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第5話

「あった! あったー!」


 木の上から声がしたと思うと、リスさんがすごい勢いで下りて来て、あっという間にアリスの肩に駆け上がると


「やった! やったー!」


 とアリスの肩の上でくるくる回ります。


 アリスが慌てて胸の前に手を出すと、やっとリスさんは手のひらに乗って、大きく膨らんだほっぺから大きなドングリを1個取り出しました。


「ほら見て! 1個だけ残ってた!」


 うれしそうに言ったリスさんからドングリを受け取って、アリスもうれしそうに言いました。


「ありがとう! これでお母さんの病気が治って、残りの夏休み一緒にいられるわ!」


 コマドリさんもヘビさんもアライグマさんもクマさんも、みんなで喜んでくれました。


 あとは雨が上がったら、目の前のドングリ池でお願いするだけです!


 しかし、なかなか雨はやみません。


「そうだ!」


 アリスは良いことを思いつきました。


「マドレーヌはまだたくさんあるわ! だから雨宿りしてる間に、みんなでおやつにしましょう!」


「賛成!マドレー何とか、待ってました!」


 一番にヘビさんが言いました。


 アリスがさっそく配ろうとすると、コマドリさんが


「あと何個なの? お母さんのぶんはあるの?」


 と、心配してくれました。


「あと6個あるわ。ちょうどみんな1個ずつね! お母さんには、また作るから大丈夫!」


「ダメよ!せっかくアリスがお母さんのために作ったんだから、1個は持って行かなきゃ♪」


 とコマドリが言うと、リスさんが


「ウチさっき食べたばかりだから、食べなくてもいいよ!」


 と言ってくれました。


 でもアリスは言いました。


「だめよ!おやつはみんなで食べるのが楽しいんだから、ガマンしないで」


「じゃああたしとリスさんで半分こにすればいいわ♪ そうしたらアリスのお母さんも1個たべられるわ♪」


「そうね! それがいいわ!リスさんも半分なら食べられるでしょう?」


 アリスが言うと、本当は食べたいけどちょっぴり我慢してたリスさんは


「うん!ウチはコマドリさんと半分こする!」


 と元気よく答えました。


「早く食べようぜ! オイラもう腹ペコだよ!」


 ヘビさんは待ちきれない様子で言います。


 アリスは赤いリュックの中にお母さんのぶんを1個残して、コマドリさんとリスさんは1個を半分こ、ヘビさんとアライグマさんとクマさんに1個ずつ配りました。


「それじゃあ食べましょう! いただきまーす!」


「おいしいわ♪」


「マドレー何とかうまいうまい!」


「おいしいな!」


「おいしいね!」


ほひひひ!ほひひひ!(おいしい!おいしい!)


「とってもおいしいわ! やっぱりみんなで食べると楽しいね!」


 アリスたちがワイワイ食べていると、いつの間にか雨の音は消え、太陽が顔をのぞかせてドングリ池の水面が虹色に光っているのに気付きました。


 アリスは木陰に出るとドングリ池の上に逆さ虹がかかっているではありませんか!


 近くで見る逆さ虹は、おばあさんの家や病院から見るよりも、とってもとっても大きくて、風が吹くたびにキラキラと虹色のシャワーがドングリ池に降り注いでいます。


 アリスはあまりの美しさに見とれてしまって、「キレイ」という言葉を口に出すのも忘れてしまったほどでした。


 コマドリさんが飛んできて肩にとまって


「逆さ虹って不思議でしょう? 見てて♪」


 コマドリさんはそう言うと、虹のほうへ歌いながら飛んでいきます。


 そしてなんと虹にとまって歌い始めたではありませんか!


「普通の虹にはとまれないわ♪ この虹だけなの♪ だからあたしこの虹が大好き♪ ここで歌うととても気持ちいいのよ♪」


 アリスはいつの間にかそばに来ていたみんなとしばらくの間、不思議できれいな逆さ虹と、コマドリの美しい歌に心を奪われていました。


「あっ! 願い事!」


 アリスは思い出しました! そうです、願い事をするためにここにやってきたのです。


 アリスはポケットからドングリを出すと池に投げました。


 すると池の水面がブクブクと泡立って、中から神様が現れました!


