4 魔王討伐カリキュラム
リーンの足が止まったのは、しばらく歩いて、建物の雰囲気が変わったあたりだった。
神聖な空気を感じる白と金の装飾から、明るい赤とオレンジの装飾に。
柱の風情もずいぶん違う。ずっと太くなって、細やかなデザインが施されている。
なんだか、高そうだな。そんな感想しか出てこない。
「こちらです」
「あ、はい」
扉のほうを指さすリーンに従って、俺はその少し小さい扉を潜り抜ける。
中はかなり広かった。丸い、ドーム型の天窓が綺麗だ。
ぼんやり空を眺める俺は、気付くはずもなかった。
またもや、リーンの剛腕で退かされた俺は、部屋の隅っこで小さくなる。
リーンは後ろ手で扉を閉めた。
「これでようやくお話しできます……す?」
「いいんです、へこんでる俺のことなんて放っておいてください」
「そんな訳にはいきません」
毅然と言い返す彼女のなんと眩しいことか。俺は目をしばたかせた。
なにかまずい対応をしたかしら、と独りごちるリーン。
俺は立ち上がって、彼女に言った。
「へ、変な対応をしたのは俺のほうです。あの、すいませんでした」
こういう時は、素直に謝るのが筋。
長年の経験を活かして、俺はリーンに頭を下げた。
彼女はというと、あっけに取られていた。
手を口元に持っていったまま、動かない。
沈黙が、また深く降りつつあった。冷や汗がにじみ出る。
「わ、分かりました。その謝罪、受け取ることにします」
意外なことに、リーンはそう言って、そのことについてつつくことはしなかった。
非常にありがたいことである。俺はほっと息をついた。
リーンは視線を尖らせて、俺を指さす。
「ただ、これっきりですよ。あなたがわたしに対して、謝罪をしたなんて明らかになったらたいへんなことになります。それから、わたしへの敬語も禁止です」
「えっなんで」
「あなたは、これからですが――魔王討伐のための魔術師になっていただきます。いわば、国を救う英雄です。そんな方が、一介の侍女であるわたしにへりくだったり謙遜したりすることは、あってはならないことです。わたし以外のすべての人にもそう接してください」
「王さまにも?」
「ええっと……まあ、そうです。今度会ったときは……ええ、今度会うときはそうしてください。あなたは、王にも成せないことをこれから実現するのですから」
「魔王、討伐……」
「その通りです! では、それを成すためのカリキュラムを始めましょう」
か、カリキュラム? 大学進学のときに聞いたような単語が飛び出してきたぞ。