17 猛威、再来
燃え上がる第17話です。
バン!バン!!バゴォン!!
「何!?」
突然の爆音に全員が驚く。
最後の一発は一際大きい爆発だったのか、夕月達のいる建物すら揺れたようだった。
「ギルベルト、ここって6階よね?なのに揺れるってどれだけの爆発なのよ!?」
「団長!たった今、王都の3箇所で爆発があったとの報告がありました!」
部屋の扉が勢いよく開き、騎士団の制服を纏った青年が入ってくる。
ギルベルトは表情を険しくし、
「場所は?」
すると、青年は部屋の広い床に持ってきた地図を広げた。
「アートランド地区の貧民街で一発、パルファム地区の住宅地で一発。加えて西の王都関所門で一発です。王都関門の爆発が一番大きく、門が全て吹き飛ばされているとのこと」
青年はそれぞれガーラット地区の外側、トリマル地区の外側、最後に王都の西の端を指した。フェムセルは東西南北の関所を繋ぐように壁が建てられている。そうしないと、誰がどのような目的で王都に来たのか管理出来ないのだ。
「なんだと!?」
「ただいま原因解明のため近くを巡回している騎士を向かわせています。もうすぐ報告がある頃かと思われますが──」
青年が現状報告を終えようとしたその時、開きっぱなしだった扉から女性の騎士が入ってきた。
「ギルベルト!緊急事態よ!」
「どうした!?」
「爆発のあった各地点でヴァータ兵と思われる軍勢が大挙襲来しているとの報告があったわ!王都関所門からは指揮官と思われる人物率いる一団が、隊列を組んで待機しているとも!」
その報告を聞いていた月奈は驚愕する。
「なんですって!?西はともかく王都内からの二点同時襲撃!?」
それだけの大群が王都に入ったとしたら身分を隠し、小分けにされて関門を通ったとしても何かしら不審に思う者も出てきたはずだ。そうなると、考えたくは無いが市民の内部蜂起ということも有り得る。
女性騎士は月奈の方を向き、
「いま巡回中の全騎士団員、衛兵には市民の避難を急がせているけど──このままだと」
「うむ、この時世、攻め入ってくるのはヴァータぐらいのものだろう。こうしている間にもヴァータ兵が王都に広がっている、最悪の場合──このまま王都が陥落させられるかも知れん」
眉間に皺を寄せ、唸るギルベルトに夕月は抗議した。
「ええっ!?そんなのダメだよギルベルト!」
「しかしそれは我々だけだった場合の話だ」
「そうだよギルベルト──って、え?」
ギルベルトはふっと表情を緩めてそう言ったが、意図が分からない発言に夕月は困惑する。
「現在私達が直面しているのはヴァータ軍による陽動からの三点同時襲撃です。問題なのは、何故か王都内が始点の襲撃が2箇所あること。即座にここを潰さないと、内側から王都を崩壊させかねない。だけどそれの対処に追われている内に西から攻めてこないとも限らない……ということですね?ギルベルトさん」
いち早く意味を理解した悠依が、地図を示してそう切り出す。
「うむ、悠依は状況を見極める良い力が備わっているようだな。その通りだ。つまり──」
「つまり、ギルベルトが西を抑える間にこの二点を私たちに潰して欲しい、そういう意味か」
納得したように燐が言うと、ギルベルトは申し訳なさと不安が入り混じった面持ちで、
「初任務が実働隊とは申し訳ないが……頼めるか」
心配そうに言うギルベルトだったが、咲は笑って、
「アタシ達を誰だと思ってんだい!元からこういう時の為に作った騎士団なんだろ?」
威勢よく言い放った咲に夕月が同調する。
「そうだよギルベルト!私たちは特殊な技能を持ってるから誘われたんでしょ?なら心配ご無用、だよ!」
ギルベルトは少女達を見やるが、悠依や燐もやる気のようである。
そんな様子にギルベルトも心配は無粋と感じたのか、
「よし分かった!ハルマ!ケティ!」
と、近くで話し合いをしていた先程の青年と女性を呼ぶ。
「我々は王都関所門へ急ぐぞ!王都内の殲滅戦は彼女達に任せる!」
そう言ってギルベルトは2人を連れ部屋から出ていった。
パン!
