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3 見知らぬ女性
「あ、あの」
「なんでしょう」
足早にさっきの部屋から遠ざかろうとする彼女を呼び止めたのは、沈黙が怖かったから。
美しい庭園が、目をやる暇もなく流れていく。
彼女の足が止まった。
気付かなかった俺は、そのまま彼女にぶつかりそうになる。
そうなるのをとどめたのは、彼女の腕だった。
なんのことはない。
頼りない俺の身体は、王さまにリーンと呼ばれた彼女によって容易に支えられていたのだ。
いくらスポーツをやってないからといって、女性に、しかもかなり力強く阻まれているなんて。
すごく恥ずかしいことだった。
ほおが赤くなるのを感じる。
「……説明はあとからします。いまは急いでくれませんか?」
赤面したのを知られたくなくて、うつむく俺に彼女はそう言った。
どういうことかと問いただす間もなく、リーンは再び歩き始める。
俺は、柔らかな感触が残る手をしばらく見つめていた。
もう一度視線を上げたときには、彼女の姿はずいぶん遠くにあった。
まっすぐな廊下で助かった。
そう思いつつ、俺は小走りで彼女のあとを追った。