第4話
アリスたちは森の中で、まだドングリが落ちてないか探して歩きました。
ブナやクヌギ、コナラにアカガシの木、ドングリがなる木はたくさん森にあるのに、肝心のドングリが1つも見つかりません。
とうとうみんな疲れて座り込んでしまいました。
「ちからになれなくてごめんね。秋になればドングリなんて、おなかいっぱいになるほど落ちてるのになあ」
クマさんがアリスに申し訳なさそうに言いました。
アリスは答えました。
「仕方ないわ、だって今は夏だもん。今日はドングリ池をあきらめてお母さんの病院に行くわ! みんな一緒に探してくれてありがとう」
と、言った時でした! 小さな影がアリスの後ろの木から下りて来て、地面に置いていた赤いリュックの中からマドレーヌを1つ持っていこうとするのを、ヘビさんが見つけました!
「あっ! オイラのマドレなんとか!」
その声にみんなが一斉にリュックのほうを見ると、リュックの陰からマドレーヌを1個丸ごとほおばったリスが顔を出しました。
「うぉーふひほだほんへ! はえはふぁひほ!」
リスは木の中ほどの巣穴の入口まであっという間に登ると、こっちに振り返ってそう言いました。
それを見ていたアリスはひらめきました!
(リスさんならドングリを持ってるかもしれない!)
すぐにリスさんに呼びかけます。
「まってリスさん! ドングリを持ってない? わたしたちドングリを探してるの!」
リスさんは、ちょっとだけ考えるような顔をしたあと、何も言わずに巣穴に入ってしまいました。
アライグマさんが、またシマシマしっぽを振りながら怒ります。
「なんて奴だ! 盗むだけ盗んで返事もせずに逃げやがって!俺がこらしめてやる!」
そう言って木に登ろうとした時です! リスさんがひょっこりと巣穴から顔を出して言いました。
「ごめんごめん、口の中いっぱいでお返事できなくて。あなたドングリを探してるの?」
「そうなの! ドングリ池でお願いをするのにどうしても必要なの!」
アリスのお願いにリスは答えました。
「ドングリあげたら甘くてふわふわのことでウチを怒らない? とっても甘い匂いがしてガマンできなかったの」
「甘くてふわふわ? マドレーヌのこと? 怒らないわ!リスさん! 約束するわ! お母さんが病気なの!」
リスさんはしばらくみんなを見渡したあと、ゆっくり木から下りて来て、スルスルとアリスの手のひらに登ってから言いました。
「この時期はもうドングリほとんど食べちゃってるけど、ウチ忘れっぽいから、もしかしたらまだどこかの秘密の隠し場所に置いてたのが残ってるかも?ちょっと探してきてもいい?」
リスたちが冬を乗り切るため、秋のあいだにがんばっていろんなところに食べ物を蓄えておく事を、アリスはお母さんに聞いて知ってました。
もしかしたらドングリが見つかるかもしれない! お母さんの病気が治せるかもしれない!
「いいわ! お願い!」
アリスは大きな声で言いました。
リスさんはそれを聞くと、すぐにくるりとアリスに背を向け、すごい早さでピョンピョンと木から木へ飛び移りながら消えていきました。
アリスたちはリスさんが帰って来るのをクヌギの木陰で待っていましたが、リスさんは、なかなか帰ってきません。
でもいつの間にか涼しい風が吹いてきて、さっきまでドングリを探して歩きまわって疲れたアリスたちを、優しくなでてから森の奥へ消えていきます。
クマさんが言いました。
「ヘビさん、ドングリ池はここからどのくらい?」
「ここからだとすぐだぜ! あっちに見えるあの大きなケヤキの木のそばだ!」
ヘビさんがそう言って振り返ったほうを見ると、ひときわ大きな木が周りの木々の上に頭を出しているのが見えます。
ヘビさんは続けて言います。
「それにしても遅いなリスさん。早くドングリ池に行ってマドレなんとか食べたいのに」
「うふふ! マドレーヌよヘビさん!」
アリスは食いしん坊のヘビさんがだんだんマドレーヌを覚えてきてくれているのが可笑しくなりました。
あともうちょっとです。
でもなかなかリスさんが戻ってこないので、アリスはだんだん心配になってきました。
アリスの心配そうな顔を見たコマドリさんはアリスに言いました。
「そうだわ♪ ドングリ池が無いところでは、みんな流れ星にお願いをするんでしょ? あたしカラスさんに聞いたことあるの♪ カラスさんたちは街によく行くから、人間のことに詳しいのよ♪」
「それに、今夜は100年に一度の流れ星がたくさん降る日だっていうのも聞いたわ♪ きっとすごくきれいよ♪ あたしお星さまの下で歌うの大好き♪」
アリスはちょっと困った顔で答えます。
「そうよ。流れ星が見えたら、消えちゃう前に3回願いごとを唱えるの。私何度もやろうとしたけど、流れ星はすぐ消えちゃって3回どころか1回も無理だったわ。それに夜は眠くってなかなか起きてられないの」
アリスをなんとかはげまそうと、コマドリさんは言います。
「そうなのね……でももしドングリが無くて、アリスが今度流れ星にお願いするときは、あたしが夜に飛んでいってお部屋の窓を突っついて起こしてあげるわ♪ それに、きっとリスさんがドングリ見つけてきてくれるわよ♪」
クマさんが
「そうだよ! きっとドングリあるよ!」
アライグマさんが
「大丈夫だ! きっとあるぜ!」
ヘビさんが
「きっとあるさ!」
みんなが口々にアリスをはげましてくれます。
「コマドリさんありがとう、みんなもありがとう!」
アリスは少し元気になりました。
「それにしてもここは涼しい風が吹いて気持ちいいな……涼しい風?……冷たい風! 急に吹く冷たい風!」
アライグマさんは立ち上がり、険しい顔になって空を見渡します。
「まずいぞっ!」
アライグマさんの声にみんなも空を見上げると、いつの間にか大きな入道雲が近くまで来ています。
クマさんが言いました。
「これはもうすぐ夕立がやってくるよ! ここじゃ濡れちゃう! どこかに雨宿りしないと! だれかいい場所知らない?」
これにはアリスも困ってしまいました。
「でもどうしよう? リスさんがまだ戻ってないわ」
アリスたちがここを離れてしまうと、リスさんがドングリを見つけてきても受け取ることが出来ません。
その時です! 森の向こうから木の枝を飛び移りながらリスさんが帰って来るのが見えました!
