1 王さまと俺
つまらないある日のことだった。
もう日常となった家の周りを散歩していたら、ふいに足元が光ったのは。
あまりのまぶしさに、俺は目をつぶるしかなかった。
だから、その光ったものの正体が魔法陣だったかなんて分からなかったし、察しようもなかった。
俺は何も知ることなく、前後忘却した状態で――世界を渡った。
「ほっほっほ。術は成功したようじゃな」
俺の意識が急に覚醒したのはそんな声が聞こえたからだった。
がばっと上体を起こして左右を見渡すと、そこは屋内であるらしかった。
白い柱。よく分からない彫像。金のあしらった床……。
直感的に、神殿だと思った。いや、ゲームかCGでしか見たことないものなんだけど。
その荘厳な雰囲気は、俺にその直感を信じさせるなにかがあった。
「よく来た、異なる世界の青年よ」
「だ、だれ……ですか!?」
だれだ、と叫びそうになって、あわてて改める。
少なくとも、知っている人物の声ではなかった。
それに、このしわがれた声。年寄りはいたわるべきという常識から考えても、俺の判断は間違っていなかっただろう。
声の主は、姿を追おうとする俺を後ろからとどめて言った。
「ここじゃよ。若き魔術師、アキラ・シシバ」
「あ、すみませ――どうして俺の名前を!?」
「ふむ。それを話すには長くなるが……よいか?」
俺は一も二もなく頷いた。