54 旅の始まり
先に下まで降り立ったランディが何か叫んでいる。
だが、風の音しか聞こえない。
「アキラはおれが担ごう」
「すまん。ここの足取りは……オレでも少し危なそうだ」
フェイトも下に行ったらしい。姿が見えない。
セシルがランディよりもゆっくりの速度で、滝を降りていく。
それを見守っていたエルリックが、俺の背中をむんずと掴んだ。
俺はあわてる暇もなく、空中へと飛び出し――。
ぶわん。ざーざー。びっしゃあ。どん。
最後の衝撃で、地面に降りたのだと思う。
思う、というのは、俺はすっかり目を回していて気を失っていたからだ。
ランディの声がおぼろげに聞こえる。
「おまえ、最後の石、一個飛ばしただろ!」
「……でも、大丈夫だった」
「アキラが大丈夫じゃねーよ!」
「確かに。忘れていた」
「わ、忘れてたのかよ……」
「だいたい、危険な道を選んだのはおまえだろう?」
「ぐっ、それを言われると弱いぜ」
この声はええっと……。
はっ!?
「ランディ、アキラが起きたみたい」
「まったく。二人とも無茶させ過ぎだぜ」
「ええっと俺……なんかひんやりするような」
「ああ、容赦なく水のなか通ってきたから、あいつ」
エルリックの金髪が水にぬれて、水滴が輝いている。
俺は、ぬれねずみと言ったところかな!
イケメンは違うね、さすがだね!
俺は、さっそく濡れてしまった服をどうしようかと迷っていた。
すると、フェイトが寄ってきて。
「キミならこの魔法、使えるはずだよ」
「クリーンクロース……?」
フェイトから渡された紙が、ぱっと明るくなる。
浮き出た模様は。これ、もしかして魔法陣?
呟いただけで、発動する気はなかった。
しかし、クリーンクロースは発動し、俺の服はパリパリに乾いた。
すげえ。洗濯魔法……いや乾燥魔法か!?
感動する俺を置いて、フェイトは紙をしまう。
「じゃあ、街道に出るぞ」
「地味にここ街道じゃなくて休憩スペースなんだよねー」
俺は砂利道から、街道のレンガ道に足を一歩踏み入れた。
ええっと王城があっちにあるから、こっちかな?
「あ、そっちじゃない。逆、逆」
「え?」
行く先々から不安な始まり方である。
だけど、ようやく。
俺は、旅に出た。




