買い物
朝、まだ意識がはっきりとせず、瞼が重く離れてくれない。
まだ寝ていたい。
そんな、駄々をこねる子供のわがままみたいなことを思っていると、鼻の中に広がっている匂いに気が付いた。
とても大好きで落ち着く匂い。
そんな、匂いにつられて「ん。」と声を漏らし寝返りを打つ。
さっきまでとは反対の方向を向いたがその匂いはまだわたしの鼻腔を擽っている。
さらに、その匂いはさっきよりも強くなっていた。
その方向へと手を伸ばしそこにあるものを近くへと抱き寄せる。
そして、それはわたしにぴったりとくっついた。
それは郁が普段は使っている少し大きめな枕だった。
その郁の枕に顔をうずめてぎゅ~っと力いっぱい抱きしめるとその大好きなにおいはさらにわたしの鼻腔を刺激してその匂いに包まれているようなそんな感覚がした。
とても安心する・・・
ずっとこうしていたい・・・
そんなことを思いながらわたしはまた眠りについた。
◆ ◆ ◆
「・・・ん、ん?あぁ~」
聞いた人がみんな脱力してしまうようなとろんっとしたまだ眠気がたっぷりとふくまれた声を出し瑠華は目を覚ました。
まだ夢現のような状態だったが重い瞼の寝惚け眼を擦りほんの少しだけだが目が覚めて来た。
そして、だんだんと意識がはっきりとしてきて朝の微睡みからも目が覚めてきた。
完全に目が覚めた瑠華は体を起こすとあることに気がついた。
「・・・ベッドの上?」
・・・なんで?
おそらくここは郁の部屋のベッドの上だろう。
確か昨日は「1人になりたい」と言ったあと今後の事や麗衣の事を考えていた。
けれども、それはソファの上だったしここまで来た記憶が無い。
・・・どうやらそのまま寝てしまったみたいだ。
そして、郁にここまで運ばれたのだろう。
「・・・重くなかったかな?」
どうやって運ばれたのかは知らないがきっと重かったのではないだろうか。
瑠華も1人の女の子として重いと思われるのは嫌なのか少し体操着の裾をあげる
そして、そのままお腹のお肉を確認する。
「ん!!・・・掴める・・・。」
以前まではほとんど掴めなかったのに今は少し掴めてしまっている。
もしかしたら郁はわたしをここまで運ぶのに苦労したのではないだろうか・・・
そう思った途端に瑠華の顔がすぐに赤く染まってしまってしまった。
そして、そのまま仰向けに倒れた瑠華はすぐにそばにあった郁の枕へと手が伸び、真っ赤になってしまった顔を押し当てて悶えながら郁のベッドの上でゴロゴロと転がった。
・・・そんな瑠華が寝てる時に郁の枕に抱きついてクンクンしながら気持ち良く寝ていたのに気づいた時にもっと激しく悶えることになったのをこの時は知らない。
◆ ◆ ◆
朝から羞恥に顔を赤くしていたのが一段落したころ、瑠華は今が何時か気になった。
辺りを見てみるとベッドのすぐ近くに携帯が置いてあった。
携帯の電源を入れ時刻を確認する。
今日は土曜日で今は10時を少し過ぎたくらい。
けれども、リビングの方からはテレビなどの音が聞こえてこなかった。
・・・郁はまだ寝ているのかな?
ベッドから起きて遠慮がちにドアを開けるとリビングの電気などはついていなかった。
ゆっくりとソファに近づくとあんまり大きくないソファに少し足を曲げすぅすぅと寝息を立て、ヨダレを少し垂らしながら寝ている郁が居た。
目にかかるくらいの前髪からはまだ閉じきった目が見え、その表情からはとても気持ちよさそうに寝ているのが分かる。
「!!・・・かわいい。」
幼馴染みの久しぶり見るラフな姿に少し心がドキドキした。
寝癖がついているだらしない髪に誘われて瑠華の手が郁の頭へと伸びるが起こしたら嫌だなとぐっと我慢し瑠華はキッチンへと向かう。
冷蔵庫を開けると中には作り置きや食材と言えるものはなく本当に何もなかった。
・・・お腹空いたし買いに行くしかないかな?
郁に手料理を食べてもらいたいし昨日のお礼もしてないしちょうどいいかな?
郁に手料理を食べてもらう事なんてほとんどないからか瑠華はウキウキしてはやる気持ちを抑えながらキッチンから郁の部屋へと戻った。
流石に体操着のままでは外には出られないので制服に着替えた瑠華はお財布と携帯、後は郁の部屋の鍵を持ってマンションを出た。
気持ちのいいよく晴れた日にそよ風が優しく瑠華のサラサラとした髪をさらう。
道行く人が思わず興味を持って見てしまう程の楽しそうな雰囲気を隠そうともしない。
まるで、スキップでもしそうなくらい軽やかにスーパーへと瑠華は足を進めた。
普段、あんまり1人では来ないスーパーに少しドキドキしながら買い物カゴを手に中へ入る。
郁はどんな料理が好きなのかな?
卵料理?肉料理?魚料理?どれがいいのかな?
当たり前だが食べてもらうなら美味しいと言って欲しい。
じっくりと野菜コーナーやお肉コーナーなどを周り郁の好きな物や嫌いな物を思い出したり考えながら歩く。
ああでもないこうでもないと色々と悩んでいるとふっと懐かしい昔の記憶がよみがえって来た。
それはまだわたしが麗衣と出会う前の記憶。
お母さんに連れられ地元のスーパーに行った時、当時のわたしはあんまりお買い物が好きではなかった。
お母さんはよく立ち止まるしどんなにお願いしてもお菓子を買ってもくれない。
時にはわたしが迷子になって迷惑をかけてしまうこともあった。
けれども、お母さんは必ずわたしを買い物に連れて行った。
今日もまたお母さんは私を連れて買い物に来ていた。
何回も何回も立ち止まり色々と悩んでいる。
「なんでそんなに悩んでいるの?」
前々から疑問に思っていた事をわたしはお母さんに聞いてみた。
少し驚いたようなどこか嬉しいような顔をしたお母さんはわたしにある事を教えてくれた。
「大好きな人に美味しいって言って貰えるのは嬉しい事なのよ?
それこそどんなのがいいんだろう?って悩んでるこの時間もすごく大切だって思うくらいね。その事をわかって欲しくてあなたを連れてきてるのよ。」
そう言って穏やかに微笑んだお母さんはわたしの頭にそっと手を置き優しく撫でてくれた。
懐かしい昔の記憶・・・
その時は分からなかったけど、今ならあの時お母さんが言ってた事が少し分かるような気がする。
きっと今のわたしはあの時のお母さんのように微笑みながらこの悩んでる時間を大切だと思えているそんな気がした。




