9 実戦と死の可能性
だいたい、俺はそんなに読書好きじゃないのだ。
読書っていうか、読めるのはライトノベルと漫画だけ。
硬派な文章は見ているだけでめまいがしてくるぐらい、苦手なものなのに。
ああ、どうして実践の授業がないのか。
早く魔法を放ってみたい。それがダメなら剣術の練習でもいいから外に出たい!
そう伝えると、リーンは非常に困った顔になった。
「アキラさま。そのことなのですが、その……知力300を超えるまでは、あなたをこの部屋から出すことはできないのです」
「なんで!?」
「落ち着いて聞いてください! 賢者さまにも聞いたでしょう。魔術師になれるのは異世界の人間だけだと。この国の民には魔術師を目指す資格もないのです」
「……けんじゃさま?」
「あっ、いえ、なんでもないです! と、とにかく! 現状、魔王討伐の旅に魔術師として同行できるのは、アキラさまだけなのです。だから、アキラさまが魔術師として一人で生きていけるようになるまで、この安全な部屋から出すわけにはいかないのです」
外に出れば、モンスターに襲われて死んでしまうかもしれないから。
そう続けた彼女に、俺はぼんやり突っ立てることしかできなかった。
そうだ、ここは異世界。
魔王がいるということは、魔王を慕う者や魔王に従う者がいるということ。
死ぬかもしれない。
その可能性を突き付けられて、俺はしばし考えることもできなくなった。
こわい。死にたくない。
そんな風に怯えて目の前が暗くなっていく俺。
それを引き留めたのも、リーンのたくましい腕の力だった。
このときほど、彼女の力強さを頼りに思ったことはない。
「アキラさま。大丈夫です。知力300まで育て上げれば、たいていの敵はボコせます。魔王に通用しないかもしれないなら、もっと鍛えればいいんです。いいですか。ステータスは、あなた本来の運動神経や能力には依存していません。知力は味方なのです!」
「ちりょくは、みかた?」
「ええ。わが国には伝説があります。知力1000を超えた魔女が国を守ったという逸話です。彼女は文字を覚え、本を読み、食事をし、魔法を放ち続けて、鍛えに鍛えました。そしてその高く上り詰めた知力で、迫りくる魔王を消し炭にしたと言われています」
「……消し炭って」
「ま、まあ伝説レベルの話ですから、少しは誇張が入ってるかもしれませんね。四桁の知力数値なんて見たことないし……」
最後はつぶやくように小声になる。
俺は、リーンから離れて、自分の足で立つ。できた。
「アキラさま?」
「俺、やるよ。この本たちを読む」
「アキラさま! わたしも可能な限りお手伝いしますので、二人で頑張りましょう」
その言葉がなにより嬉しかったなんて、彼女は知らないだろう。
俺は一冊目の本を手に取って、リーンのほうを見る。
期待と喜びの混じった瞳。
この瞳を、驚きでいっぱいにしてやる気持ちで、俺は本を読み始めた。