ信用できる商人や農民などがいれば、事足りる。強いて言えば、信用に足るのはバルカスだが、彼とのお金の信用はすでに事足りている。


「天空宮殿の人間関係なんて、そんなものですよ。血のつながりや、男女のつながりよりは、育める機会も少ないので、互いに利の図り合いです。逆に言えば、いくら性格的に合わぬ者でも、利が合えば組めるというものです」


 ヤンはそのように割り切っている。だからこそ、イルナスにとって、コシャ村での経験は凄くいいと思う。利とは無縁な生活をすることで、利を超えた関係を構築する。それは、『利』というものに縛られたヤンには決してできぬことだ。


 ヤンはイルナスの頭をなでながら、それを願った。






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