「あらイケメンだわ!」


 アリスが思わず言うと神様は


「やあ! ありがとうお嬢さん! 僕が神様になってから人間のお願いは初めてだよ! どんなお願いだい?」


「あのね神様! お母さんの病気を治してほしいの! どうかお願い!」


 しかし、アリスの願いごとを聞いて、神様はちょっと困った顔をして言いました。


「ごめんねお嬢さん、そのお願いはかなえてあげられないんだ」


「なんで?」


 アリスも困ってしまいました。


「僕は逆さ虹の森の神様、だからこの森のことじゃないとお願いをかなえてあげられないんだよ。」


 それを聞いたみんなが神様にお願いします。


「アリスはあたしを助けてくれたわ! とっても優しい子なの! お願いを聞いてあげて!」


「そうだぜ! アリスのマドレー何とかはとってもうまいんだ! お願い聞いてくれたら、神様も食べられるぜ!」


「そりゃないぜ神様! アリスは俺たちを仲直りさせてくれたんだ! お願いくらい聞いてやれよ!」


「神様お願いだよ! アリスは僕に勇気をくれたんだ! だから僕のためと思って、お願いかなえてあげて!」


「お願い神様! アリスはお母さんのために、がんばって森中を歩いてドングリを探してたのよ!」


 でも神様は言いました。


「アリス、みんなごめんな、僕だって助けてあげたいけど、これは僕にはどうすることもできない決まり事なんだ」


 アリスはみんなが自分やお母さんのために必死にお願いしてくれているのを見ているだけで、なんだか胸の中が温かくなってくるのを感じました。そして前に進み出て神様に言いました。


「わかったわ神様。困らせてごめんなさい。でも、みんなは私のためにここへ案内してくれたり、一緒にドングリを探してくれたの。だから、私の代わりにみんなのお願いを1つかなえてあげて!」


「それはだいじょうぶだよ。 やさしいアリス。森の仲間たちにやさしくしてくれてありがとう。願い事が決まったら呼んでおくれ。」


 そう言うと神様は池の中に消えていきました。


 アリスは振り返ってみんなに言いました。


「みんなありがとう! だいじょうぶよ! お母さんはお医者さんがきっと治してくれるわ! だからあのドングリのぶんの願い事は、みんなで話し合って決めて!」


 しかしその時、アリスは森の向こうの空が赤く染まりかけていることに気づきました!


 なんと、もう日が暮れかけています!


「たいへんだわ! もうすぐ日が沈んじゃう!」


 ヘビさんが言いました。


「だいじょうぶだ! あの道を行けば森の向こう側にでるぜ! お母さんの所まで、クマさんに乗せていってもらえ!」


 クマさんも言います。


「そうだよ! すぐに出発しよう! 僕の背中に乗って!」


「でもあたし歩いて病院に行ったことが無いの。 それにクマさんは森から出たら大騒ぎになっちゃうわ」


 するとそこへコマドリさんが


「あたしが良いこと思いついたわ! キツネさんなら人間に化けることが出来るから、病院までアリスを連れて行けるはずよ! あたし探してくる!」


 そういうとコマドリさんはキツネさんを探しに飛んでいってしました。


 残されたみんなはコマドリさんがキツネさんを連れてくるまでに願い事を何にするか相談を始めました。


「おれは何がいいかなあ?」


「僕は今はお願い事はないや! 昨日までは勇気が欲しかったけど、勇気は願い事じゃもらえないもん」


「じゃあオイラがマドレー何とかのなる木をお願いするぜ!」


「ウチは忘れっぽいのを治してもらいたいなあ!」


 みんなでワイワイ何にしようか相談です。


 そこへコマドリさんがキツネさんを連れて戻ってきました!


