39 リーンの気持ち
ああ、目の前が霞んでみえるよ。
けっして泣いてる訳じゃないぞ。
いや、ウソ。泣いてる。
「マールさまに言われたことが気になっているのですか?」
「いや、ほら、俺って普通の男子大学生だしさ。なんか、あれだよね。華々しいエピソードがないって言うか」
「何を言っているのですか、わが国では、異なる世界からやってきたアキラさまは、既に英雄なのですよ! それに、いくら派手な背景があっても、目的を果たせなければなんにもなりません。アキラさまと他のメンバーは対等な関係なのです」
「……うん。俺、いつもこうやってリーンに元気付けられて……すごくありがたいけど。うっとうしくない?」
俺、本人に聞いてどうするんだよ。
そんなの、どんな人でも「そんなことないよ」って言うに決まってんじゃん。
俺が自己嫌悪でうつむいていると、リーンは何も言わずに俺の背中に寄りかかる。
あったかい。人肌のぬくもりにどこか安心する俺がいる。
「わたし、リーンは、この件に関してなにも言いません」
「ごめん……いや。その、ありが――」
「わたしは、アキラさまとこうして話せる時間が気に入っています」
「うん。うん?」
「いつか――本当にいつか分からない話ですが。アキラさまとも対等な関係になりたい。それがわたしの願いです」
リーンが離れていく。
見えないけれど、分かる。
背中のぬくもりがゆっくり冷えていく。
「アキラさま。明日は降臨式です。朝になったらリーン家の用意した装備品一式を持って、いつものように朝食を届けに来ますから」
「う、うん」
「わたしは降臨式には出られません。だから、朝食のときが最後ですね」
「え」
「また明日、お会いしましょう。アキラさま」
リーンは頬を染めたまま、足早に扉から出ていった。
置いてかれた俺は、リーンの真意に気付くことなく腰を上げる。
明日の朝が最後……? なんてたわいもないことを考えながら。
アキラが扉を出ると、審判の間はしんと静まった。
「あの子……やっぱり」
誰もいなくなったはずの聖堂に、誰かのつぶやきが落ちた。




