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35 近頃のアサシン事情

 

 この間の神殿の事件でも分かったことだけれど、リーン家というのは、ただメイドさんを輩出する家ではないらしい。

 刃物隠してたなんて、俺、知らなかったし。


 というか、リーンをメイドって呼んでいいのかすら分からない。

 メイドっぽい格好してないし、メイドっぽい行為も……あんまりしてない。

 一緒にお風呂入ったりしてないし……って何考えてるの、俺!


「さっきから百面相おもしろいねー。で、なに考えてたの? 顔真っ赤にして」

「いいい、いや、なんでもないです!」

「うふふ。当ててあげよっか。リーンちゃんのこと考えてたんでしょー?」


 い、いかん。フェイトがいることをすっかり忘れてた。


 指摘を受けて、ますます顔が熱くなるのを感じる。

 やばい、これじゃ肯定してるのとたいして変わらないじゃないか!

 リーンのことを考えてたのは事実だけど、それ以上のことはバレないようにしないと!


「んんー、隠し事はよくないぞー?」

「な、なにを言って」

「ボクね、職業柄ウソを見破るの、得意なの。隠し事もあばいちゃう!」

「しょ、職業柄ってなんの――!?」


 にっこり微笑みながら近づいてくるフェイトに、俺は逃げ腰にならざるを得ない。

 なんとか叫んだそのことばに、フェイトはしばし目を瞬かせた。

 怪しい雰囲気が一気に霧散する。

 あれ、結果オーライ……?


「言ってなかったっけ?」

「聞いてないです」

「ふふ。そっか。ボクはね、アサシン。依頼を受けて人を殺害する職業だよ」

「え……」

「ランディは冒険家。セシルは騎士。エルリックは何してんだろうね? あの人」


 何気なく言われ、さらりと流されたその重さは。

 とてもじゃないけど。背負いきれない。

 そう思った。


 人を殺す仕事。

 異世界なんだし、地球と違う職業があってもおかしくない。そう思ってたけど。

 これは、俺が抱えるには重すぎる。


「まあ、最近はそういう依頼もなくなってきてて、モンスターに対して技術を振るうことがもっぱらだけどね。……って、おーい、大丈夫?」

「ああ、あの、ありがとうございます」

「そんな顔しなくても、ボクは人殺したことないよ?」

「……え、ほんとに?」

「モンスターとして出てくる人型の敵しか倒したことないなあ」

「へ、へえ」


 フェイトはまた笑う。俺を安心させるように、にこにこ笑う。


「キミは魔術師。ボクはアサシン。それだけだよ」

「俺は魔術師。フェイトはアサシン。それだけ?」

「うんうん。顔色も戻ってきたみたいだね。良かった。ごめんね、驚かしちゃって」

「いや、俺が変な勘違いをしただけだから」


 言い訳をつぶやくと、フェイトはにやにやし始めた。

 こっちの笑みはやばい気がする。


「またまたー。好青年ぶるの、楽じゃないでしょ。もっと素の自分を出してごらんよ」

「お、俺はこれがデフォルトだし……!」

「ほらほら、そんな引っ込み思案じゃ、キャラが埋没しちゃうよ?」


 埋没……。確かにその通りだ。

 現代日本のなかでは、特出することイコール異端になる。

 俺は当然ながら、異端になることを恐れて、普通であることを選んだ人間だ。

 だから、埋没するのも当然のことだった。


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