「アリス♪ 連れてきたわよ♪」


「やっぱりきみか! また会ったね! ビョーインに行くんだって? 僕と行けば大丈夫さ!」


 キツネさんはそう言うと、飛び上がってクルっと回ると森の入り口で会った男の子に化けました。


「どうだい? かんぺきだろ?」


 今度は帽子でちゃんとお耳をかくしています。


 アリスはみんなに向き直ってお礼を言います。


「今日はありがとう! 私ひとりじゃ、きっと途中で引き返しちゃってたわ! みんなのおかげよ!」


「アリス♪助けてくれてありがとう♪ またあたしの歌を聴いてね♪」


「アリス! またオイラにマドレー……マドレーヌ! 持ってきておくれよ!」


「アリス! おれたちもうケンカしないから、またいっしょに遊ぼうな!まってるぜ!」


「アリス! 森で困ったらぼくを呼んでね! アライグマさんと、いつでも助けに行くよ!」


「うん! 絶対に、またみんなに会いに来るわ! またね!」


 アリスはみんなにお別れをして、森の出口に向かいました。


 クマさんはお願い事が必要ないからと、アリスとキツネさんを乗せて、森の外れまで乗せていってくれました。


 森の外れにつくまでにアリスとクマさんとキツネさんは、今日あったことをたくさん話して、あっという間に仲良くなりました。


 森の外れでクマさんと別れたアリスとキツネさんは、夕暮れが迫る中、街の中を病院に向かいます。


 キツネさんはいつも人間に化けて街に遊びに行っていたので、踏切や横断歩道の安全な渡り方を教えてくれながらいっしょに歩きました。


「アリス! ついたよ! ここだよ!」


 病院の玄関まで送り届けてくれたキツネさんにアリスは言いました。


「ありがとう! たすかったわ! これお礼よ!」


 アリスがマドレーヌを差し出すと、キツネさんは首を振って


「最後の1個なんだろ? せっかくお母さんのために持って来たんだから、僕には受け取れないよ。それじゃあまたね!」


 そう言って帰ろうとしました。


「まってキツネさん!」


 アリスはキツネさんを呼び止めて言います。


「もらってほしいの! 私、森の入り口でキツネさんに会わなかったら、怖くなって、きっとおばあさんの家に引き返していたわ! ここまで来れたのはキツネさんのおかげよ! だからもらってほしいの!」


「いいの?」


「もちろんよ!」


「ホントのホントに?」


「とってもおいしいのよ! だから食べてほしいの! マドレーヌはまた焼けばいいもの!」


 アリスがそう言うと、キツネさんはやっとマドレーヌを受け取ってくれました。


 クンクンと匂いをかいで、うれしそうにキツネさんが


「ありがとう!」


 と言った時です


「アリス? アリスなの!」


 後ろから、大好きなお母さんの声がしました!


 アリスが振り返るとやっぱりお母さんです!


 お母さんはしゃがんで小さなアリスを抱きしめると言いました。


「みんな心配してたのよ! でも良かった! あの子が送ってくれたのね?」


 アリスが振り返るとキツネさんはもういませんでした。


「さっそくおばあさんに知らせなきゃ! おばあさんもとっても心配してたのよ!」


「ごめんなさい、マドレーヌがね、とてもうまく焼けたの! だからどうしてもお母さんに食べてほしくて……でも、ここに来る途中で全部なくなっちゃった」


「アリスが無事なら良いのよ! また焼いてくれる? お母さんマドレーヌ大好き!」


「うん! とても上手にできたのよ! 森のみんなもおいしいってほめてくれたわ!」


「まあ! 逆さ虹の森を通ってきたの? 雨は大丈夫だった?」


「うん! ドングリ池のそばにね! とっても大きなケヤキの木があったの! そこでみんなと雨宿りしたわ!」


「そうなのね! とにかく今日はもう暗くなるから、ここに泊まっていきなさい。おばあさんには私から話すわ」


「ほんと? 一緒にお泊りしていいの?」


「ええ! 良いわよ! お母さんにたくさんお話聞かせてね!」


「うん!」




 アリスはお母さんの病室で、おばあさんとマドレーヌを焼いたこと、森でのみんなとの大冒険をいっぱい、いっぱい話しました。


「……それでね! 神様にお願いしてたらね! いつの間にか、お空が赤くなってたの! でもみんなはお願い決まってないし、森の外に出たら危ないでしょ? そしたらコマドリさんがね!」


 そこまで言うとお母さんが


「キツネさんを呼んでくれたのね!」


 とキツネさんのことを当てました。


「なんでわかったの?」


 アリスが不思議そうに聞くと、お母さんは


「うふふふ! アリスを見つけた時に私、帰っていくあの子を見たのよ! うまく化けてたけど、ふわふわの大きなしっぽが隠せてなかったわ!」


 と言うと、また楽しそうに笑いました。


「まあ! うふふふふ!」


 アリスも思わず一緒に笑ってしまいました。





 笑いが収まると、お母さんはやさしく微笑みながらアリスの目をジッと見て言いました。


「アリス」


「なあに? おかあさん?」


「もう、みんなに黙って出かけたりしたらダメよ」


「ごめんなさい」


「みんなとっても心配したわ、アリスもおばあさんやお母さんやお父さんが、黙っていなくなったら心配になるでしょう?」


「うん、心配」


「だから、もうしないって約束できる?」


「できる!」


「よし! 約束ね! みんなあなたが大好きなのよ」


「わたしも好き!」


「じゃあそろそろ一緒に寝よっか?」


「うん! 寝る!」


 アリスは元気よくお返事しました。


 今夜は大好きなお母さんと一緒です!


 アリスはあっという間に眠ってしまいました。





 

 無事にお母さんと会えて良かったですね

 マドレーヌは残り0個

 でもまた焼けばいいのです

 

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