雨宿りの場所を相談してるみんなから離れて、アリスは急いでリスさんに駆け寄って尋ねます!
「リスさん! どうだった? ドングリあった?」
「ごめん……ウチ思い出せる限りの秘密の場所探したんだけど……ごめんねアリス……ホントにごめんね」
リスさんは申し訳なさそうに何度もアリスに謝りました。
そんなリスさんの顔を見て、アリスはにっこりほほえんで言いました。
「ううん! 大丈夫よ! 一生懸命探してくれてありがとうリスさん。それよりもうすぐ夕立が来るみたいだから、濡れないうちに早くおうちに帰ったほうが良いわ!」
「ホントにごめんね……甘くてふわふわもウチもう取ったりしない」
「気にしないで! でも次は欲しいときには、ちゃんとちょうだいっていうのよ! お菓子はみんなで食べたほうがおいしいわ!」
「うん! わかった! ウチ今度はちゃんと言う!」
そう言うとペコッと頭を下げてリスさんは木の上の自分の巣穴に帰っていきました。
そこへアライグマさんが声をかけました。
「おい! アリス! 夕立が来ないうちに急いでヘビさんが思いついた場所に行って雨宿りだ! おい! ヘビさん! どこが一番良さそうなんだっけ?」
「さっき言ってた、あの大きなケヤキだよ! ドングリ池のそばだ! 急ごう! もう暗くなってきたぞ!」
「みんな僕の背中に乗って!しっかりつかまってて!」
アリスたちはクマさんの大きな背中に乗って、ケヤキの木へ急ぎます!
クマさんは茂みをすごい勢いでかき分けながら森の中を進んでいきました。
アリスはクマさんの背中が、さっき川を渡った時よりも頼もしく感じました。
(アライグマさんの言ってたようにがんばって川を渡ったことで勇気がついてきたんだわ)
アリスがそう思っている間もクマさんはどんどん進んで大きなケヤキの木がだんだん近づいてきます。
するとその時、木の上からリスさんの声がしました。
「アリス!アリス! ドングリ池のケヤキの木に行くのよね?」
クマさんの背中の上からアリスが見上げると、リスさんが木から木へ飛ぶように走りながらアリスたちを追いかけてきていました。
「そうよ!どうしたのリスさん?」
「ウチ思い出したの! あの大きなケヤキにもウチはドングリかくした! さっきは忘れてたの! もしかしたらまだあるかもしれない!」
「じゃあ一緒に行きましょう! こっちに飛んで!」
アリスが言うとリスさんはピョーン! とアリスの麦わら帽子に飛び乗りました。
同時に、クマさんが茂みをかき分けるガサガサという音に負けないように、ヘビさんが大声で言います。
「もうすぐだぜ! たのむぜクマさん!」
空はさっきよりも暗くなって今にも雨が降ってきそうです!
アリスを雨にぬらせてはいけないとクマさんはがんばって進みます!
ついにアリスたちを乗せたクマさんは、深い茂みを抜けてドングリ池のほとりに出ました!
目の前には今まで見たこともないような大きな大きなケヤキの木が現れました。
立派な枝に青々とした葉がたくさん茂ったあのケヤキの木陰なら、雨にぬれずにすみそうです。
そしてクマさんがハアハアと息を切らしながらケヤキの木陰に滑り込むと同時に、真っ黒になった空からザァーザァーと雨が降り始めました。
「間に合ったー! ありがとうクマさん!」
「頼りになるようになったな!」
「ありがとう♪ あたしもみんなを乗せて飛べればいいのに♪」
「ウチこんなに長く走れない!」
「オイラ楽ちんだったな! また頼むぜ!」
みんな口々にクマさんにお礼を言いました。
クマさんは、みんなの役に立ててとってもうれしくなりました。
激しい夕立が降っているのに、たくさんの葉っぱのおかげでみんなは全然ぬれません。
「あ! そうだ! ドングリ!」
リスさんはそう言うとあっという間に木の上に消えていきました。
はたしてドングリは見つかるでしょうか?
リスさんが仲間に加わりましたね
マドレーヌはあと何個になったでしょう?