第2話
「ここね! お母さんの言ってた通りだわ!」
森の小道の入り口には、大きな大きな、とっても大きな銀杏の木があったのですぐに見つかりました。
大きな銀杏の涼しい木陰に入り、麦わら帽子を脱いで少し休憩しながら森の小道の奥を覗いていると、アリスは急に不安になってきました。
「1人で入って大丈夫かしら?本当に森の向こうに行けるの?」
その時です。
小道の向こうから男の子が歩いてくるのが見えました。
こっちまでやってきた男の子にアリスは話しかけます。
「こんにちは! 森の向こうから来たの?」
男の子はにっこり笑ってこう言いました。
「そうだよ! 僕向こうから来たんだ! 君は向こうに行くの?」
「わたし森の向こうの病院に行きたいの」
「ビョーイン?」
「大きな白い建物よ」
「それなら森を抜けてすぐ見えるよ! 行ったことはないけど」
「やっぱり行けるのね! 教えてくれてありがとうキツネさん!」
アリスがそう言うと男の子はビックリした顔をして空中に飛びあがりクルっと1回転するとキツネの姿に戻りました。
「どうしてばれたの?」
「ウフフ あなたの三角の黒いお耳、おばあさんのお庭で見たことあるもの」
キツネさんは、うまく男の子に化けたつもりが、お耳をしまい忘れていたのでした。
キツネさんはバツの悪そうな顔をして
「ばれちゃった! でもビョーインの話はホントだよ!」
そう言って茂みの中に走り去ってしまいました。
「まって! お礼にマドレーヌあげるわ!」
「いっちゃった……でもありがとうキツネさん」
アリスはキツネさんの消えていった方へお礼を言いながら、麦わら帽子をかぶり直して小道を進みました。
暑かった外と違って森の中は涼しい風が吹いていて、木漏れ日がキラキラと道を照らしています。
しばらく歩くとコマドリの鳴く声も聞こえてきました。
でもなんだかちょっと様子が違います。
いつも聴いている歌声ではなくて、助けを求めている声なのです。
アリスは胸騒ぎがして、声の聞こえる方に急ぎました。
すると小道の脇の茂みの所で
「助けて! 誰か助けて!」
とはっきり声がします。
「どうしたの?」
アリスは姿の見えない声の主に語りかけました。
すると茂みの中から一羽のコマドリがアリスの前に飛び出してきました。
「助けておじょうさん! あたしの子供たちが食べられちゃう! こっちよ! お願い助けて!」
コマドリの後をついていくと大きなヘビが巣の中の卵を食べようとしていました。
「だめよヘビさん! そんなことしちゃ!」
アリスはヘビに向かって言いました。
ヘビはこっちを向くと
「だってオイラ腹ペコなんだ。何か食べないと死んじゃうよ!」
アリスはヘビに言いました。
「ヘビさんヘビさん! 私のお菓子をあげるわ。とってもおいしいのよ」
ヘビさんは卵を食べるのをやめてくれました。
「ありがとうヘビさん。これよ! マドレーヌっていうの。とってもおいしいんだから」
アリスはリュックの中からマドレーヌを1個取り出すとヘビさんにあげました。
「どれどれ……んあぁ」
ヘビさんは、あっという間にマドレーヌを飲み込みます。
するとコマドリがアリスの肩にとまって歌うような美しい声で言いました。
「ありがとうおじょうさん♪助かったわ♪」
「私の名前はアリスよ。いつもコマドリさんの歌声聴いてるわ! 間に合ってよかった!」
「アリスね♪ アリスはドングリ池に行く途中だったの?」
「ドングリ池?」
「ドングリ池にお願いごとに行くんじゃないの?」
「お願い事?」
「そうよ♪ドングリを池に投げ入れてお願い事をすれば叶うのよ♪」
「病気も治るの?」
「たいへん! あなた病気なの? お外を歩いて大丈夫?」
「私じゃないわ、お母さんが病気なの」
「森のみんなは体の具合が悪いとどんぐり池に行くのよ♪ きっとアリスのお母さんも治してもらえるわ♪」
「どこにあるの? 私そこに行きたい!」
そこへヘビさんがアリスに話しかけてきました。
「このマドなんとかっておいしいな! どんぐり池に行くなら、この先の橋を渡っていくのが一番近道だぜ。マドなんとかのお礼にオイラが案内するよ」
「マドレーヌよ。連れて行ってくれたら、お礼にもう1個あげるわ!」
「本当かい? じゃあ断られてもオイラが絶対連れて行くよ!」
ヘビさんは目を輝かせて言いました。
続いてコマドリさんが
「あたしはアリスが寂しくないように、近くでずっと歌いながらついていくわ♪」
と言ってくれました。
「ありがとう! ヘビさんコマドリさん! よろしくね!」
仲間の増えたアリスは、ちょっぴりウキウキしながら、ヘビさんを先頭に森の中を歩きだしました。
マドレーヌはあと9個
まだまだたくさんあります