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 俺が戦々恐々としているとは露知らず、リーンは部屋の左側にあった棚から、本を二冊取り出す。

 リーンから本を手渡された俺は、ぺらぺらとページをめくってみた。

 深刻な問題に気が付いた。


「これからアキラさまにはこの部屋の本を――」

「リーンさん。俺、この国の文字読めない」

「……どれぐらいですか」


 リーンが声を絞り出す。

 どれくらい、って言われても……ていうか、どれくらいって何!?

 困惑しながら、俺は一つの答えを見つけた。

 あるじゃないか。さっき、絶好の体験をしただろう?


「さっき、王さまが見せてくれた自分の名前も読めなかったよ」

「……そうでしたか。で、でもこれはチャンスです! 文字を覚えるというのは非常に文化的な行為。この問題をクリアしてエムロード語をマスターすれば、知力∔50を得ることできるのです」

「知力……王さまも言ってた、魔法の威力を決めるとかなんとかっていう?」

「はい。正確には、魔法の威力を決める架空の数値ですね。アキラさまの現在の知力は50。これにエムロード語の取得を加えれば、値100です。目標の三分の一が済んでしまうんですよ」


 え、俺、知力50しかないの?

 っていうか、一般人の知力がどのくらいなのか分からないとアレだな。

 でも、魔法の力にしか関与しないって言ってたし、いわゆる学力っていうか、頭の良さとは関係ない感じ?


「ちなみに一般の方の知力は35ぐらいですから、アキラさまはかなり素質がありますね。異なる世界の人間だからでしょうか?」

「あ、意外とあるほうなんだ、これ」


 納得した俺を満足そうに見つめたリーンは、一度席を外します、と言って扉から出ていく。

 部屋にはぽつんと俺一人が残された。


 念のためドアノブをひねってみる。あ、普通に開いた。

 カギをかけられ監禁されているかもしれないと思ったのだが、杞憂だったらしい。

 ここはそんな性悪な人はいないのかもしれない。良かった。


 推測に安堵して、360度とり囲む本棚の一つに手を伸ばす。

 手に取ったのは、なるべく薄い本……厚みが薄い本だ。

 やらしい意味での薄い本ではない。というか、そういう類のは置いてなさそう。


「やっぱり、全然わかんねえ」


 俺は頭をかく。

 やはり、絵本のような挿絵の多い本であっても文章はある。

 それがどこで区切れるのかまったく分からない。

 うつくしい文様が延々と続いているようにしか見えないのだ。


 ガチャ。


 扉の開閉音にびくりと身体が跳ね上がった。

 いや、別段悪いことをしていた訳でもないのだが、絵本を背中に隠す。

 入ってきたのは当然のことながら、リーンだった。

 彼女も手に、厚みのない本を持っていた。

 現代で言うところの五十音表だろうか。


「さあ、アキラさま。勉強の時間ですよ」


 微笑むリーンの表情が、何故か怖かった。


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