15 フェイト・マール
「だって家名で呼ばないとあの一族は……」
変質者ランディが何かを言おうとした時だ。
急に扉がどんどこ叩かれて、リーンと見知らぬ女の子が顔を出したのは。
ランディの血相が変わる。いつでも余裕そうに見えたこの男が、である。
顔面蒼白になったランディに、女の子は近付いてにっこり笑った。
藍色の瞳がゆるく弧を描く。
「やあ、ランディ。ボクとの約束、忘れちゃったのかな?」
「げっ、フェイト!? なんでいやがる!」
「えへへー。リーンが連れてきてくれたんだよ。彼女、やっぱりすごいよね。隠れてたはずのボクを見つけちゃうなんてさ」
「まさか、マジであの場所で待ってたのか? さすがリーン家……やることが違うぜ」
「それでさあ。ね、ランディ。ボクと話をしない?」
「ああああ、オレは逃げる! じゃあな、アキラ! また今度な!」
「逃がさないよ! ランディ、いい加減にしないとキミを許さないから!」
ものすごいスピードで、男と女の子が扉を蹴破って去っていく。
廊下の遠ざかる姿を見送った俺は、隣で同じように見ていたリーンを見上げる。
リーンもこっちを見下ろしていた。
「はあ。マールさまを連れてくるのに時間がかかってしまいました。すみません、あの男に妙なことを吹き込まれませんでしたか?」
「リーン、まだ一時間も経ってないよ。ところで、マールさんってさっきの彼女?」
「おや、そうでしたか。ええ、フェイト・マールという男性で……」
「男性?」
「……そういえばわたしも直接聞いたことはないですね。すみません、どっちなのかは分かりません」
リーンと話し合って、性別不詳というところに落ち着いた。
リーンは、リーン家の名誉にかけて全力で探します! と言ってくれたが、いかんせんこれは人の秘密にかかわることである。
あまりむやみに騒ぎ立てるべきではない、と俺は思うのだ。




