6 インテリジェンス・アメ
それから、俺とリーンは朝から晩まで、この部屋で文字を覚えるための学習を続けた。
横線が三本入っているときは“。”の意味。
縦線が入っているときは、文字の区切り。
そして、この文字が発声のどれに対応しているか。
ひらがなと同じ音節文字で助かった。あとはこれを覚えるだけなのだが。
これがなかなか難しかった。
日本語のようにあいうえお順になっていないし。
点字やアルファベットみたいに、あ行やえ行の文字に共通点があるわけでもなし。
それ一つ一つを覚えなければいけない、というのは大学生の俺には結構厳しかったのだ。
リーンさんは、ほんとうによく付き合ってくれたと思う。
最初は一文字覚えるのが精いっぱいだった俺を励まし、ときには叱り。
うまくいった時はアメをくれた。
そうそう、そのアメなのだが……これがまた知力に関わる話となる。
「お疲れ様でした。アメを一つどうぞ」
「アメって……あ、美味しい」
「マジカルタブレットですよ。食べると知力が+1されるんです」
「じゃあ、これをもりもり食べれば済む話なんじゃ……」
「ダメです! これ結構高いんですから。それに、実践の伴わない知力の上げ下げは推奨されてないんですよ」
「本読むことは実践的なの?」
「……と、とにかく! いろいろな経験を積むことが、魔術師としての成功にもつながるのです! タブレットに頼った育成法は法律でも禁止されていますし」
法律ってあるんだーと俺が無感動に感心していると、リーンさんは俺の顔を覗き込んできて念を押した。
絶対ダメですからね! と迫る彼女の顔は可愛い。
恋人とかいるのかな。そんなことが頭によぎる。
そんなことばかり考えていたせいか、リーンさんがアメを隠した場所は分からずじまいだった。
ちなみにアメは塩味でした。スポーツしたあととかに舐めたいね。