「……さて!私達も急ぐわよ!」
ギルベルトが居なくなり、動きが停滞した所で月奈が手を叩き、皆の気を引き締めさせる。
「そうだな、急ごう」
燐が、床に広げられたままの地図を示しながら、
「アートランド地区とパルファム地区は対角線上だ、距離が遠い。王城壁があるおかげで、王城から5フィム圏内に入られるにはまだ時間があると思うが…油断ならないな」
うーんと唸り、月奈は顎に手を当て考える。
しかし距離もあって人手も限られている、ならば実力ある彼女らの出す答えは1つだった。
「手分けして相手取るのが──」
「最適解よね」
月奈は悠依の提案に言葉を繋げ、4人の顔ぶれを見る。
しかし、
(ここで私と咲の関係が問題になってくるなんて……)
咲の月奈に対する感情が頭を過り、月奈は一瞬停止してしまう。
その隙に、
「じゃあアタシと月奈でパルファムに行く。夕月、悠依、燐でアートランドを対処してもらっていいか」
「わかった!早く行こう、2人とも!」
「あ……」
と、月奈が言葉を失っている間に咲が手早く采配する。
あっという間に、咲と月奈を残して3人は行ってしまった。
「え?」
月奈が困惑して咲の方を見ると、咲は采配した時とは打って変わった険しい目付きで月奈を睨んでいた。
「ちょうどいい、あの時の手加減が間違いだったって、認めさせてやる」
「……」
月奈は静かにその言葉を受け止めるしかないのだった。
「団長、本当に良かったんですか」
「何だ?」
ティルポッド大通りの先、王城壁の門を抜けてその先に広がる外周地区を歩きながら、ハルマが聞いてきた。
「特殊騎士団の彼女達のことです。報告によれば1箇所だけで軽く500人はいるようですが」
「ふむ…その程度なら問題ないな」
すると、今度はケティが口を挟んでくる。
「その程度って……ギルベルト、彼女達のどこを見込んでるの?確かに見所はあるかもしれないけど…私には分かるわ、まだ全然連携が取れてない」
手厳しいことを言う。
確かに、彼女たちはまだまだ己の力を生かしきれていない節がある。
しかし──
「そうは言っても、あのグレイ殿の愛弟子に、我が友、美桜翁の認めた桜華拳師範代の咲。スナイパーライフルを携えた眼光鋭き燐に、類まれなる【才能】を持つ悠依だ。それに──」
それにあの少女だ。
我の耳がおかしくなっていないのであれば彼女は確かに『影詠』と名乗った。
予想が正しければ……我は彼女の養母とも言うべき師匠を知っている。
「葉月殿──これは貴女も知ってのことなのか…?」
「団長、そろそろです」
「うむ」
ハルマの言葉で視線の先に集中すると、崩れた壁が見えてきた。
10フィーアの高さはあるであろう滑らかな作りの壁が、見るも無残に瓦礫と化している。
そして王都関所門があったと思しき場所にはヴァータ兵の一団が横列に並び、その最前列の真ん中に、白い鎧を着た騎士がいた。
「総員、横隊列!!」
我の声で後ろに控えた騎士団員と衛兵が一斉に横列に並ぶ。
これでお互い睨み合う形となった。
「こっちは2箇所足しても足りないくらい多いかもね。それにギルベルト、あの真ん中の騎士だけど、もしかして……」
横に並んだケティが声を潜めて聞いてくる。
周りの色に全く染まらない純白の鎧。身長の2倍もある細長い円錐をした、主人と同じ色をした槍。忘れもしない。
「あぁ、なんということだ──彼の者が率いているとはな」
「団長はあの騎士をご存知なんですか?」
ハルマはあの時戦線にいなかったから知らないのであろう。
大陸戦争が始まり、ヴァータが周りの国に順序構わず攻め入った頃。
「大陸を縦横無尽に駆け回り、槍を携え国々に猛威を奮った純白の騎士。彼の者についた異名は──ヴァータの白き魔術師」
王都が、燃える。




