☆1話
はぁー。授業ってなんでこんなに退屈なんだろう。早く終わらないかなー。
いちばん窓側の前から3番目の席。そこから外を見ながら時間を潰す。
まあ、今日の授業が終わっても明日も明後日も明明後日も学校あるんだけどね。こんなに退屈な日々の繰り返しがずっと続くと思うと心底イヤになるよ。外も教室も面白いものなんて何もない。ほんと退屈だ。
―キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン
おっ、やっと終業のチャイムが鳴った。さぁ早くここから、この狭い教室という名の檻から出よう。学校自体あんまりすきじゃないんだ。クラスメイトに「じゃあ、また明日ー」っと軽く挨拶してから教室をさっさと出る。
”学校”という社会においていちばん重要なのは人間関係だ。クラスメイトでも教師でも最低限の付き合いをしないとこの社会から容赦なく”削除”される。それだけは避けねばと、私は笑顔と「明るく好かれる自分」を精一杯作る。我ながらバカだなぁとは思っている。しかしもうそれがデフォルトになってしまって解除することが出来ない。いや、ちがうね、ほんとは、本当の自分を他人に見せるのが恐いだけなんだ。
そんな可愛げのないことを考えつつ私―神崎 碧は帰路についていた。しかしどうしたものか…学校から一刻も早く抜け出したかっただけで、家に速攻で帰りたい訳ではない。というかそれは全くの逆で、出来るだけ遅く家に着きたいのが本音だ。
「―へっくしゅん」
なんだろう。いきなりくしゃみが…それに少し寒気がする。花粉かな?いやいや、いまはもう4月下旬だし、私花粉症じゃないし。大方誰かが噂でもしてるのかな。まぁ、いっか!気にしないでおこう。
もう少し歩いていると、私は、不意に眼前に留まった”それ”に目を奪われた。
小さな肢体と愛らしい顔。長い尻尾といまにも「にゃー」と鳴きそうな表情。猫だ!それも珍しい黒猫。
「かっ、かわいいーー!!」
おもわず声を上げてしまった。猫はその声にビビって横道の方に逃げてしまった。
「あっ、待って!」
くーちゃん(さっそく命名)はどんどん細い道を奥へ奥へと進んでいく。私は一心にくーちゃんを追う。さっきまで民家やビルが立ち並ぶ大通りだったのに、細くて暗い道を突っ切って、いつの間にか全然知らない森のようなところに来てしまった。こんなところに森なんてあったんだーそんな呑気なことをボーッと思っている間に、
「にゃん」
と声だけ残してどこかにいってしまった。辺りを探したけどくーちゃんはもう見つからなかった。
ま、いっか、また会えるよ、多分。なんとなくそんな気がする、気がすることにする。さてと、帰ろうk―いや、そういえばここどこ!??!!一心不乱にくーちゃん追っかけてたから来た道なんて覚えてないよ!?えーっとなんか道標みたいのないのかな?某兄弟のように通り道にお菓子置いてあるみたいなのないのかな?
足元を見ても草がびっしり生えてるだけでお菓子はもちろんなんの手がかりもない。他には…といろいろ辺りを見回して見るけどやはり帰り道がわかりそうなものは何もない。ただ木が鬱蒼と生えているだけだ。うーん、困ったなぁ。まぁでも帰りたいわけじゃないから帰れなくてもいいんだけどね。けど、こうしてても何も進展がないのは明白だし、なんとなくの感覚で歩いてみよう。出れるかもしれないし。
…どれくらい進んだかな?いやそれとも戻ってるのかな?
そんなことも分からなくなるほど、いくら歩いても同じような景色が広がっているだけだった。
ふと空をみると、太陽の威力が迷いこんだときより半減していて、もうそろそろ日が沈みそうになっていた。
早くこの森を出なきゃ。そんな気持ちだけが先走ってしまう。暗いのは好きじゃないんだ。
乱雑している木や草を縋るように掻き分けながら進んでいく。早く、早く、完全に暗くなるまでにここを出よう。
そうこうしていると、すでに空はオレンジ色になり、斜陽が私を照らす。
「へっくしゅんっ!」
またくしゃみが…それに寒気もする。あれ、なんだか熱っぽくもなってきた。
朝からなんかダルいなとは思ってたけど、まさか風邪…?季節の変わり目だからかな?それとも……
あれ?視界がだんだん暗くなってきた。
…あぁ、意識が遠のき始めてきたのか。たくさん歩いたから疲労かな?
こんな誰もいないところで倒れたら、風邪と寒さと飢えと孤独で私死ぬなー。…でも、まぁいっか。死んでも。
どうせ…だれ…も…私を…
そこで意識が完全に途絶えた。